第18番 あなたと私、ドッペルドミナント
お魚さん、歌いましょ
歌って踊って水の中
明日もいっぱい笑えるように
お魚さん、踊りましょ
歌って踊って水の中
明日もいっぱい泣けるように
お魚さん、手を出して
おてて繋いで水の中
明日もいっぱい怒れるように
お魚さん、足出して
みんなで駆けっこ水の中
明日もいっぱい誇れるように
「おーい嬢ちゃん達、国の奴らはみんな帰ったぞ。」
自分の部屋に戻って犬くんと話し合いもとい取っ組み合いをしているとおじさんが声をかけてくれた。いや、違うよ!だって犬くんが〜!と私の言い訳をちょっと呆れた笑いで流していく。んぅぇ〜。
「ほらほら嬢ちゃんたちはこっからどうする気だ?」
何故かおじさんは犬くんを撫でながら部屋に入ってくる。なんで犬くんの方もまんざらじゃなさそうな顔なの?犬だから?おわ、一瞬で鉤爪を出して頭を狙って来た。ほんと短気なんだから。
「んー、何にも考えてないんだよねぇ。ここから先マイくんにどうするか聞かなきゃなぁ〜。」
マイくんのこの国での目的も詳しく聞いてないし私にできることあるのかなあ。なんか犬くんがふふんってマウントを取った顔をしてる気がする。絶対気のせいじゃない。私には力じゃ勝てないくせにぃ〜!
「…なぁ嬢ちゃん、口を出しすぎかも知れんが…嬢ちゃんはマイくんとやらと家族なわけではないんじゃろ?おまいさんがマイくんを信用しとるのはわかるが…血も繋がっとらんやつと家族でもないのに一生一緒とはいかんだろ?…人間いつかは自分で立たんといかん日が来る。こんなおっさんの言葉が聞こえにくい年だとは思うが少し考えた方がいいんでないのかい。」
ん、ちょっとグサッとした。確かに私マイくんに頼りすぎかも…?マイくんと出会って半年も経ってないし本当に偶々出会っただけの他人だし。私はマイくんがいないと何にもできない存在。マイくんなんてまだあんなに小さい子供なのに、今の大人の姿に慣れすぎていつもそのことを忘れそうになる。あ、もちろんあの可愛い姿は脳内にきっちり貼り付けてるよ?
でもしっかりして頼れても赤の他人で子供だ。
あれ?なんだか少し寒くなって来た気がする。
ああ、最近が暖かくてすっかり忘れてた。この感覚は久しぶりかも。
私はいつもひとりだ。
そんな今だに犬くんを撫でていたおじさんの手を音が鳴る程強く振り払ったのは犬くん自身だった。私もおじさんも驚きすぎて声が出ない。そのくらい突然だった。
「…こいつらにはこいつらの関係がある。例え善意でも他人が他人の繋がりを突つくんじゃねぇよ。」
ほんの少し背中がゾッとした。初めて出会ったあの日と同じように低く獣のように唸り声を上げる犬くんにおじさんも少し身を竦ませている。
「あ、ああ。確かに口を挟みすぎた。忘れておくれ。嬢ちゃんがあまりに良い子じゃからつい心配になってしまったんだ。」
そ、そんな謝らなくてもいいよ、善意なのはわかってるし言ってることも正しいとは思うし!それに私たちのの関係が他人から見れば意味わかんないのは確かだしね!
おじさんは謝った後も流石に気まずかったのか部屋からそそくさと出て行った。えー…今の犬くんと2人は私も気まずい…犬くんそっぽ向いたままだし…
私も部屋から出ていこっかなって考えてた頃にボソッと犬くんが吐き出す。え?何?
