37 このトラップ全然取れないし動けないのすごいよねぇ〜
ん〜、天気は快晴。横には可愛いサーシャちゃんと子供姿のキュートなマイくん。今日も良い一日になりそうだ!と言いたいところだけど、マイくんは昨日の夜帰ってきてからずっと難しい顔をしてるしサーシャちゃんは何だか不安そうだ。私もユエのこと忘れられないからちょっとナイーブさんなのに。
今日にはもうグズリア国に行くのかな〜と思ってたのに明日の早朝に出発、って言われたし正直暇〜。
「マイく〜ん、今日もサーシャちゃんに何か用事あるの〜?」
椅子に座って机の上で頬杖をしながら考え事をしていたのでその椅子をガタガタ揺らす。揺らすと言ってもあとが怖いので気持ち程度にしか揺らせてないけど。
「あ゛〜!!う゛るっせェ!!!」
拳が飛んできたので首を引っ込めて避ける。また私のことを叩いて可愛いお手手が痛くなってもかわいそうだしね。でも怒りの発散ができなかったのがダメだったのか今度はお腹を狙ってきた。ほらぁー、お手手痛いでしょ?
「今日はサーシャいいからどっか二人で行ってこいよ。」
「マイくんは〜?」
「俺は行かん。」
え〜、何かやるのぉ〜?急ぎなの〜?マイくんも行こうよ〜。ねぇ〜。せっかく街中に来たのにぃ〜。
グダグダウジウジ椅子の周りを回る。こういうのは粘り勝ちだ。
あ、大人の姿になった。そして完全に無視を決め込んだ。ブーブー。
あ、そうだ。思いついてしまったので後ろのベッドで私とマイくんを交互に見てオロオロしているサーシャちゃんを手招きした。耳元に小声で提案。ちょっと動揺したのでさらにゴニョゴニョ。ほらほら、楽しいよ〜。あまぁーいお菓子とかぁ〜、可愛いアクセサリーとかあったよ〜。サーシャちゃんも3人がいいでしょ〜?
あまぁーいお菓子のところでサーシャちゃんの目が輝いたのを見逃さなかった。そんな私たちのことなんて気にするそぶりすらしないマイくん。そんな余裕を持っていられるのは今だけだ!よし、いけサーシャちゃん!
後ろからおずおずとマイくんの背中をつつく。私じゃなくサーシャちゃんが突いていることに気がついているのか渋々振り向いてくれた。
「どうしたサーシャ、あの女に何吹き込まれた。」
サーシャちゃんが怯えてるからかマイくんができる限り圧のない喋り方をしようとしているのがわかる。えー、私にはあんなに辛辣なのにぃ。
「あ、あのね、マイラスが大変なのも、私のせいなのもわかっててね、その、あの…」
ああっ、サーシャちゃんごめん。そんなにかわいそうなことになるとは…震える声にちょっと涙目になってる…ごめん〜
「別に俺はやりたくないことはやってない。俺のことは気にしなくて良いから二人で行ってこい。」
ため息混じりでも優しい口調でマイ君がサーシャちゃんを諭す。だけどサーシャちゃんは首を振ってマイくんを見上げた。
「あたし…マイラスとも。一緒に、行きたい。…だめ?」
う゛っ…とマイくんからうめき声が漏れた。おっと〜これはこれは?いけるんじゃない?
「お、俺は…」
何か言葉を探してるみたい。冷たくあしらえばいいのにそんなことはしないよねぇ。マイくんが優しいことを私たちは知ってるもん。
「ねェ〜ねぇ〜マイくんいいのぉ〜?ほらほら、サーシャちゃん泣きそうだよぉ〜?」
サーシャちゃんの後ろからマイくんのほっぺたをつつく。思いっきり頭を叩かれた。うわっ!痛い!何年振りかに痛いと思った!!何か魔法使ったの?
