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第8番 人魚の国と人間の国



あっぶねぇ…。深く息を吐きながら出来る限りその場から離れる。と言ってもあそこ以外人の気配はないので大丈夫だろう。あの連中が持っていた特徴的な武器は魔水銃か。構造も威力も別物だが根本的な部分は猫が持っていた銃と似たようなものだ。ただ猫のに比べて単純な造りの分水魔法の適正値と魔力が響いてくる代物だ。種族的にも水魔法に系統する道具は使いやすいのだろう。あの連中が何かはわからんが下手なことには首を突っ込まない方がいい。さっさと女を探して帰るか。


「何でこんなとこに…?」


女の余韻を辿って辿り着いたのは崖。その下を覗いても真っ暗闇には何も見えない。心地のいい波音と岩にぶつかる飛沫の合奏が耳に張り付くくらいだ。

とりあえず風に乗って崖下に降りてみるが真っ暗な水面にはもちろん何もない。あの女、まさかこんな場所で水泳でもしてんのか?こんな夜に?流石のバカでもそんなことはしないと信じたい。


「どうすっかなぁ…」


女の余韻は波に揉まれてほとんど読み取ることができない。陸には神子の魔法がかけられているので大型の海獣が寄り付くことはないとは思うがその確率は残念なことにゼロじゃないんだよな。…いや、あの女なら海獣見た瞬間にお肉!って殴りかかるな。船の上でも実際そうだったし。

じゃあやっぱ海獣でも取るために海にでも潜ったか。思った以上に馬鹿だったのかもしれない。


さっき魔法で上げたままだった聴覚が何かの物音を拾った。波音とは違う、規則正しいリズム。人の喋る音だ。かなりの人数が聞こえる。その音を辿って行くと崖の中腹、上からも海の方からも見えない少し窪んだ場所。布のようなもので入り口を隠してはあるが微かに光が漏れている。その布に空間遮断の魔法陣が入ってる。そのせいでここまで近づかないと気がつけなかったのか。そして近づいて行くにつれ分かった。微かに女の余韻が漏れてる。なにしてんだよあの女ぁ…


存在希薄でその中に滑り込む。それなりに広いな。20いるかの人数。おっさんとかジジイとかの集まりで驚きだったのが人間と人魚が3対1くらいの割合で入り混じってる。…うるせえなここ。飲めや歌えや騒げやの宴会のような状態で熱気が凄い。そんな騒がしすぎるこの宴会場のような空間の中でも一際目立つ存在がいる。


「ねぇちゃんいい飲み物っぷりだな〜!!」


「んはぁ〜!!お〜いしぃねぇ〜〜!」


思わず女の頭をぶっ叩いた。やべっ、いきなり頭を前のめりに酒を噴き出した女におっさん達が笑っている。このままじゃ何も出来ないので慌てて存在希薄を解いた。


「…テメェはこんなとこで何やってんだアホ。」


一斉に静まり返った後にざわつき始める周辺とは裏腹に、アホ女は「あれ〜、マイくんどうしたの〜?」とかなり呑気な返事をした。おい、舌が回ってねーぞこら。


「そいつが…嬢ちゃんが言ってたマイくんとやらかい?」


おっさんの1人が酒で赤くなった頬のまま陽気に聞いてくる。普通こんな場所に気配もなく現れたらもっと驚かねえか?他の奴らは何人か酔いが冷めたような顔してるぞ。まぁ飲んだくれてるせいで何人かは夢現だが。


「嬢ちゃんの話を聞く限りじゃそんくらいやりそうな男だったもんでな。」


ガハハと笑いながらおっさんは酒を煽る。この女はまた何を喋りやがった。ヘロヘロで笑っている女の頭を再度ぶっ叩くが反応が薄い。「マイくんがまた叩いた〜」とおっさんの1人にくだを巻いている。誰だこの女に酒なんざ飲ませやがったのは。女からこの状況とおっさん達のことを聞き出そうとしたのだが全然話ができん。何でこいつは力は強すぎるくせに酒にこんなに弱いんだよ!


