10 美味しい鍋だったね〜
いつものようにランニングを終えた後、崖の上から森を見渡す。
今日も風が気持ちいいや。
ゆっくりと登っていく朝日を眺める。
今日でこの世界に来て40日が経った。
時の流れって早いんだね。
あれから何度もマイくんがステータスを見ようとしてくれたけど何度やってもステータスの文字が読めなかった。
自分でステータスチェックできないのかって聞かれたけどできなかった。
そもそも魔法が使えない。全然使えない。
体を巡るオドを感じろとか言われて10日目から練習してみたけどむり。
なんか魔石っていう石を渡されたりもしたけど使い方が全然分からない。
早々に諦めて私は住居を快適にすることに重きを置いた。
その結果!!
私の部屋には何とベッドができました!!
といっても適当に木を組み立てて草を敷いてたところにマイくんがどこかから取り出した布と作った毛皮を敷いただけなんだけど。
実は毛皮が綺麗にできていたのはマイくんがなめし液?に漬けたりなんやらかんやらしてくれてたらしい。適当にやって完成するほど単純な世界じゃなかったらしい。何でもやってくれるマイくんに感謝しかないや。
一応マイ君にも毛皮を一つ渡してある。いらないって言われたけど毛皮作りすぎてかなりの量になっちゃってるんだよね。毎日獲物を獲るもんだから増える増える。
とにかく見た目はちゃんとしたベッド。
マイくんにも作ろうか聞いたらもうあるからいいって言われた。どこで生活してるんだろう?一応気になる。
そういえば一つ発見があったんだった。
この森のあの動く木。とても硬い。多分鉄よりも硬い。
だから私自身で加工することができた。
まず木を切る。お鍋をかき回すようにもらったあの大きいスプーン。めちゃくちゃ丈夫で何をしても折れない。だから最近はもっぱらあれを使って色々してる。
最初は木を折るつもりだったけど全力で素早くスプーンを振ったらスパンッて切れた。このスプーン凄いよね。そこからさらに力技で枝を小さく折ってナイフで加工する。
まあ最初は何度も木屑にしてしまったけどここ何回かようやく形にすることができた。
一番初めに作ったのはお皿。ヤスリがないからガタガタだけど見た目はお皿っぽい。
初めてマイくんにもらったナイフは早々に折ってしまったのだけれど次の日にマイくんが新しいナイフをくれた。
薄青く光っていて持ち手まで繋がってるナイフ。
真ん中に赤い宝石みたいなものがハマっていてとても綺麗だ。
初めは壊さないように恐る恐る使ってた。だってこれ絶対高いもん。でも何をしても壊れなかった。全力で握っても曲がることすらない。だから一回調子に乗って大きい岩に向かって強めに投げてみた。とんでもない爆音が鳴り響いて半径8メートルくらいの地面がえぐれて小一時間マイくんに説教された。
今は首からぶら下げて持ち歩いてる。
私が使っても壊れないものは珍しい。
更に、あのスプーンを使って掘りました。
お風呂!!!
といっても湧き水の部屋の隅に穴を掘って石を敷き詰めて水を溜めるようにしただけ。
入りたい時には水を堰き止めてマイくんに沸かしてもらう。
魔法で沸かすんだけど一瞬で水がお湯に変わる。その様子は何回見ても凄い。
それまで毎日水浴びをしていたのでお湯はとても嬉しい。そのことを言ったらまた呆れた顔をされたけど。
それから毎日夕方にはお湯が沸いているようになった。マイくんが入りたいだけなんだろうけどとてもありがたい。あ、石鹸はマイ君がくれたんだよね。固形石鹸であんまり泡立たないけど優しい匂いがするよ!
そしてマイくん。
身長が伸びた。明らかに大きくなってる。
毎日見てるから気が付きにくいけどそれでも施設にいた子達よりも成長が早い気がする。
成長期なのかな?
痩せていた身体もぷくぷくになってきて可愛さレベルが上がってきてる。
本当に可愛い!!
