27 長い長い夢を見ていた気がする
何も見えないけどここがお母さんの腕の中なのは分かる。あったかくて柔らかくて優しい匂いがしてとっても安心するから。お母さんに甘えるように擦り寄る。ずっとここに居たい。目が覚めればまた寒くて悲しい独りぼっち。それならずっと夢の中でこうしていたい。
お母さんに甘える私の頭を優しくて暖かい手が撫でてくれた。
『ごめんね、もう少し居てあげたいけど今はこれが限界。サーシャ、あなたは強く優しい子。あの子達もあなたの力になってくれる。』
ああ、もう少しで夢が終わってしまう。もう少しだけでいいからお母さんの手の中にいたい。
『サーシャ、あなたの周りにはちゃんと家族が沢山いるわ。それに気がつくまでもう少し時間がかかるかもしれないけど、大丈夫、あなたは必ず笑顔になれる。』
お母さんの言う事はたまに難しくてよく分からない。それでも全部大丈夫で何でもできそうな気がしてくるから不思議だ。
『サーシャ、姉に気をつけなさい。』
最後は掠れて小さな声だったけどお母さんは確かにそう言った。
「んぅ…」
小さく唸りながら目を覚ますと外は真っ暗だった。胸元を確認すると卵の入っている小袋はちゃんとそこにあった。とりあえず安心する。どれだけ時間が経ったのか自分では分かんない。何日も経っている気がするしほんの数分だった気もする。
周りを見渡すとベッドが二つと椅子がひとつ。小さな部屋の中で真隣にはマイラスが眠っていた。寝ている姿はどう見ても自分よりも年下なのに自分よりもすっごく凄い人なのは分かる。
隣のベッドは人が使ってた跡はあるけど空っぽでお姉さんの姿が見えない。アサヒお姉さんどこに行ったんだろう…。頭の中にさっきお母さんが夢の中で言った言葉が響く。
[姉に気をつけなさい。]
フルフルと頭を振る。お姉さんのことじゃないと思う。お姉さんに気をつけなきゃ行けないならお母さんが最初から頼るように言わないと思うし。でも他に姉って誰だろう。サーシャには死んだはずの姉しか思い浮かばない。
考えてもわからないことは一回考えるのをやめよう。わかんないことは分かんないからしょうがないかな。
マイラスを起こさないようにそっとベッドから降りて窓に近づく。遠くの空は少しだけ白くなっていた。もうすぐ夜明けなのかもしれない。それならお姉さんが居ないのはきっと朝の運動をしにいったんだと思う。何日も一緒に居てお姉さんは殆ど眠らないことを知ってる。眠くないの?って聞いたことあるけど本当は数日に一回寝るくらいでも充分なんだって。やっぱりお姉さんは凄い人なんだなって驚いた。あんなに怖い森の魔獣も蜘蛛達もお姉さんなら一回殴って倒しちゃう。魔法とか何も使わないのにお姉さんはとっても強い。細かい作業とかは苦手みたいで色々すぐに壊しちゃうけどあたしの事は怪我させないように優しく触ってくれてるのも知ってる。
お姉さんは優しくてとってもいい人。まだ少ししか一緒に過ごしてないけどあたしはお姉さんのことが大好きになってた。
お姉さん早く帰って来ないかなぁ。なんだか起きたばっかりのはずなのに身体が重たくてまだ眠い。でも眠れそうになかった。ここ数日みたいにお姉さんと一緒のベッドで眠りたい。お姉さんは寝なくていいのに毎日私と一緒にベッドに入って頭を撫でてくれた。なんかマイラスに力を弱くする魔法道具?みたいなのもらってるから寝れるよとか何とか言ってた。力が強い事は良いことばかりじゃないんだね。
起きた私の気配に気がついたのか後のベッドでマイラスが動いた。
「サーシャ、起きたのか?」
少し寝ぼけた様子のマイラスは珍しい。いつもあたしより早く起きて動いてたから。
「うん、マイラスも起こしちゃってごめんなさい。」
大きなあくびをしながらまた寝るから気にすんなと横になる。
「体調はどうだ?大丈夫か?」
目をつぶったままマイラスが聞く。
「うん、でもまだちょっと眠い。」
マイラスと2人きりで話す事はほとんどないから何て会話したら良いか少しわからない。
どうして良いのか悩んでるあたしを見てマイラスが自分の隣を指差す。
「眠いんだろ、こっち来い。」
マイラスは少し考えて大人の姿になった。
「あの女とは違うがまぁ俺で我慢しとけ。」
そう言いながらポンポンと布団を叩く。少し戸惑ったけど眠たそうなマイラスに申し訳なくなってゆっくりと隣に行った。隣で体を小さくすると引き寄せるように大きな腕があたしを寄せた。
お姉さんとは違って葉っぱと薬みたいな匂いと少し硬い大きな腕。だけどお姉さんと一緒で暖かった。
「おやすみ、サーシャ。」
なんだか身体から力が抜けてまた眠たくなってくる。
「おやすみなさい、マイラス。」
あたしはまた夢もない世界に戻った。
朝の運動から帰ったアサヒがベッドの上で2人丸まって眠る幼女と幼児を見て可愛さのあまりに膝から崩れたのは言うまでもない。
※マイラスは魔力温存のために眠ったら成人化の魔法は解けるようにしてました。




