42 許さない
迷路みたいな意味のわからない道をようやく壊して地上に出た。さっきまでいたのはキツネに車で連れてこられた大きな家みたいな建物。私が中を八つ当たりで破壊しまくったので土埃が入り口から出てる。建物全部が崩れてしまわなくて良かったね。
自分達がいた建物を見上げると上の方に銀で模られたマークみたいなのがある。上向きの三角で下の線が緩いカーブになってて、何だろうあれ…ピザの下三分の一を切り取った形みたいな感じ。
そんなことしてる場合じゃないことに気がついて慌てて前を向く。今はサーシャちゃんを探すのが先決だ。
どこに向かったらいいか分からないけどとりあえず適当な方角に向かって走る。肩に担いだマイくんがバッタバッタ揺れるけど許して欲しい。…こんなに揺れてるのに起きないことが少しずつ心配になってくる。マイくんだから大丈夫だとは思うけど、元は小さな子供だからお姉さんな私が心配してもいいよね?
暫く走ると5本の道が繋がる真ん中みたいなところに出てきた。どうしよう、これどこに進めばいいんだろう…世界はどんどん暗くなって夜が近づいてるのをひしひしと感じる。周りも何故かほとんどどころか全く人がいない。昼間は奴隷の人も兵隊さんもあんなにいたのに。焦りがどんどん募る。私一人でどうしたらいいんだろう。何もできない、私は独りで何もできない。
急にひどく心細くなった。怒りも焦りも不安も私を動かす原動力にはなってくれなくて思考も足も突然固まった。私はマイくんが居ないと何をして良いかもわからない。私は…
「おや?あんたどうしたんだい?」
どうして良いか分からなくなってぼんやり立っていた私に突然優しい声がかかる。声が聞こえるまで全く気配がなかったのに何故か驚くこともなく私はゆっくり振り返った。
「マーテル…さん?」
リスタールで食堂をしていた女の人だ。なんでこんなところにいるんだろう。でも、私には他に縋れるものがなかった。
「マーテルさん…あの、あのね、私…」
そんなまともに言葉も出ない私をみてマーテルさんはニッコリ笑った。
「おやおやまあまあ、そんな顔してどうしたんだい。」
優しい声が優しい手が、私を包み込んでくれた。安心したのか目の前がぼやけた。
「サーシャちゃんも、いなくなっ、て…マイくんが、起きなくて…わた、私…」
うんうんと全部分かっているようにマーテルさんは頷いてくれる。優しい目がまるでお母さんみたい。私にお母さんなんていないのに。
「大丈夫、あなたは答えを知ってるさね。」
答えってなんだろう。分からないけど不思議と少しずつ不安がなくなっていく。
頭を撫でる手がくすぐったくてあれだけ苦しかった心が不思議なくらい落ち着いた。
「そこのねぼすけさんももうじき目を覚ますさ。それにさっき凄いスピードで走って行った魔道車なら見かけたよ。」
えっ、魔道車って…!
さっきまで自分達が乗せられていた車を思い出す。サーシャちゃんはきっとそれに乗せられていると不思議と確信した。
マーテルさんが指差した魔道車の行き先には石造りの城らしきものが見えた。あれが、この国の城か。
「ありがとう、マーテルさん。私、行かなきゃ。」
不安も苦しさも収まって今はまた怒りが沸々と湧いてくる。そうだ、こんなところでぼんやりしてる場合じゃない。今この瞬間もサーシャちゃんが1人で大変な目に遭ってるかもしれない。そんな私を見てマーテルさんが微笑んだ。
「ほーらもう大丈夫さ。あなたは強い子だ。行くべきところが分かったならそこに向かうだけさ。私は何も出来ないが、ちゃんと美味しいご飯作って待ってるからね。」
怒りとは違う何かが体を駆け巡る。それは暖かくて何にでもなれそうだった。
私はもう一度マーテルさんにお礼を言って背中を向けた。自分の進む方に向いた時に耳飾りがリーンと響いた。
「行ってきます。」
返事は聞こえなかったけど私は気にしなかった。
自分でもかなり速いと思うスピードで走る。城の近くに来るまで結構早かったな。にしてもマーテルさんにたまたま会えて本当に助かった。会えなかったらもっと動揺したままでこんなに落ち着けなかった。それにしてもこんなところにまで買い出しに来てるなんて、マーテルさんも大変だな。
とあーだこーだ考えていると腕の中でマイくんが動いたのを感じて慌てて止まる。
「マイくん目、覚めた⁈ダイジョブ?どこも痛くない?」
マイくんを地面に下ろして座らせながら体を確認する。かな〜り酷い持ち運び方しちゃったけど…
「い゛っだ…クッッソ、なんだよおい…」
初めは頭を痛がる様子に心配だったけど意識もしっかりしてきたし大丈夫そうで安心した。あ、やっぱり襲ってきた体の痛みは多分私の運び方の問題ですごめんなさい。
とりあえず今の状況を手短に説明する。どんどん顔が険しくなって頭に怒りの筋が浮かんでいくのを見てなんだか私の方が冷静になってきた。
「ほ〜、この俺にそんな喧嘩を売ってきたのか。そーかそーか。」
頭に青筋を立てたままマイくんが笑顔になる。うわっ、今までで一番気持ち悪くて、一番…怖い…。
「おい、今まで言った作戦全部忘れろ。もういいめんっどくせえ。」
はぁ〜、と大きく息を吐きながら頭ボリボリと掻く。この流れはもしかして…さっきから押し込めていた感情が溢れ出すように無性に高揚感が押し寄せる。
「見えるもん全部、何も気にせずにぶっ壊せ。俺が許してやるよ。クソが。」
よっし、そんなことなら得意だよ。両手の指をポキポキと鳴らしながら準備を整える。今すぐに行くから、もう少しだけ待っててね、サーシャちゃん。それじゃ…
「レッツゴー」