「わがまま言ってごめんなさい…」
そんな私達のやり取りを見て罪悪感でも感じてしまったのかサーシャちゃんが縮こまって私の袖を掴む。その様子が決め手だったみたい。
「…昼まで…な…」
よっしゃぁあウィナァ〜!!マイくんを頷かせるとはさすがサーシャちゃん!!サーシャちゃんの顔もパアアァって効果音が聞こえそうなくらい笑顔になって凄く嬉しい。
「よっしゃ!早くいこっいこっ!!」
もう一回頭を叩かれました…痛い…
「あれ!あれ美味しいんだよ!サクッとした生地に中身のとろとろ果物が甘くて!!」
「あれはツッパだ。小麦の生地に果物の砂糖煮や味付けした野菜、ひき肉とかを入れることもあるな。それを揚げたやつだ。ここらでは定番だぞ。」
と、だるそうに後ろをついてくるマイくんが補足。へ〜、ツッパ?面白い名前だ〜。サーシャちゃんは他の物も食べたいみたいなのでお腹の容量と相談して二人で一個を半分こして食べる。それに加えて私は昨日は食べなかった惣菜系のも食べてみた。お〜、これも美味しい!!ほくほくのお芋みたいなのにクリーミーな甘さがあって濃厚!ちょっと癖のある牛乳みたいな味を感じる。その横では呆れた顔のマイくんがこっちをみてる。私がおすすめしたのにマイくんはいらないと言って頼まなかった。こんなに美味しいのに勿体無い。あ、そうだ。
「マイくん、コレすっごく美味しいよ!」
と自分のを口元に差し出す。ギョッとして止まったマイくんに差し出し続ける。知ってる、私はマイくんが押しに弱いことを知っている!!
最初は頑なに、いい、いらん!と言っていたマイくんだけどじ〜っと見つめ続けると嫌々という感じで一口食べてくれた。おっ!やった!
「ねっ?美味しいでしょ!」
あぁ、とかなんとか適当に返事が返ってくる。んふふ、こうしたらマイくんは食べてくれる、と。
下からサーシャちゃんの目線を感じたので食べたいのかな?と思ってサーシャちゃんにも差し出す。パクッと食べた。か、可愛い…
…でも何だかちょっと複雑そうな顔になってしまった。私のが食べたかったんじゃないのかな?
…あ!もしかして!閃いてしまった私はマイくんの袖を引っ張ってサーシャちゃんの前に差し出す。サーシャちゃんが少し赤い顔でもじもじしてる。大丈夫、行っちゃえ!
小さくサーシャちゃんが自分の分を差し出す。一瞬固まったマイくんだったけど何か諦めたのかゆっくりとサーシャちゃんのに口をつけた。更に頬を赤らめたサーシャちゃんが嬉しそうに続きを食べる。やっぱマイくんにあげたい、で当たりだったみたい。そして何故かついでのようにマイくんに鎖骨の辺りをグーで殴られた。い、痛い…
そんなこんなで私は昨日の流れを辿るようにお店を巡った。ユエのことを上書きしたかったのかもね。でも3人で周るのは昨日と違う楽しさがあったよ。サーシャちゃんとお手手を繋いで歩いてたんだけどいつの間にかサーシャちゃんはマイくんとも繋いでて3人で架け橋みたい。サーシャちゃんはとっても嬉しそうだった。マイくんはなんだか変な顔してたけどね。サーシャちゃんが喜んでるから諦めてね!
みんなで昨日は飲まなかった果物のジュースを片手に道端に腰掛ける。私は黄色いやつ。トロッとしてて香辛料かな?シナモン系みたいないい匂いがする〜。サーシャちゃんは赤いやつでほっぺたも赤くして両手で持って飲んでる。可愛いなぁ〜。その横でそっぽを向いたマイくんは黒っぽい緑。…美味しいの?それ?