「おい、おっさん。あんたが一番話が出来そうだから聞くが、お前らは何なんだ?何でうちの馬鹿と飲んでんだ?」


女のことは諦めて最初に俺に話しかけてきたおっさんに事情を聞くことにした。他の連中とは違い静かに1人で酒を飲んでいる。飲む量は静かじゃないがな。


「お前さんはわしらに何かくれんのかい?」


おっさんは酒の合間にニヤリと笑った。


「嬢ちゃんの連れなら少しばかりだけ教えてやろう。嬢ちゃんはわしらの近くに落ちてきたんで助けてやったんだ。そしたらお礼だと言って最近ここらで悪さしとった海獣を狩ってくれたんでな。肉としても素材としても願ったり適ったりじゃったからの。その宴を今しておる。さあ、おまいさんは情報の対価に何をくれるんじゃ?」


やれやれ、こんなめんどくせえ連中の懐にこの女はよく入り込んだな。


「…これでいいか?」


俺はマジックボックスから俺の胸あたりまでのサイズがある樽を三つ出した。


「なんじゃいこれは。」


空間を圧迫するようなサイズの樽を見上げながらおっさんがまた酒を煽る。


「お前ら、ここは娯楽が少ないんだろ?だからこんな小娘の登場ひとつに大騒ぎしてんだ。そんな場所での 酒 はさぞかし美味いんだろうなぁ。」


俺の言葉を聞くか否かのあたりでおっさん達数人がフラフラと立ち上がった。


「ま、まさかおまいさんよ、これは…」


俺に喧嘩を売ったおっさん達の態度の代わり様を俺は鼻で笑う。


「酒だ。第三大陸の国から持ち出した名酒三種。好きに飲めばいい。」


本当はクモに陸交の一つに仕えるならば使えと渡されたものだが…陸交の一つみたいなもんだし問題はないだろ。このままいけば使うか分かんねー代物だったしな。


その瞬間耳が割れそうなほどの歓声が湧き上がった。うるせぇよ!と叫んでも相手も俺もなにも聞こえない。何でさっきまで潰れてたやつらまで大騒ぎしてんだ!大騒ぎしている中には泣いてる奴らまでいるのが怖い。こんな中で起きることもなく寝ている女もある意味怖い。


「おまいさんわかってんなぁ!!酒!!酒じゃないか!!酒だ!!!!」


喜びようの凄まじさに俺は口を挟めない。ピクピクと頬が硬直してるくらいだ。今お前らが飲んでるのも酒じゃないのかよ…


「今日は宴だと言ったろう!こんなの特別だわい!残りの酒は今日飲み干す予定だったが…いやはや嬉しいなぁ!」


わっははははと豪快な笑いが煩い…お眼鏡に適ったならさっさと話とやらをしてくれないか?


「おお、そうだったな悪い悪い。」


こっちこいと酒に群がる男達を放置して俺はおっさんに部屋の隅に連れて行かれた。そこは窓のようなものになっており布ごしには何故か外の景色が鮮明に見えた。まぁどこまでも真っ暗な夜の海だが。


「まずは怒らずに最後まで話を聞くことを約束してくれるかい?あの嬢ちゃんに話した時は最初にいい一発をもらっちまってなぁ。できればこの老体はこれ以上傷つけんでくれると嬉しい。」


何故か嬉しそうに服を捲ったおっさんの腹は痛々しく紫に腫れていた。うちの馬鹿がやらかしたことなのでとりあえず謝罪と回復アイテムのポーションを渡しておく。すまない。


「いや、わしらの存在はややこしいモンだからな。こんくらいはなんともないさ。」


そう言って渡したポーションは飲むことはなく懐に仕舞った。いや、予備くらい渡すぞ。


「この陸ではここまで他種族を見んかったろう。そりゃそうさ。何年前だったか、現皇帝様がこの国に滞在してい他種族全ての民を追い出すおふれを出したもんでな。…そのおふれの少し前に大規模な拉致事件が起きてなぁ、数多の魚人が連れ去られ、数多の怪我人が出た。他種族、特に人間への不満から考えてもその判断は正しいと思うぞ。あれは本当に酷かった。いくつもの家を焼き、攫った魚人の残りの家族は皆殺しっちゅうとんでもないもんだったからな。」


…なるほど、ここの民達の凍てつくような敵意剥き出しの目にようやくガッテンがいった。流石に他種族を歓迎しないとはいえ敵意が凄まじかったからな。この国はそんなことになっていたのか。むしろ神子同伴だとしても俺らの滞在をよく許してくれた方だ。


「そんでなんでわしらがここにいるかっちゅう疑問があるじゃろうな。わしらも追い出される運命じゃったがな、…ワシらはなぁ、子がおるんじゃ。この国の女と結ばれて、この国の血を混ぜてしまった、わしらの可愛い子が、この国におるんじゃ。」


ここの皇帝はこの国の者と結ばれたものですら追い出しにかかったというのか。人間という時点でもう、この国には地雷ということなんだろう。国民からの不満が爆発しなかったのも、きっと地雷が大きすぎたからだ。


