第8話 ギャン泣き
「マスター、不束者ですご、よろしくお願いいたします」
シャナリとお辞儀をするイオナ。
たった1時間のあいだに、2人のネームドモンスターをテイムできた。
「こちらこそ、よろしくね」
前代未聞のこの偉業。ただでさえ出会う事が難しいネームド。他人が聞いたら驚かれること間違いない。
「それにしても2人ともスゴイ実力だよね」
しかもその2人はまだ若い。
ギルドメンバーの従魔でさえ、長年成長させてやっとA級の従魔だった。だからこのアドバンテージはかなり大きい。
「エブリンは物理戦闘力がS級、イオナは魔法戦闘力がAAA級かぁ。
S級といえば、ドラゴンクラスの強さと同等だ。敵からしたら、これはたまったモノじゃないよね」
「えへへへへへへへっ」
体をくねらせ照れるエブリン、モジモジとさせるイオナ。
で、その主である僕はと言うと、そう見劣りしないと思う。
「はい、存在感だけでも伝わってきます」
イオナのこの熱は入りすぎかもね。
まだまだ発展途中でスキルはレベル1だけど、潜在力は全て神。
いまの時点でも、他のテイマーの軽く10倍以上の効果を発揮できるんだ。
そして念願の従魔も仲間になったし、やっとスタート地点に立てたよ。
名前:ワンダーボーイ
ジョブ:ネームドテイマー
物理戦闘力:F
魔法戦闘力:D
加護:ラケシスの寵愛(運命の神により、全てのスキルに恩恵が生じ、その効果が10倍になる。不屈、勇気、博愛を元にその範囲は変動する)
スキル:能力アップ《1/神》 スキルアップ《1/神》 会心率アップ《1/神》 慈しみの風《1/神》 テイマーの愛《1/神》 状態異常(回復、付与率)《1/神》
(上限神=最終的に神のレベルまで行使できる。成長率も高水準)
「と僕自信の強さよりも、サポートに特化したテイマーらしい能力さ」
「偉大です、マスター。背中で感じる安心感、まるで太陽の如くです」
「おぉ、ワンちゃんの凄さが分かるとは、中々やるぎゃ」
笑顔で会話が弾んでいる。
さっきまで殴り合っていたのに、友情が生まれたのかな。それとも従魔のつながりを感じたのかも。
「2人ともこれから、よろしく。2人が協力してくれれば、なんだって出来そうだ」と、僕。
「まぁ、エブリンが先輩、分からない事はなんでも聞くぎゃ」
「大丈夫よ、ゴブリンごときに教わらなくても、マスターをしっかり支えます」
「プッ、負けたクセに偉そうだぎゃ」
「なんですって、やるって言うの?」
「うぎゃ、可哀想だから、もう一度勝負してやるぎゃ」
えぇぇぇ、せっかく良い雰囲気だったのにぃ。
ギリギリと睨み合って、止める間もない。
「ちょうどここはイノシシがいるわね。どっちが強いか分からせてあげますわ」
2人は数の勝負だといい、ギガントボアを追いはじめた。
「セイントトルネード! ふふっ、2匹ゲットです。おや、そちらはまだのようで」
「エブリンパーンチ、串刺しで並んで、キーック。ふん、これでリードだぎゃ」
「むぎぎっ、負けませんわ。セイントサンダー」
ちからのエブリン、魔力のイオナ。どちらも譲ることなく次々と狩っていく。
だけど、2人とも超弩級の実力なんだよ。
張り切れば張り切るほど、その余波だけで、周りの自然がメチャクチャに、……ああ、ああ。
「ちょっとダメだよ。2人とも止めるんだ」
野生動物はいち早く避難を始めている。しかし、動けない物はこの災難を受け入れるしかない。
「うりゃー、連続パーンチ」
「むむ、あそこにまだ1匹がぁ!」
どうしよう止まらない。絶対服従かと思っていたのに制御がきかないんだ。
動く度にどんどん何かが壊れていく。
ああ、そっちに行ったら秘密の薬草の森だ。
他のみんなも困っちゃう、これ以上はダメだ!
「コラアアアァァアアーッ、いい加減にしないかああああああああああああああ!」
「「ヒィイイイイッ!!」」
自分でもびっくりするぐらい、大きな声が出た。
ようやくだけど、なんとか止める事が出来たよ。2人は小さく縮こまり、もうこれ以上の破壊の心配はない。
「でも見渡す限り、はぁ……悲惨としか言えないよ」と、ため息がでる。
地形は崩れ、川の流れは曲がり、木々はなぎ倒されている。
「これだって樹齢百年を超えているよな」
彼女たち2人は貴重なネームドモンスター。
でも契約者の命令を聞かず、暴走するなら手に負えない。
辛いけど、これは決断をしなくてはいけないかもだ。
「えっ、ウソだぎゃ。解消するなんて言わないで欲しいぎゃ」
「申し訳ありません、マスター。私も調子に乗ってしまいました。お許し下さい」
くっ、2人ともウルウルと上目遣いで見てくる。こ、ここは許してあげた方がいいかな。
だ、ダメだ、心を鬼にして……えっと、鬼にしてだよ。
「いいや、君らのせいで壊れなくていい自然が台無しだ。ここで住む動物にとっては、無慈悲な暴力でしかないんだよ。僕は心底呆れたよ」
「ごめんなさい、私、ワンちゃんが大好きだぎゃ。だから捨てるなんて言わないで」
「私もマスターなしでは生きていけません。2度と暴走しません、命令はなんでも聞きます。だから、ソバにいさせて下さい」
「ううっ、イオナとも仲良くするぎゃ。だから、許して。うっうっ、うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁんんん」
「お願いだから、捨てないでぇぇ。びぃいいぃぃえぇぇぇえんんん!」
「うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁんんん!」
「びぃいいぃぃえぇぇぇえんんえんえんん!」
むぐっ、泣かしてしまった。
ふたりは散々泣きに泣き、倒れた木々をおこし、傷ついた動物を癒し、そして疲れはてた。
僕がしろと言ったのではなく、自分たちで始め、それを僕が見守った。
「うっうっ、ごめんなさい。これ以上は直りません」
「えっえっ、えぐっ、わ、私も無理だぎや」
「そうだよね。壊すのは簡単でも、育むのは大変なんだ。自然は大事にすれば、とても大きく立派になる。森はそうして作られるんだよ」
「「はい」」
2人とも根は素直で純粋だ。叱った自分が怨めしい。
「今日のことで僕も反省をした。そしていい目標ができたよ」
今回は出会いのタイミングと、僕の支配力が足らなかったのが原因だ。
「だから、僕たち3人の仲も、しっかりと大事に育てよう。またこんな悲劇は起こさないよう、僕にしっかり付いてきてくれるかい?」
「「もちろんです、愛しのご主人さまぁぁ」」
2人してガバッと抱きついてきた。
圧力と涙で僕の体はめちゃくちゃだよ。
「「良かった、よかったよ。うわぁああぁぁああぁぁぁあんんんんん」」
手間のかかる2人だ。でも、この様子だと、これからは安心出来るかな。
でも、本当に良かったと思っているのは、僕の方だ。
2人の涙に感謝します。
◆ピコーン(ステータスアップのお知らせです)
「えっ、えっ、なになに。何の音? 初めて聞く音が、頭の中で響いたよ」
「「どうしました?」」
突然の事で、身体が縮こまり固まってしまった。
「しかも、『お知らせです』だなんて言葉まで……。でも、悪いことじゃないよね?」
僕は期待と不安のなか、恐る恐るステータスオープンをかけてみた。