第4話 強いぞエブリン、凄いぞエブリン
「おっにく、おっにく、お肉~♪」
「お願いってご飯かよ。構えて損したよ」
ギガントボアの前で、少女が小躍りをしている。
「それにしても、スゴい事がおこったよなぁ」
僕はさっきの事を思い返した。
こんな華奢な子が、たった一撃で大物を沈めた。
しかもその正体は、ゴブリンのネームドモンスターだなんて。
「マジで強いし、物理戦闘力は超弩級のS級だし、知らない間に僕の従魔になっているし、もう訳わかんないよ」
……だけど不満がない訳じゃあない。
「はぁー、ただちょっと寂しいかな。いや、嬉しいよ。念願のネームドだし、メチャクチャ強いしさ」
ただ、もっと感動的と言うか、ドラマチックと言うか、凝った演出が欲しかったよな。
だってさ、長年待った従魔契約の瞬間だったんだよ。
「それがテイムした事さえも気づかないなんて、残念すぎるよ」
タメ息が少しでた、でも。
「ご主人様ー、もう少しで肉が焼けるギャー」
キラキラした笑顔で、手を振ってくる。
「気づかないのも当たり前か。だって見た目がほぼ人間だよ。しかも、そんじょそこらにいないスッゴい美少女だ。うん、従魔になってくれただけで充分だよ」
フッ。1人で苦笑いをした。
「ねぇ、ご主人様の名前ってなんだギャ?」
いつの間にかソバに来て、上目遣いで聞いてきた。
この視線は背が低いからで、決して意図的じゃないよな。そう信じて、話をつなげる。
「ワンダーボーイだよ。と言っても僕は孤児だから、自分でつけた名前だけどね」
「おお、ワンちゃんかー、カッコいいギャ」
うっ、まただ。ちゃんとワンダーボーイって呼ばれる事が少ない。
いつも省略かニックネーム。必死に考えた名前なのにさ。
「でも、ワンちゃんも悪くないね」
「でしょ、でしょ!」
フレンドリーだな。こういうタイプの子は楽な反面、放ったらかしにしないのが大事。
まずはお互いに相手を深く知らなくちゃね。
「ねぇ、エブリン。君って、いつからそんなに強いの?」
「ぎゃ? エブリンは生まれた時からエブリンだギャ。だから、とっても強いんだギャ」
「んん、ちょっと意味不明。これは理解するのに時間がかかりそうかな」
仕方ないと、逆に僕の事を知ってもらうため、ジョブのアレコレを話した。
「ぎゃ、ネームド専門? 他のモンスターにも好かれる? なんでぎゃ?」
首をかしげ、聞いてくる姿が可愛らしい。
僕はひとつひとつの疑問に、丁寧にゆっくりと答えていった。
「まず僕のジョブは、普通のテイマーの上位互換なんだ。一般的なモンスターは、僕自身テイムは出来ないけど、親和性は高いんだ。
例えば、敵対心を下げたり、他人の従魔でも友好関係をむすべたり、あとは会話なんかも出来るんだよ」
「おお~、楽しそうぎゃ」と、笑顔のエブリン。
「元々動物にも好かれるタチだから、違和感はないし、自分でも天職だと思っているよ」
と、続ける。
「それと従魔へのサポート能力も、加護【ラケシスの寵愛】のお陰で、他人と比べても飛び抜けているんだよ」
「ラケ、シスちょーあい? 響きからしてスゴいぎゃ」
言葉が難しいのか、エブリンは半目白目になっている。
「あとスキルの内容はね、能力アップやHP回復、それに状態異常の付与と回復だよ」
スキルはその数だけでも他のテイマーと、比較にならないほど多い。
「うぎゃ、それはさっきので分かっているぎゃ。スゴい効き目だけど、あれが普通なのぎゃ?」
と、ワクワクした表情。
「うーん、聞いた話だと、他のベテランテイマーでも、能力を上げれる数値は1割ぐらいかな。
それが僕の場合だと、200%の効果、つまり倍になるから、こんなのあり得ないそうだよ」
「うぎゃ、そんなに違うのぎゃ!」
つまり、僕はネームドを従えるに、充分な素質を持っているってことだ。
「カ、カッコいいー。ねぇねぇ、ワンちゃんの事をもっと教えて欲しいぎゃ」
「やめてよ、照れちゃうよ」
見つめてくる視線が恥ずかしくて、思わず話を進めてしまう。
「じゃあ、僕のスキルを試したいんだけど、いいかい?」
「ぎゃ?」
「さっきの戦いは一瞬で終わったから、きちんと確かめておきたいんだ。どこまで自分が強いのかを」
従魔を得た今こそ試す時、いざ!
「いくよー、身体能力アーップ《1/神》、よし、じゃあ、少し動いてみて」
スキルの淡い光に、エブリンの体が包まれる。
「ラギャ!」
目にも止まらないってこの事だ。
ビュンビュンと音がするほどで、さっき普通に動いていた速さなんて、『なに?』って感じだ。
「いひひ、軽い、見える、面白いぎゃ。エブリ~ンチョ~ップ」
流れそのままに、近くの岩へ手刀を繰り出す。すると岩肌をザックリと切り裂いた。
まるでドラゴンの爪みたいだ。
「す、凄いよ。じゃあもう一段階あげるよ。スキル効果アップ《1/神》」
「おおぉ、キタキター、いくぎゃ。エブリ~ンパーンチ」
今度はスッコーーーンと、まるでトコロテンのように大岩をくりぬいたぁぁああ! ヤバい、ヤバすぎるよ。
「さ、最後にもうひとつ、会心率アップ《1/神》、これはどう?」
「にひひ、後片付けを覚悟してぎゃ。そいっ、エブリ~ンキーック」
イタズラっぽく笑い、さっきよりも大きな岩を蹴る。
――ズズズズッズゥゥゥーーーーン
その衝撃は凄まじく、破壊どころか砂粒にまでに!
完全な粉砕、ここまで威力が上がるものなんだ。
「数値だけじゃ分からないものだよ、はははっ」
と僕は少し呆れてしまった。
いままでは他人の従魔にしか、スキルをかけたことがなかった。
ぼくの役目はかけて送り出すのが仕事。
実際に活躍する姿は、目にする事はなかったんだ。
それが僕だけの従魔がここまでやるなんて……。
「最高だよエブリン、君に出会えて良かったよ」
「その言葉も嬉しいけど、いまはナデナデがいいぎゃ」
と、モジモジしている。
「あはは、さっきのが気に入ったみたいだね」
「ぐぅ~~~~~~~~!」
またお腹の音。だったら、いまは別のご褒美かな。
「あはは、僕も腹ペコさ。いい焼け具合だし、食べようか」
「うぎゃ」
なんてない光景、仲間と一緒に食事。でも、これを僕はどれほど望んだことか。うん、感無量だよ。
「ワンちゃん、早くはやくー」
ヨダレを垂らすエブリンがせっつく。
「うん、いま切るから待っててね」
幸せな気持ちでお肉を切り分ける僕。
うん、誰かと楽しく食べるのって、嬉しいや。
「美味しそうぎゃ、いただきまーす?」
食べようとしたその時、エブリンが鼻をヒクヒクさせた。
「ワンちゃん、なんかとってもヤバい匂いが、近づいてくるぎゃ」
言葉の意味と、ひきつったエブリンの顔に僕は驚いた。
ギガントボアでさえ、余裕の顔をしていたのに、もしかしたら本当にヤバイかもしれない。