「…気にすんな…マイラスは…多分お前を見捨てない…。」
聞き返しきる前に犬くんに顔面を叩かれたので聞きそびれてしまった。そのまま荒々しく部屋を出ていってしまう。チェッ、誰も彼もみんな素直じゃないなぁ。犬くんなりに気を使ってくれたのはわかってるってば。当分このことをいじれるし、なんならロゼちゃんに話してもいいなぁ。ほんのちょっと嬉しかったのは内緒にするけど。
でも一応予定と目的を考えとかないといけないのは確かだよね。私のこの国での目的…リュケを自由にしてあげたい、とかかな。あとはマイくんのお手伝い?
…うん、ひとりじゃ決められないね!!
ダメだこりゃ。どうせ私に脳みそなんてありませんよぉ〜だ。全部ど〜でも良くなったので地面で大の字になって寝転ぶ。あー、サーシャちゃんに会いたいなぁ。サーシャちゃん寂しがってないかなぁ。二日も経ってないのに私は寂しいよ。会いたい会いたい会いたい会いたい〜。
うわっ、急に体がピクっとして目の前が真っ暗になった。それが眠りだと気がついたのは夢の中に入ってからだった。
ここは…どこだろ〜?
自分の体の存在を感じるし意識もある。ただすっごいあやふやな場所だ。その場でくるりと回転すると水よりも抵抗の無い感じ。もし無重力の場所に行ったらこんな感じなのかも知れない。行ったことないからわかんないけど。普通に息もできてるし。なんで私こんなとこにいるの?
その場で何度もクルクル回ってみる。全然わかんない。
ん?誰か…いる?
私1人だと思ってた空間に誰か居たって急に気がつくの結構ホラーだ。スッゴイびっくりした。だってなんの気配も感じなかったんだもん。誰でもびっくりするよ。にしても…全然見えない。私は目が良いから見えなかったことなんて今までないのにそれは輪郭がボヤけてよく見えない。目を細めてじっと見つめる。かろうじて分かったのは…女の子…?
もっと近づいててみたらわかるかなっと思って水の中を泳ぐみたいに手を動かしたら何か大きなものが目の前を横切った。わっ、また気配を感じなかった。それは両手で抱えても胴に腕が届かないくらい太く大きい海蛇だ。でも全く怖くない。その海蛇は私を囲うように優雅に泳いでその誰か分からないものに牙を向いた。えー、この状況なんなの〜。
いっつも私だけ置いてけぼりなのなんとかなんないかな。
ん?話し合い?終わったの?
ふわふわ浮いてる間に謎生物のやりとりは終わったみたいで謎の子は消えてたし海蛇も透明になって消えた。消えた先にはよく知ってる可愛い可愛いサーシャちゃんがふわふわ浮いてた。
サーシャちゃん!
嬉しくて叫んだけど音にはならなかった。でもサーシャちゃんには聞こえたみたいで眠りから目覚めるように起き上がる。
お姉さん?
サーシャちゃんの声も音にはならなかったけど何を言ってるのかちゃんと分かった。
うわぁ〜夢の中でもサーシャちゃんに会えるなんて嬉しい!
サーシャちゃんの両手を握ってクルクル回る。サーシャちゃんは初め驚いてたけど一緒にニコニコしてくれた。
お姉さん本物?どうしてお喋りできてるの?
キャッキャと戯れているとサーシャちゃんが不思議そうに聞いてくる。…ん?サーシャちゃんにも意識がある?あれ、これもしかして夢じゃなくて本物?サーシャちゃんに本物か聞いたら少し考えたそぶりの後に、あたしはあたしだよ?と返ってきた。うん、この返事の仕方は多分本物だ。
えー、なんで会えたのか本当に分からないけど本当に嬉しい!霧みたいな夢の中でも会話ができれば問題無しだね!