「わしらの子には魚人の血が混じっておるからな。奴らはどんなに薄くても同胞の血を混ぜたものは仲間と思ってくれる。それだけがわしらにはまだ有難い。この国に住む人間の女もいたが、女は同胞の子を産み落としたいわば揺籠の存在。同胞の血を生み出した分、男のように追い出されることはなかった。…その扱いは酷いもんらしいがな。そんで子の出来てない若い女子達は何人か引き裂かれて追い出された。少し前までここ第二大陸は観光国として有名だったんだがな。第五大陸や第七大陸はここまでの道のりが航行がしやすい分よく観光客が来ておった。航行しやすくとも事故が起きることは少なくない。あの無理やり追い出された奴らは、無事に帰れたんじゃろうか…」


遠くの暗闇に染まった海を見つめながら目の前の男はもう会うことのない仲間に思いを馳せているらしい。海獣が出没しやすい海域に囲まれているこの大陸だ。きっと何割かの船は…


「…お前らは自分の家族がいるからここから帰らなかったんだろ。ならなんでこの連中の中にも魚人がいるんだ?それにこんな洞窟なんかで過ごしてんのはなんなんだ?」


まぁそんなに焦るでない、また一口酒を煽る。会話が完全に酒の肴にされてんな。


「ここにおる魚人の奴らはわしらが追い出されることに本気で怒ってくれた連中だ。中には嫁や恋人が人間だった奴らもおる。そんな馬鹿な奴らだ。そんな謀反のようなことをすればこの国でどんな扱いになるかなんざわからんでもなかろうに。そうやって集められたわしらはこの国にとってのはみ出しもんだ。」


「そんなはみ出しものがこんなとこで集まって何やってんだ?」


お前さんせっかちじゃな。焦る男は嫌われるぞ、とガハハと豪快に笑う。うるせえ、俺は短気なんだよ。


「ここは昔独房に使われておった場所らしい。目の前に海があるのに水に触れることができん。昔の人魚にとってそれは地獄じゃったじゃろう。」


ほお、どうりで無駄に広いわけだ。…崖中腹に独房か。割と良さそうだな。

お前さんなんか悪いことでも考えておるんか?すごい顔になっとるぞと言われた。表情に出てたらしい。


「わしらは皇帝に条件を出されたんじゃ、この国に居たいならそれを飲めと。わしらに選択肢なんざあるわけがないのにな。」


おっさんが語った条件は三つ。


一つ、この洞窟に住み国民の前に出てこないこと

食い物等は最低ラインは定期的にもらえるらしいがそれは酷いもののようだ。そりゃあ娯楽も少ないし酒に熱狂するだろう。…後でなんとなく持ってきたボードゲームとカードゲームでもやろう。暇つぶしにはなるだろ。


二つ、皇帝に命じられた仕事をこなすこと


「仕事?」


仕事内容に関して今日イチ話しずらそうに口籠った。こうやって話したがらないことにかなり嫌な予感がする。


「皇帝はな、わしらをこの国の悪者に任命しよった。国民があの日の恐怖を忘れんように、他種族への恨みを忘れんように。…わしらは人魚攫いをさせられておる。腐り切った海のヘドロのような生き物だ。」


なるほどな。女が怒った話はこれだろう。あの女は妙に他人のためにキレるところがあるからな。


「仕事っつーからには定期的に攫ってるんだろ?その攫った奴らはどうしてんだ?」


まさか他国に売ったり最悪殺して…

だがおっさんは力無く首を横に振った。


「攫ったものは全て皇帝の手下に渡しておる、どうなったのかはわしらにもわからんのだ。」


おおっと、これは話が変わってきたな。俺はどうも国絡みの話に巻き込まれる傾向があるらしい。

…にしても、この国の者達の様子から攫われた者が無事に家に帰って来ている様子はなさそうだった。だが他国からの人間を制限している今、こいつらが攫った者以外はほとんどいないはず。なのに皇帝が受け取っていた国民は帰ってきていない…うわぁ…きな臭えぇ…


「そんで三つ目の条件。」


三つ、人攫いをしている所を見つかったり国民に捕まった人間は例外なく死刑


なっ、と声が漏れた。例外なく死刑なんざ、そんなもん、全員いつかは死ねと言われているのと同じじゃないか。


「初めはもっとここにも人間がおったんだぞ。はは、3割は捕まったな。」


先ほどのような豪快な笑いはなく力のない笑いが漏れた。こんな狂った場所でこいつらは明日は自分が死ぬ番だと思いながらも、それでもここにいるのか。ここのおっさんたちはとっくに狂っている。


