第7話 その頃のトランプ(ざまぁ)①
ワンダーボーイを追い出した直後のテイマーギルド内。
新ギルマスのトランプは、新たな問題に悩まされていた。
それは従魔宿舎は混乱をつづけ、従魔が暴れまくっているのだ。
標的はギルマスのトランプ。日頃のうっぷんをぶつけられている。
「痛ったぁぁあぁあ。クソ従魔どもめ、やめんか。これ以上は許さんぞぉぉお」
トランプは怒るが、従魔たちに弄ばれている。
やっと従魔の通訳も駆けつけ、少しだけ静かになった。
「トランプさん、彼らはワンダーボーイを追い出した事に怒っています。謝罪と撤回をせよとのことです」
トランプは耳を疑う。
ようやく邪魔者がいなくなったのに、それを戻すなど不愉快だ。
「あんなクソ人間に同情をするな。偉大な俺様がいれば充分だろ」
『クソ人間はお前だろ。前ギルマスだって次のギルマスは、ワンダーボーイくんにって言っていたのに、なんでお前がなっているんだよ』
『そうだ、そうだ。不正ばかりして、金がそんなに大事なのか？』
「と言ってます」
「な、な、何故それを知っているうぅぅぅう？ はっ、ちがう。断じて事実無根だ、俺が託されたのが真実だ。そんなウソ、恥を知れぇぇぇええええ！」
トランプは焦った。
ワンダーボーイが後継者に指名されたのは、真実だ。
しかしその時、周りには誰もいなかったが、従魔たちが聞いていた。
そして、それを従魔たちは喜んだのだ。なのに。
『それを隠しやがってぇ、卑怯者め。この、この、このー』
「だそうです」
トランプの尻を咥え、右へ左へと振り回す。
「ぎゃああぁぁぁあ、クソッ、また尻を！ 全てワンダーボーイの責任だ。アイツは絶対許さんぞぉぉぉおおぉぉ」
～思い起こせば、次期ギルドマスター選出が発端だ。
先日引退した前ギルマスが、後継者を指名した。
トランプは自分が選ばれると確信していたが、予想を裏切られる形となり、焦っていた。
「指名は絶対ではないが、影響力は大きい。なんとかしないと」
ただ幸いなことに、この話を聞いていたのはトランプのみ。
それを確信すると、『わかりました』と安心させ、前ギルマスには早々に田舎へ引っ込んでもらったのだ。
「あれからは大忙しだったわい」
ギルド役員に賄賂を贈ったり、人を雇って脅しもした。当然、王族にも取り入った。
「どれだけ出費したことやら。しかし、神は私をギルマスに選んだのだ」
そして仕上げに、邪魔者のワンダーボーイを追い出して、その地位を盤石にしたのだ。
それなのに、ヤツを連れ戻し謝れという。受け入れるはずがない。
～と言うことである。
「あんな無能で嘘つきのドコがいい。それにヤツは自分から出ていったんだ」
『嘘つきめ。お前が酷い事を言ったのを聞いているんだ。あれじゃあ、ワンダくんが可哀想だよ』
『そうだ、そうだ。僕らのワンダくんを返せ』
「と言ってます」
「はあ？ お前らなど嫌っていたのだぞ。それが証拠にアイサツもなかっただろうが」
元来、下に厳しく上に媚びへつらう性格。
下であれば、どんなウソも平気である。
しかし。
「おい、今の言葉は聞き捨てならんのぅ。もう一度言ってみろや」
「と、おそれ多くもマンティコラの旦那が仰っています」
出てきたのは、人語を操る風格たっぷりの従魔の古株だ。
「ワンダくんが嫌っていただと？ なぁ、トランプよ。テメェ～死ぬか？」
「と、仰られています」
睨まれ、警戒音が頭の中で鳴り響く。逆らうべき相手ではないと。
元来、上には媚びへつらうタイプ。慌てて訂正し、五体投地。
「素直じゃねぇか。だったら、こいつらにもちゃんと謝罪出来るよな？ それと通訳、ワシのは訳さんでええど」
「と、仰りますか。とほほ」
その相手とは、病気なのに無理をさせられたグリフィンと、鼻面を殴られたユニコーンだ。
2体はトランプを睨みつけ、無言の圧力をかけている。
「うぐぐぐぐうぅぅうう、クソ従魔どもめ」
だけどトランプに謝罪は出来ない。
なぜなら2体は格下だからだ。頭で分かっていても、体がいう事をきかないのだ。
元来、下にはトコトン厳しい男。しっかりとした信念を持っている。
だが、マンティコラの目が怖い。
一世一代の大芝居だと考え、うって出た。
「ぐごごごおぉぉ、この度はー、俺に非はないのだが、その可能性もあるかもで、ぐぐぐっ。謝罪しろと言うのなら、その気がないこともないとだけ言っておこう。ふぅ、ふぅ、はあーーー。どうだ、これで気が済んだだろ」
トランプによる、これが精一杯の謝罪である。
『おい、それのどこが反省しているんだよ、ふざけんな』
『マンティコラさん、俺らこんなヤツ許せませんよ』
「ゴラッ、トランプ。ようもワシの顔を潰してくれたのぅ。死ぬ覚悟できとんじゃのう？」
「ヒィィイイィィイ！ ちゃんと謝ったじゃないか、何が不満なんだよぉぉ」
泣きながらわめくが、従魔が納得するはずもない。
謝っているのか、煽っているのか、どっちだよと非難の嵐だ。そして、遂に不満は頂点に達した。
『もうこうなったら、ストライキだ。にせ者ギルマスの横暴を許すな』
『そうだ、そうだ。我らのワンダくんを取り戻そう』
「ギルマス、ストライキはマズイです。信用と収入が落っこちます。違約金も出てきます」
「それはダメだ。命令だあああぁぁ、仕事だけはしやがれえぇ。後生だよ。謝るかもしれない、本当にだ。仕事をしてくれたら、ちゃんと謝るつもりがない事もないからあああ」
この期に及んで、まだこんな姿勢で泣きわめき、床で暴れまわっている。
それを見た従魔たちは呆れ、もう相手にもせず去っていった。
『心底、軽蔑するよ。にせ者ギルマスさん。もうアンタはおしまいさ。グッバイ、お疲れちゃ～ん』
自分勝手なトランプは、それに気づかずに、ずーっと声の枯れるまで叫び続けた。
「たーのーむーからぁぁぁああぁぁあ、仕事だけはやりやがれえええええぇぇぇえ」
そこに誰もいないのに騒ぎ続けている。ご苦労な事だ。