あ、そういえばちゃんとマイくん帰って来てる?リュケも一緒に行ったはずなんだけど。
サーシャちゃんはにっこり笑って頷いた。よかったぁ。ちゃんと逃げられたみたいだ。
サーシャちゃん、申し訳ないんだけどマイくんに私達はなんとか誤魔化せたよって伝えてくれる?リュケも心配してると思うし。
サーシャちゃんはキラキラした目でやっぱりお姉さんは強いね!って何かに1人で納得したみたい。何かマイくんかリュケに聞いてたのかな?私達はもちろん無事だよ〜。
あ、急に意識が覚醒したみたいな感覚。なんとなくだけど夢が覚めそうなのがわかる。えー、短い。もうちょっとお話させてくれてもいいのにとは思ったけど会わせてくれただけでも感謝だよね〜。誰かわかんないけどありがとう!
もう一度サーシャちゃんに近づいて今度は目一杯頭をなでなでなでなでする。ハニカミ笑いがすっごく可愛い。
もうちょっとしたら直接なでなでさせてね。
その言葉にサーシャちゃんは強く頷いて不思議な夢は映画が終わって暗転するように真っ暗になった。
夢の終わりにまた何か映像が見える。暗い海の底で誰かが泣いてる。小さな女の子。ああ、泣かないで、私はここにいるよ。どうしてそう思ったのか分からないけど、私はその言葉を最後に夢から覚めた。
はっ!目を覚ましてキョロキョロすれば私の部屋だ。本当に一瞬、体感では3分くらいだったんじゃないかな。夢でもサーシャちゃんに会えたし気力MAX!なんで会えたのかわかんないけどこれも神子の力なのかな。神子って凄いね。
とにかく私もできることをやりたいな。その場で立ってしゃがんで繰り返す。うん!飽きた!!
結局私にできることなんて少ないなぁ。ゴロゴロ転がることを繰り返してしばらくした頃入り口に誰かが立ってる気配がした。誰?って起き上がりながら見に行くとおじさんがいた。あれ?どうしたの?さっきの言葉なら本当に気にしなくていいんだよ?
それもあるんじゃが…と妙におじさんは口籠った。おじさんの目的は違ったみたいでこちらに向いた時は何か真剣な顔をしていた。
「嬢ちゃん。ここまで嬢ちゃん達を巻き込んじまったことは…確かだ。もし今後ワシが国のもんに連れてかれた時、嬢ちゃんに…一つ言っておかんといかんことがある。」
ん?わざわざ言いにくるってなんだろうな。おじさんを部屋に招き入れて私は話を聞いた。
______________
ため息を吐きつつも俺は2人の神子と話を進めていた。そんな最中に本当にいきなり、糸が切れた人形のようにサーシャがその場に崩れ落ちた。流石に俺も戸惑ったがただ眠っているだけなことはすぐに分かったのでキツネに後は任せて俺は歌の神子と話を続けることにした。歌の神子は急に眠ったサーシャにかなりパニックになっていたが。それもなんとか落ち着かせて話の戻る。…ん?待て、あんたも神子だろう?あんたは眠気に襲われることはないのか?
神子はゆるゆると首を横に振る。
「確かに神子は眠りが大事だと教わっているのです。なので私の睡眠時間はとても長くありますし寝所には夢見の内容をいつでも書き記すことができるように記録係の女官がいるのです。公務の歌の時間の後に眠くなることは確かにありますが、今のサーシャ様のようにいきなり眠ってしまうことは…今のところないのです。」
…そうか。俺はその場で考え込む。確かにサーシャ以外の神子の普通を知らなければサーシャに何か異常があった時にすぐに行動に移せないんだよな。ガイアの国々にある神子についての書記は読み尽くしたが…その中でもサーシャが特異なのはもう明らかになっている。
「なぁ…この国には〈魔女〉は…いないのか?」
いきなりな俺の言葉に神子は息を飲む。
「こ、この国の民にそのような方はいないのです!…昔に居たことはあったようなのですが…その時代はとても酷いものだったと、そう聞いているのです。」
神子の態度を見てこの国の魔女に対しての意識が簡単に察せられる。
