第9話 ◆ピコーン(ステータスアップのお知らせです)
僕らは、2人が乱獲したギカントボアの後処理をしている。
「2人ともどうしたの? チラチラこっちを見てさ、凄く嬉しそうだよ」
「だって、ワンちゃんがニコニコしていると、私らも幸せな気分になるぎゃ」
エブリンは首をかしげてクネクネ。
「えっ、そう? 僕ってそんなにニコニコしている?」
「はい、もうユルユルですよ。うふふふふ」
イオナもニッコリしている。
「でもさ、あれを見たら、ユルユルにもなるよ。スキルのひとつがレベル2に上がっていたんだよ」
【テイマーの愛《2/神》】
「キタよ、来た、きたぁぁぁああぁぁぁああ。ついにキタ! 待ちに待った、スキルのレベルアップだよ」
嬉しすぎて、ガッツポーズを何度もとる。
「ギルドで使い続けたのに、5年間ウンともスンともいわなかったんだよ。それが遂にだもん」
――テイマーの愛《2/神》【従魔への影響力。互いの愛が深ければ、その分奇跡がおこる】
「従魔との愛ですか。うふっ、それは嬉しい響きですわ」
2人とも僕が感じた同じ事を、思っているみたい。
「僕ね、このスキルが1番最初に上がった意味が、なんとなく分かったよ」
静かに2人は聞いている。
「僕はテイマー、従魔を操るジョブだ。その自分の手足になる従魔が、制御不能では進むことさえ、ままならない。
僕の想いを伝え、そして2人がそれに応えたいと考えてくれるから、良い関係でいられるんだ」
「「はい、私達もその思いです」」
「うん嬉しいよ。だからこそ【テイマーの愛】のレベルアップとして、表れたんだと思うよ」
嬉しさで言葉が途切れない。
「スキルがあるから、強くなったんじゃない。大事にしようとしたから、レベルアップしたんだよ」
だからこそ、更に次のステップに移れるんだと思う。
今回の事で互いに成長したってことか。
技術だけじゃなく、心の繋がりが強くなって良かったよ。
愛かぁ。よぉし、これからも実践しなくちゃね。
「ねぇワンちゃん、血抜きはこれでいいぎゃ?」
「うん、上手だよぅ。その調子ぃ~」
「マスター、運ぶ荷台はこんな大きさでいいですか?」
「丁度いい具合だねぇ、助かるよぅ~」
「ワンちゃん、お腹すいたぎゃ。少し焼いてもいいぎゃ?」
「沢山あるんだぁん、遠慮をしなくていいよぉ~」
うんうん、従魔への愛の表現、ちゃんと出来ているはずさ。愛で奇跡は起こるのさぁ。
そうやって意識して行動すると、2人の動きも、また違って見えてくるよ。
とっても愛らしい、どんどん従魔の事が好きになっちゃった。
「それはそうと、ギガントボアの数多いね」
「はい、お恥ずかしいですが、30匹になります」
「とても解体できない量だし、運ぶのも一苦労だよ」
「ワンちゃん、心配しなくていいぎゃ、こんなの軽いもんだぎゃ」
エブリンはあの細腕で、軽々と引っ張っている。だけど、酷使しているみたいで申し訳ない。
「ありがとう、助かるよ。なんとかして冒険者ギルドへ持っていこうか」
あそこなら解体を含めて、高額で買い取ってくれるし、今後の計画もたてやすい。
荷造りも一段落して、みんなで腹ごしらえをする事にした。
「おっにく、おっにく、お肉~♪」
さっきは食べ損ねたからね、一段と焼ける匂いがたまらない。
エブリンはサンドイッチを食べたからまだいいけど、僕こそ空腹でクラクラするよ。
イオナもクンクンして、ヨダレをたらす。
「うーん、ビジュアル的にちょっとないかな」
「えっ、私ですか?」
別に誰ともいっていないけど、イオナ自身に心当たりがあるみたい。
「うん、ちょっとね」
エブリンはまだ小さいから、ワンパク感がでるけど、さすがにイオナのそれはダメだよ。
大人なんだからヨダレは、ねっ。
「だって、私も任務のため何も食べていなかったんですよ。もうペコペコです」
イオナは匂いを嗅ぐのを少し抑え、つらそうに話している。
「任務? イオナはお仕事中だったんだね」
それを放って、僕についてきて大丈夫かな。
いや、そんな心配よりも今はお肉か。
「はい、里を荒らしたワイバーンを駆除するため、こちらに来ました。ヤツは強敵で、何人もの犠牲者が出ておりますの」
怖い話になってきた。
「えっと、こっちの方向に逃げて来ているの?」
「はい、血の痕跡を発見しましたので、間違いありません」
イオナはもう少しだったと、悔しそうに話す。
「なんか嫌な予感がするよ、お肉どころじゃなくなるかも」
「マスターは気にしすぎですよ」
「いやいや、手負いワイバーン、焼けるお肉、追いかけてきたイオナ。揃いすぎだよ」
嗅ぎ付けられる前に、サッサと食べた方がいい。3度目のおあずけは嫌だもんね。
「2人も食べるよ、じゃあ、いただきまー」
「アンギャアアァァァァァアアァァァ!」
「ウソでしょーーーー。もう少し待ってくれても良いじゃないか!」
いや、まだ間に合う。ひとくちだけでもガブリと食べてやる。ハグッ。
「お、美味しい。さすが高級肉のギガントボアだ。弾ける肉汁に、溶けてなくなる柔らかさ。
生きている時の固さが、微塵もない。はぁ~、幸せだ」
アトひとくちだけと、クチをあける。
「もぐもぐゴックン。ワンちゃん、ぼーとしていたら危ないぎゃ!」
見上げると今度は空に黒い影。それがグングンと迫ってくる。
ヤバッ、これに衝突されたら命がないよ。
エブリンに腕を引っ張られ、すんでのところで回避した。
僕たちのいた場所に、ワイバーンが翼を羽ばたかせて舞い降りた。
「お、おっきい。なんて迫力があるんだ」
翼を広げると15㍍以上。黒っぽい爪とウロコが鈍くひかる。
そして、鋭い牙からヨダレを滴し、僕たちに狙いを定めている。
『ようやく見つけたぞトリ人間。我への不遜な行い、報いを受けさせてやる』
どうあっても、この危機は避けられない。ふって湧いたこの災難に、立ち向かうしかないようだ。