「愛した女と息子がおるんだ。それ以上の理由はいらんだろ。」


愛した女と子のため。そんなものに命をかける感覚は、俺にはもう残ってない。そんなもん俺は忘れてしまった。


「そんで今日の攫いはわしの担当でな、いやぁ、その場面を嬢ちゃんに見つかって殴られたんだ。ガハハ、いい一発だったぞ。」


この女は…またそんなもんに顔を突っ込んだのかよ。


「実はな、嬢ちゃんには感謝しとるんだ。わしが攫いをしとるところを自警団に見つかっておったらしい。わしは嬢ちゃんに見つかって気絶させられておらんかったらもう少しで自警団に捕まっておっただろう。そうなりゃわしの首はとっくに離れておった。ガハハ、わしはまだ死なん運命だったらしい。」


「自警団?」


そういえばこの国に来たばかりの時に皇帝の使いで俺らを迎えに来たおっさんがそんなもんが居ると叫んでた気がする。おっさん曰く自警団というのは今の国公式の兵とは違う国民の中から出た荒くれ者のような集団が勝手にこの国をパトロールしたりしている連中なんだと。あー、俺がここにくる時に出会った奴らが自警団か。ただ俺には荒くれ者の集団には見えなかったし持っている武器も国のはみ出者が持っているものには思えなかった。…これも調べるべきだなぁ。


「そんで嬢ちゃんと自警団の者が揉めている間にわしが海に待機しておった仲間の元に逃げることができたっちゅうことだ。その後何があったかはわからんが嬢ちゃんがそのまま海に落ちてきたのには驚いたがな。意識はあったがかなり背中を痛がっておって大変じゃった。血もでておらんかったし骨も折れている様子はなかったからな。回復魔法だけかけて安静にさせておいたよ。」


うちの馬鹿が本当に申し訳ない…ため息をついてマジックボックスからいくつかのポーションとボードゲーム、カードゲームを渡す。お礼はもう貰っておるがくれるというならありがたく貰おう、とおっさんはかなり嬉しそうに仲間のおっさんにそれらを渡した。またおっさんどもの狂喜乱舞が始まった。


「嬢ちゃんは最初は警戒しておったからすぐに近くの港に下ろすつもりじゃったがどうしてもお礼がしたいと聞かんでな。そんで早く帰るようにと思って今おまいさんにした話をしたらもう一発殴られたんじゃ。またいい一発だったわい。」


この女の本気なら今頃おっさんの腹には風穴が開いてただろうな、というのは言わないでおいた。うちの恥をこれ以上広げたくない。


「そんでも、わしらの話を最後まで聞いて…泣いてくれたのは、わしらにとっては嬉しかった。わしらにはもう先が長くないのは分かっておるしこの狭い場所から出ることもできない。そんな毎日の中でたった1人の嬢ちゃんがわしらのことを思って泣いてくれたこと。残り少ない酒全てを出して宴を開くくらい、わしらは嬉しかったんさ。」


はぁ、この女はまたこんなとこで仲間を増やしやがった。若い女だからおっさんにモテるのはわかるがそれだけではない魅力がこの女にあることは確かだ。これ以上にめんどくさいことに巻き込まれる才能の方が高いけどな。


「なぁ、おっさん。おっさんに未来がないってんならよ、ほんの少し、残りの人生が楽しくなることに…かける気はないか?」


おっさんの目が少し光ったことを俺は見逃さなかった。だがおっさんは首を縦には振らなかった。


「ここには仲間がまだたくさんおる。わし1人では決められん。」


つまりおっさん自身はこの話に乗る気があるんだな。じゃあ大丈夫だ。


「おっさん達はいつも通りに過ごしてくれてればいい。何か特別なことをする必要もないしむしろ欲しいものも持ってこよう。」


こんなうまい話に警戒しない方がおかしい。おっさんは眉を吊り上げて少し身構えた。そのタイミングで女がふらふらと俺の元に歩いてきた。ようやく目が覚めたのか、丁度いい。


「まいく〜ん、なんの話してる〜の〜?」


俺は女の肩を掴んでにっこり笑った。何か分かってない女がキョトンとする。


「お前、今日から当分ここに住め。」


自問自答コーナ〜


Q,犬くん猫ちゃんって名前は本名なのですか?


どうなんでしょう?これは犬猫ンビに聞くべきですね。

イヌネコンビ〜


A,あ゛ぁ゛?

威嚇するんじゃにゃい!

バシッ 痛っ!!

うちの犬が申し訳ないのにゃ。

猫の名前は姫様が付けてくれるまで無かったのにゃ。

実は色々あって動物の名前は全部通り名にゃので本名はそれぞれあるにゃ!でも猫の名前は姫様が付けてくれた大事な物にゃのでみんなにも秘密なのにゃ。ごめんにゃ。犬っころの名前はあるらしいけど知らないにゃ。


とのことですね〜。いつか本編に出てくるかもしれませんね〜。

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