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【最終話】今日の夕食はバッタだけかもしれません……

 マイナの裁判から五年の月日が経った――。


 相変わらずウルマリガは良くも悪くも“なんにもない”。ここまで他国から興味を持たれない国も珍しいのではないのでしょうか。共通の悪がいないからこそ、定期的に現れる悪を擦り切れるまで叩き尽くす。人間という生き物の性ですね。

 まぁ、夢とか欲望とかそういう活力も無くダラダラ人生を惰眠のように貪っていたい人にとってはかなりおすすめの国だと思います。皮肉ではなく、本当に思っていますよ。


 ウルマリガといえば、私の元婚約者のゼルファ様。勝手に私を追い出したことを両親――国王陛下――に酷く咎められ、王位継承権をはく奪されたそうです。今は今年で七つになるという第三王子が握っているとか。兄のような阿呆にならないことをお祈りしていますよ。一応。


 後の事は知りません。だって私この国出ましたもん。四年前に。


 本当はすぐにでも出たかったのですが、アルザックから「冒険家になりたいなら三年は下積みで修行しろ」って言われたので渋々と。でも、努力って案外楽しいものですよ。次々と新しい事が出来るようになるのですから。なんだか頭の中にかかっていた鍵が次々と外れていくようで――快感です。


 一年前、冒険家免許獲得試験に合格できた時は付随抜きで人生最高の喜びでした。本当に夢が叶ったんだって。ちなみにアルザックは私の師匠になってくれていたのですが、合格した時に私以上に泣いていました。弟子の合格がこんなに感動するとは思わなかった、だそうです。


 さて、そろそろ張っておいた罠に獲物がかかっているか確認するお時間。もし獲物がいなかったら本日の夕食はなんとバッタ五匹とその辺の山菜だけ。お願いですからかかっていて欲しいものです。


 あ、アルザックから連絡が来ました――何匹かかっていたでしょうか。え? 獲物ゼロ? 本当にバッタだけですの!? ちょっと嘘ぉなんとかならないんですの!? ねえちょっと!!


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「ま、こういう事もあるよ。食えただけマシだ」


「――保存食ありましたよね?」


「ばっか野郎それはほんとになにも食えなくなった時だけだ。まだ抜けてねえぞ。“オジョウサマ癖”」


「分かっていますよ。ですが、今度はもっと多くの種類の罠を仕掛けるべきだと思います。あと三日はこの拠点に滞在しなきゃなのですから」


「おう大正解。ちょーど今釣り竿作ってたところだ。ちょっと手伝ってくれ」


 アルザックの横に座り、見よう見まねで自分用の竿を作る。彼のよりずっと不格好なのが気に入らない。ーー冒険家になって気が付いたのですが、結構負けず嫌いですの。わたくし。


 竿に糸を括りつける作業に集中したいのに、横からの視線が鬱陶しくて仕方がない。以前なら亜麻色のウェーブヘアーをカーテンのようにして視線をバリア出来たのだが、冒険家になると同時に邪魔だからという理由でバッサリ切り捨ててショートボブにしてしまったので、それも出来ない。

 キッと目を細め、強めに言い放つ。


「ちょっと、なに見てますの。私の顔になにか付いていますか?」


「いや、冒険家らしくなったなって思ってよ」


「……へ?」


 いつも揶揄うか試すかしかしないアルザックの思いがけない言葉に、思わず情けない声で答える。彼の表情は、さながら成長しきった我が子との記念撮影に涙ぐむ父親のそれだった。


「初めて会った時はもう『運命に任せっきりでぇ~す』って感じだったのに、今じゃ立派に海を越えヤマを越え――」


「あの時は仕方ないでしょう! ずっと前から決まっていた――宿命でしたので!」


「でも、その宿命はぶっ壊れた」


「だって……突然乗っ取られかけるとは思いませんでしたもん! あんなことありませんよ普通!!」


「……天秤の時滅茶苦茶絶望してたよな」


「流石にするでしょう! 何言っても嘘になるんだもん!! もうなんなんですか!! 折角たまには認めてくださるんだなって思ったのにー!」


「ははっわりいわりいちゃんと認めてるって。免許だって最近ゴールドランクになったばっかだろ? 二年でゴールドはすげえよ。冒険家界隈でも《謎のお嬢様系美少女冒険家》って噂になっているぜ?」