マイくん自身の教えてもらえないことも謎なことも沢山あるけど深く追及はしない。
私が食べられるものや野草を渡してその対価に毎晩この世界の知識を教えてくれる。あまり人と関わってこなかった私にとってこれくらいの関係が心地いい。
さーて帰って朝ごはんを食べようかな。
そういえば7日目にキノコ鍋を作ってから何故かマイくんがお鍋どころか料理を作らせてくれなくなったんだよね。
どうしても食べたいなら俺がやるとか言ってさっさと食材を持っていってしまう。
あの日の鍋美味しかったのにな。
口の中がピリピリして楽しい感じだった。
あれが辛いってやつかな。
でもマイくんは何故か食べたその次の日、丸一日何も食べずにどっか行っちゃった。なんかあったのかな。
とりあえずその日以来、朝は私がとってきた果物とか焼いた肉かたま〜に魚。ちょっと走ったところに川を見つけたんだよね〜。
昼は各自。昨日の残り物とか自分で作ったやつとか。マイくんがどこか行ってることが多いからそんな形になった。
夜はマイくんが作った料理。
この流れが習慣化してきた。
マイくん凄いよ。料理も美味しいの。
部屋の隅に作った竈門もどきでどこかから出したフライパンというか中華鍋?みたいなやつとか使って料理する。
全部魔法でやるから本当に早い。
空中に食材が浮いたかと思ったら次の瞬間には切れていて軽く浮いている中華鍋の中で勝手に混ざる。
何の魔法か聞いたら全部風魔法の応用だってさ。風魔法だけでこんなことできるのか。
マイくんが凄いのか魔法がすごいのか最早分からない。
そんなことを考えているうちに一瞬で料理が出来上がった。今日は何かを炒めた野菜炒めみたいなやつと何かのスープ。どちらも香草が効いていてとてもいい香りだ。
そしてこれまた私のために大量に常備されているお皿とフォーク。
私が何回も壊すのでマイくんが大量に作ってくれた。空中に浮いた木がスルスルと加工されていく様は見事だったなあ〜
でも今はもう1日に一度壊すかどうかまで大丈夫なようになった。頑張ったからね!!
夜は今日一日あったことの報告会でもある。報告するのは私だけだけど。
変な獣を狩ったといえばあれはどういう魔獣だって教えてくれるし繭みたいなのがあったって言えば素材に使えるから明日採ってきてって言われる。
その後はいつも通りこの世界の話。
国のことを一つ一つ教えてもらおうかと思ったけど12も国があったら無理だ。地道に今いる国から教えてもらう。あんまり覚えてないけど…勉強って苦手なんだよね…
マイくんは夜寝るために各自部屋に分かれる時小さなランタンみたいなのを渡してくれる。洞窟の中は一日中暗いけど部屋には火を焚いてるし廊下(?)みたいな部分には壁に光る石みたいなのが嵌められてる。
だから自分の部屋以外には光はいらない。
このランタンみたいなやつなんだけど中に入った宝石がマイ君が触ると光るふしぎなランタン。魔石って言って魔力を込めると付属された魔法が発動するようになってるんだって。便利だね〜
魔力を込める量で持続時間が変わる。マイ君は丸一日保つくらいの魔力を毎日込めてくれる。やっぱいい子じゃん。
そうそう、最近は文字も教えてもらってる。
初めに言葉がカタコトだった以上に文字もゆっくりとしか読み書きできなかった。
今はだいぶスラスラできるようになったと思う。
色々な話を聞いてふと疑問に思った。
「私、最初から結構怪しい人間だったよね?」
「なんだ今更。」
唐突な問いの意味を考えているのかマイ君の眉が片方上がっている。
「私のこと信用しないって言ってた割にマイくん私の話あっさり信じてたな、っと思って。」
なんやかんやでマイくんは優しい。
でも厳しいことを言いつつ私の話をあっさり信じてくれてたなって思う。マイくんほどしっかりした人がそんな簡単に人を信用しないと思うんだけど。
「…本当に今更だよな、お前。」
またあきれた顔をする〜〜
「最初っからお前にスキル使ってたに決まってんだろ。」
え?