「あ、あのね。お姉さんもマイラスも…ありがと。あたしね、すごく楽しい。」
何口かジュースを飲んだあと、小さな声でお礼が聞こえた。恥ずかしかったのかお顔がもっと赤になってる。もう〜、本当にかわいいんだから〜。頭を抱えるようになでなでしといた。されるがままで撫でさせてくれる。マイくんも何か言えばいいのにそっぽを向いたまま。少しくらい素直になればいいのにね。
ん?サーシャちゃんを包んでた腕に何か水滴が落ちた。下を見るとあんなに笑顔だったサーシャちゃんの目からボロボロと大粒の雫が落ちてた。いきなりのことで頭が追いつかなくてパニックになる。え⁈え⁈どうしたの?さっきまであんなに笑顔だったのに、な、撫でたの痛かった⁈そんな私の腕にしがみついてサーシャちゃんは嗚咽が漏れるほど泣きじゃくりはじめた。
「あ、たしはっ…二人に、助けて、もらってっ、今っ楽し、くて、毎日暖かく、て…でも、みんなは…まだ、みんなは毎日、ずっと痛くて、辛くて、苦しくて!…ごめんなさい、ごめんなさい。あたしだけ、幸せで、ごめんなさい!」
泣きじゃくって聞き取りずらかったけど奴隷仲間が今でも酷い扱いなままなことに謝っているのはわかった。違うよ、サーシャちゃんは悪くない、全然悪くないよ。最近は傷跡もほとんど消えて笑顔も増えてきてたと思ったのにやっぱり無理してたんだ…そりゃ、心配だよね。お友達なんだもんね。安易に慰める言葉なんて私は知らない。どうしていいかわからなくてサーシャちゃんを抱き締めてあげるしかわかんない。しがみ付いてグズグズと泣きじゃくるその姿があまりにも苦しくて私も泣きそうだった。
その時マイくんと目が合って泣きそうだった私の気持ちが少し落ち着いた気がした。
マイくんは出会ってから初めて見るくらい、酷く優しい顔をしていた。
「…サーシャ、大丈夫だ。俺もこいつもいる。もうすぐ終わる。大丈夫だ、サーシャ。」
優しく優しく、マイくんはサーシャちゃんの頭を撫でた。ずっとずっと撫でてた。泣きじゃくるサーシャちゃんはいつもより幼く見えて、マイくんはいつもより大人に見えて、私は何だか何も言えなかった。
「サーシャちゃん無理してたんだね。」
私の腕の中で泣き疲れたのか眠ってしまったサーシャちゃんを抱き抱えながら歩く。こうなってしまえばお買い物も難しいので宿に向かう。髪が長いサーシャちゃんに可愛い髪留めとか買ってあげたかったのになぁ、と小物を扱うお店に目をやる。さっきから無言で前を歩いてたマイくんが急に立ち止まった。ん?どうしたの?
踵を返すようにさっさと小物のお店に入る。何か買いたいものでもあったのかな。
待てをされた犬のようにお店の前でボーッとしてるとさっさと入ってこいと手招きされる。え、私も?
あんまり広くないから二、三人しか入れないようなアンティークなお店で奥の机には優しそうなおじいちゃんが座っていた。
「うわぁ〜どれも可愛い〜。」
木彫りのものがいっぱいあって、お花とかうさぎさんかな?可愛い動物の形をしたブローチとか飾りもある。奥のおじいちゃんが作ってるのかな。よくみたらおじいちゃんの服にも五つに先分かれした葉っぱと鳥さんの羽を模したブローチがついてるや。マイくんは何かを物色してる。何が欲しいのかな。なんでか知らないけどロゼちゃんのところを出てからマイくんジャラジャラといっぱい鎖みたいなのつけてるしこれ以上何かつけたら邪魔そうなんだけどな。
私はサーシャちゃん抱えてるし壊しちゃいそうだったからあんまり動かずに目だけでみてた。木の色そのもののやつもあれば何かで着色してあったりもしてカラフルだし見てるだけでも楽しい。でも色々物色してたマイくんは何かを手のひらに乗せてこちらに戻ってきた。サーシャちゃんの前髪にそれを当てる。
「まぁ、これでいいか。」
そう言って奥に戻っていった。え?何が?と困惑してるうちに何かしてきたマイくんに店の外に連れ出される。
マイくんが持ってたのは木彫りの髪留めだった。不思議な形の鳥の羽の下に丸い木の実。ぱっと見りんごみたいな赤い実と青く燃えてるような羽の可愛い髪留め。
「これなぁに?」
そんな私に構わずマイくんがサーシャちゃんの髪を右上でまとめた。手先器用だね〜。可愛い!
「青い羽は不死鳥。赤い木の実はカナロムの実だと言われている。両方ともガイアの象徴だ。サーシャのお腹の痣の鳥も小さな実を持ってるはずだぞ。」
へ〜、気がつかなかったや。でも急にどうしたの?
私の言葉に何だか気まずそうな顔。…あ、もしかして。
「サーシャちゃん、元気付けたかった…とか?」
怒られるかな、と思ったけど何も言わずにそっぽ向いちゃった。
「…いつまでも横でビービー泣かれててもうるさいだけだ。」
と小さな呟きが聞こえて思わず笑ってしまった。少しくらい素直になればいいのに。
「マイくん、ありがと!」
お前に礼を言われる筋合いはない。と、またさっさと先に進んでいく。私もその後ろを少し遅れて追いかけた。