「で、ですが……あなたの《マスターランク》にはまだまだ及びませんよ」


「そりゃ歴史が違うだろ歴史が! そんな簡単に追い付かれたら俺もたまんねえって――まぁ、冒険家は飢えてなんぼだ。自分の欲の為、危険を顧みずに突っ込む狂った精神力! これあっての職業だからな。それに関して言えばおまえの飢えはモンスター級だ!」


「ちょ……そんなはしたない風に言わないでください!」


「なんだよいーじゃねえかモンスター級。今もきっと暴れてるぜ、『ツギノボウケンハドコダー』って」


「ほんっとにデリカシーってものがありませんね。もう少し言葉を選んで――」


 マイナの説教が遮られる。ぐぅという、自分のお腹が鳴らした音で。


「……それが、お前が選んだ言葉か?」


「もう知りません!! 勝手にやっててくださいまし!!」


 火山のように顔を赤らめ、飛び上がるように立ち上がる。ーーもうこれでお別れです! 一生バッタでも食べていなさい!!


「なんだよったく。ちょっと揶揄っただけで……腹減ってんならバッタチップスでも分けてやろうと思ったのに」


 そんなもの要りませんわよ! なんて言う気力も無かった。ーーそうじゃなくてもっとなにかあったででょう。もう絶対戻ってやりませんわ。さようならアルザック――。


「――っておいマイナ!! おまえの竿魚かかってんぞ!! うおでっかなにこれ!!」


「え、まじですの! ちょ持ってて私が釣り上げますから! 引っ張んないで持ってるだけにして!!」


 身体の向きを百八十度変えたマイナが、猛突進で巨大魚を捕らえた竿を力いっぱい引っ張る。


「絶対頂きます!! 骨も出汁とかにして満遍なく頂きますわ!! ですから……ですから釣れろぉおおおお!!!」


「……やっぱモンスター級じゃねえか」


 ウルマリガと違って、冒険家とは平和とは程遠い世界だ。

 自分で動かないと夕食バッタだけになるし、照り付ける太陽だって砂漠の下ではただの魔王だし、小鳥が旋回していればまず捕獲できるか考えなきゃいけないし、家畜の肉思ったより高いし――。


 それでも、これが自分の夢だった。アルザックと出会うまでは絶対に叶わないと思っていた、夢の向こう側にある光景。

 本当に刺激ばかりの毎日だ。大きい魚がかかるだけで、ここまで感情を剥き出しに出来るのだから。


 冒険家マイナ=ファルナスタは、結局アルザックに手伝ってもらって釣り上げた巨大魚の肉を素手でかぶりつきながら、そんなことを考えていた。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 ウノトット=アボブー島――ウルマリガ王国から丁度裏側に位置する、ウノトト民族の住む孤島――



「ウノト! ウンノトト!! ボブボブフンノ!! ※訳《おい、獲物は何処へ逃げたブフンノ!》」


「ウノフッ! フホフホ……フン!! ※訳《すまねえ、逃しちまった……》」


「ブヒー! バッブボバボバ!! ビギギギブヒィィイイイ!! ※訳《てめえ何やってんだコラア!! 逃がしたらまた飯食えねえじゃねえか!!》」


「フン。バフバッホフンネ。※訳《ふん、だらしないですね、貴方たち》」


「ルミィフーム!! ウ、ウナウナウンドフンバボグボガンマブッヒ! バンボス!! ※訳《る、ルミィの姉貴!! そ、そこに倒れているのは……さっき逃したはずのマンモス!》」


「フンザベンガガルソウンネ、ウンガバ。バンガブヒバフンモガンモ。 ※訳《あまりにも遅いので私が狩って差し上げましたわ。さあ、戻って頂きましょう》」


「ビッヒフウウウ!! ルミィ!! バルバルフン!! ウンガフンガ!! ※訳《さっすがー! ルミィの姉貴! 一生付いていきます!!》」


「ハンブクフンバマンガババ。ヴィバボッブウナナモルガ、バンボス。 ※訳《早く帰りましょう。マンモスの肉は皆で食べるのが一番おいしいですからね》」


「ウイィイイイイイ!!! ルミィイイイ!!! ※訳《うおおおおお! ルミィ姉貴ィイイ!!!》」

本話で最終話となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!


乞食のようですみませんが、もし少しでも良かったなと感じ、尚且つ指を動かすお手間をかけてくださるのであれば、評価ポイント ブクマ 感想などのアクションを頂ければとてもとても励みになりますので、是非よろしくお願いします!

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