「〈嘘発見器〉ってスキル。
相手が嘘をついているかどうかを見破るスキルだ。お前は一度も嘘をついてなかったからな。」
えー…
魔法使われてたの…全然気が付かなかった。
…まあそれで信用してくれたならいっか。
嘘ついてること何一つないし。
1人で勝手に納得した私を見てまたいつもの呆れた顔になった。
「普通それで納得しねーだろ…」
小声のつもりみたいだったけどごめんね聞こえたよ。納得しちゃったんだから仕方ない!
さあお勉強の続きしよ!!
地面にガリガリと木の棒で字を書く。
木の棒は折ってもいいように横に何本もストックしてある。
勉強方法は簡単。マイ君が魔法の詠唱を言うのでそれを口ずさみながら文字にしていくだけ。
魔法の詠唱をすれば魔法のイメージがちゃんとできてなくても魔法が発動するらしい。
それに魔力の消費も少ないんだってさ。
だから最初はみんな詠唱から入るんだって。子供の頃から大魔法をやろうとすると身体が負担に耐えきれなくて最悪壊れることもあるらしい。詳しく言うと四肢爆散。え、怖い。
私もいつか魔法が使えるようになるのかな。
地面にガリガリと線を重ねていく。
何で魔法使えないんだろう。
こうやって口ずさんでいれば不意に使えるかなって期待してたけど全然ダメみたいだし。
魔法どころかスキルすら使えない。
あーあ、せっかく異世界に来たのにな。
「今日はここまでだな。」
長い詠唱をいくつか書いたところで終了宣言が出た。今日はいつもよりちょっと早いな。
まあいっか。火を消して色々と後片付けをする。
「じゃ、おやすみ!」
私は早々に食事部屋を出て自分の部屋に行く。
まだちょっと寝れないな〜
ベッドの上でゴロゴロしながら唸る。
「ファイア」
指先に集中して魔法を唱える。
やっぱり無理かーー
唸ってみても指先には何の変化もない。
火の一つでもつけられたら楽なんだけどな。
ベッドから降りて地べたに座る。
今日も木を削ろう。
意味もなく削ってできたのは長い棒。
んー、杖っぽい?といえば杖だけどどっちかというと歪な野球バット。
振り回してみると風が凄くて木屑が散らばってしまったのでやめた。
もう寝よう。
寝るためにパーカーとズボンを脱ぐ。
いつも下着姿で寝ているので服は横に畳んで置いておく。マイ君が着替えにはなるだろうってシャツっぽいのとズボンっぽいの、それとワンピースみたいなのを一式くれたので服は定期的に洗えている。
まあ洗うのもマイ君が魔法でやってくれたりするので10分もかからず綺麗になる。やっぱいい子だ。
今度は寝るためにベッドに上がった。
寝れないなーとぼーっとしていたがいつの間にか夢の世界に入っていったらしい。
暖かい。花みたいな匂いがして優しい声がする。上を見上げると大好きなゆり先生。
私は膝の上に乗っていた。そうかお人形でうまく遊べなくて泣いていたんだ。
目の前に散らばった人形の破片を見てまた悲しくなる。
「もうお人形で遊ばない。」
幼い私がグズるように先生にしがみつく。
「…好きなものが壊れるのは悲しい?」
優しく頭を撫でながら先生が聞く。
悲しいに決まってるよ。だって私が壊すのは人形だけじゃないもん。私は誰にも触れないんだ。
「私に触るのも怖い?」
ビクッと身体が強張る。先生に触れるのも怖い。でも先生に触るのがダメなら他に私は触れ合える人が誰も、誰一人として…
「大丈夫よ。あなたはこんなに優しいもの。
自分の力が上手く使えないからって逃げちゃダメ。あなたが何をしても私は離れないし何を壊しても直してあげる。私がいるうちに少しでも人との触れ合いを覚えなさい。私はいつでも貴女の隣にいるわ。」
私の頬を撫でながら先生が呟く
「…私の愛しい子、貴女に神の光あらんことを。…願わくば…どうか…」
ふっと目が覚めた。懐かしい夢を見ていた。
ゆり先生が触れたところがほんのりと暖かい気がする。
ある日突然消えた先生。他の人たちには家庭の事情って言われたけど今ならもう理解くらいできる。先生が私を置いてどこかに行くはずがない。先生は、もう。
それでも涙は出ない。頭と心が別物でどこかでまだ信じて居ないから。
てか異世界に来たんだから2度と二人には会えないよね。ゆり先生、けんじ兄ちゃん。
…いや、元の世界にいても会えなかったか。
私やっぱ捨てられたのかな。
頭の中で黒い想いがグルグル回る。
嫌だ飲み込まれたくない。
私は飛び起きて服を着る。こんな時は動けばいい。走っていれば嫌な考えも浮かばない。
水場で顔を洗ってから外に飛びだす。
まだ高く月が登っている。この世界でも月はあるし地球と同じように欠けたり満ちたりする。今日はまんまるな大きな月が真上の空に浮かんでいる。欠けのひとつもない満月だ。いつもよりも明るい夜。
外に出て数歩踏み出した瞬間ざわりと背中に何かが上った。何?何なの?