「お前らは魔女に対してどんな教育を受ける?恐怖か?畏怖か?災害のようなものか?」
神子は間を置かずに恐怖と答えた。遠い昔にこの国に生まれた魔女が目的もわからず国中で暴れ、数ヶ月後に当時の神子に討伐されるまでに数多の犠牲者を出した災悪があったらしい。それは記実にも記されており、この国に生まれたものは必ず教わる歴史の一つなのだと。
「なのでこの国には魔女はいないのです。…魔女の疑いがある者は皆例外なく国に処罰されます。ただ私が生まれてから魔女の疑いをかけられた者の話は聞かないのです。」
俺は口を噤む。この国は魔女狩りが行われるほど魔女の風評がかなり悪い。つか今どきでもそんな国があることに驚きだ。全然この国進んでないんだな。はぁ、神子としての意見が欲しいが…本当にここで話すべきなのか。
「なぁ、魔女について、あんたらが教わってきたことと違う事実があると言ったら、あんたは受け入れられるか?」
俺の質問の意図を考えているのか少し困惑しているようだ。だがその困惑はほんの少しの間だけだった。
「マイラスは、信用できるお方だと私は思っているのです。長い間身についた常識をすぐに変えるのは…正直難しいとは思うのですが…それでもそれを否定することを私はしたくないのです。」
真っ直ぐすぎる目が俺を刺す。こんなに真っ直ぐだったのは…俺には思い出せないくらい昔のことだ。
「そもそも魔女はそんなに珍しい者でもない。まぁ、神子の次くらいの珍しさだな。」
この狭い空間にいる半分が神子の時点でわかりずらいが…ま、珍しいよな。
「この事を知っているのは俺を含めて5人だけだ。…あんたが、偏見を持たない人間だと判断したから俺は言う。このことを聞いてあんたがどんな判断をするかは任せる。」
神子は一切目を逸らさずにこちらを見据えたまま強く頷いた。
「サーシャは…おそらく魔女だ。」
ひゅっと小さく息を吸う音が聞こえた。神子は大きく目を開いている。そのまま神子は眠るサーシャに目を向けた。
「サーシャ…様が?」
見られていることに気がついてもキツネは無言のままサーシャを寝かしている。
「まだサーシャは神子としても魔女としても安定はしていない。だから断定はできん。それでも、例えサーシャが神子で魔女であろうとなかろうと…サーシャは俺が責任を持つ。ここまで聞いてもサーシャに偏見を持たないなら、魔女について詳しく話させてもらうが…どうする?」
「話してください。」
即答だった。あまりに一瞬に答えられてしまってこっちが呆気に取られてしまうほどだった。
「サーシャ様はお友達なのです。そしてアサヒも、マイラスも、みんなお友達なのです。お友達は信用するものなのです。」
なんで俺まで友達枠に入れられているんだかわからなすぎるが、まぁここまで言うやつを疑う道理はないだろう。
「まず魔女ってのは…
ここで俺の話はマイラス!!の叫びと共に邪魔された。なんか前にもこれあったな…
「夢でお姉さんに会ったよ!」
あまりに笑顔で話すサーシャに俺は言葉を止めた。無理やり今話すことでもあるまい。これもまた神様の思し召し…だってか?
俺は何もない宙を睨んだ。
はいは〜い、引き続き茶番コーナーお盆バージョンだよ〜
今日はサーシャさんのお父様方に来ていただきましょうか。
え?名前?面倒なのでまた今度で(ニッコリ)
育「…?」
実「おや、ここはどこかな?」
お二人さんはサーシャさんもといサルジアナさんもといセラシィさんのお父様な訳ですが…
実「ああ、サルジアナはねぇ、すごく可愛くて小さくてねぇ。リチアが生んだあの晩しか会えなかったけど、僕の中では…いつも、あの小さな手で握ってくれた暖かさが、忘れられないんだよねぇ。」
育「…。」
実「あ、こんな話つまらなかったですよねぇ。すいません、僕ばかり話して…⁈あ、大丈夫ですか?」
育「…っ。」
あら泣いてはるわ。お父様方も独特な方々ですね。サーシャは愛情持って生きてたようで私は嬉しいです。