何かが来る。わからないけど何かがこっちに向かってる。マイ君を呼ぶべき?いや、そんな時間はない。それに悪いものではない、と思う。ただ不思議な感覚が近づいてくる。
とにかくそれに向かって走った。森の中を突っ切るのは難しい。木とか邪魔だし。でも何故かいつも襲ってくる魔物が今日は襲ってこない。何故かわからないけどその分速く走れるので構ってられない。とにかく急がないといけない気がする。
どこ?
地上?
いや、違う!!
空!!!!
上を見上げて目を凝らすと青い光が見えた。
さらに目を集中させる。
見えた、子供、が青い、いや、青く燃えている鳥に乗ってる⁈
全然意味がわからないんだけど、え?
何だか様子が変じゃない?
飛び方がフラフラしてて危ない…っと思っていたら鳥が少女を包むように燃えて消えた⁈あ、落ちる!
考えるよりも先に身体が動いた。
足に力を入れて一歩、二歩、三歩、と前に足を出すたびに世界が消えていく。
最後に大きく踏み出したその一歩で私は空に浮かんでいた。空中で炎を纏ったその子供をキャッチする。7〜8歳くらいだろうか。幼い女の子だった。炎で燃えているのではないかと思って焦ったが全く熱くない。むしろ暖かくて優しい感じで安心できる心地よさだった。
空中で女の子を抱き抱えたとき女の子が来た方向にチラリと白い何かが見えた。とても大きい…壁…?だろうか。森の先の先の先。また少しだけ胸騒ぎがした。
それは一瞬の出来事で気がつけばまた地面に居た。着地の衝撃で少〜し周りの木が薙ぎ倒されていたがそんなこと気にしてる場合じゃない。全部後で薪の材料にでもするから許して欲しい。
女の子は?意識は無いようだが息はしてる。
よかった、キャッチした時抱き潰したんじゃないかと思って肝が冷えた。
青い炎が少女の身体から少しずつ消えていき最後は首回りにチラチラと残っているだけになった。何で首だけ?と思っていたら力なくだらんと頭が傾いた瞬間に乱れた髪の隙間から首元に何かが見えた。それが何かわかった瞬間私はまたあの勢いで洞窟に向かった。
やばい、これ、あれじゃん。
多分、これは…
洞窟に衝撃が走る勢いで入り口に飛び込んだ。
「マイ君!!!!助けて!!!!!!!」
洞窟が震えるくらい大きな声で叫んだ。
どの部屋にいるかはわからないがこれできっと聞こえる。壁にヒビが入ったが気にしてられない。
部屋の奥から少し慌てたマイ君がすぐに出てきた。
「何だこんな夜中に。何かあったのか?」
冷静に見えるがいつもと違う私の様子に少し動揺しているように感じる。
でもそんなことどうでもいい。
「今、女の子が空から落ちてきて、火が、青い炎に包まれてて、いや、そうじゃなくて…
これ!首!!見て!」
私はしゃがんでマイ君の目の前に女の子を差し出した。
その傾いた首の裏には紫色の奴隷印が刻まれていた。




