第23話 異種間恋愛
「マスターはいい香りよ。そんな鼻があるのに、間違えないで!」
男にとって、魔王かと思うほど恐ろしいオークジェネラルを倒せれた。
みんなその勝利に安心して、その場に座り込む。
しかしその平和は、まだ確定でなかったんだ。
「うっ、ま、負けただわさ……」
オークジェネラルが目を開けた。
「ウソだろ。コイツまだ生きているぞ。た、た、たすけてくれー!」
と、腰をぬかすギルドメンバー。
だが、ジェネラルにさっきまでの勢いはない。むしろ瀕死の状態だ。
「マ、マイスイートハニー……」
立ち上がれないジェネラルは、最後のちからを絞り、ギザンの方に這っていく。
なんて事だ!
このジェネラルは生きることよりも、ギザンを求めている。
「だって私はこの人に、ファーストキスを捧げたのよ。最後の時まで一緒にいたいだわさぁ」
手を伸ばし、ギザンに触れようとしている。
それを見ていたギルドメンバーの様子が、少し変になってきた。
「ジェネラルが愛を語っているよな?」
と話し出すギルドメンバー。とても優しい眼差しで、懸命に進もうとするオークジェネラルを、見守り出したんだ。
「これって、もしかして純愛じゃね?」
と、更にギルドメンバーの誰かがつぶやいた。
「うん、そうよ。乙女が愛を願っているわ」
と、他のメンバー。
すると、ジェネラルがか細い声で応える。
「ふっ、分かってくれて、光栄だわさ」
なんて健気だと、メンバーの人達が感動して、拍手をしだした。
僕ら3人は顔を見合わせる。
「うん、やっぱりだ。ギルドメンバー全員の目が飛んじゃているよね」
「うぎゃ、完全にヤラレているぎゃ」
呆れる僕らを置き去りに、向こうは勝手に盛り上がっている。
「ジェネラルー、がんばれー。ジェネラル、諦めるなあ」
「ほら、もう少し、ゴールはそこだよ」
それに応えるように、ジェネラルがニッコリ笑う。
そして手がやっと届き、ギザンを胸に引き寄せた。
「おおー! やったじゃないか。嬉しい、俺は嬉しいよ」
「良かったわ、乙女の恋は無敵よ」
涙を流すメンバーもいる。僕にはちょっと入れない空間が出来ている。
そうなんだ。いつの間にか、ジェネラルとギルドメンバーだけの会話がはじまっていた。
「良かったね、ジェネラル。そんなにギザンの事が好きなんだね」
「ええ、オークの私には過ぎた夢だけど、この人と添い遂げ、沢山の子供に囲まれて暮らしたいだわさ」
「うん、うん」と、ギルドメンバー。
「素敵な夢。ねぇ、子供は欲しいの?」
「そうさねぇ、まだ若いし100人は欲しいわさ。子供が遊ぶ庭では、この人が人間を解体。ああ、幸せな時間だわさ」
と、遠くを見つめるジェネラル。
「うん、うん、賑やかになりそうね。きっと素敵な家族になるわ」
「いいえ、今となっては叶わぬ夢。せめて余生は、趣味の人間狩りでもしたいのに、私はここで死ぬのが運命だわさ」
「そんな事ない、諦めないで! あなたにも未来は絶対にある」
メンバーとジェネラルの会話はまだ続く。聞いていると、頭がおかしくなりそうな内容だ。
「ほら、私たちを信じて、あなたの望みを教えてちょうだい。さあ、勇気をだして」
「うん、私たちはあなたの味方。決して裏切らないわ」
涙を流すジェネラル。
「では言うわ。私のお願い言うだわさ。このまま2人を見逃して、この恋を認めて欲しいんだわさぁぁああ。きっと、みんなが認めてくれる、素敵なオークの国を作ってみせるわさあああぁぁぁぁあ」
ブッチューッと、吸い込みそうなキスをする。
ギザンは失神したままだけど、無言の絶叫。
これにみんな堪らずスタンディングオーベーション。
拍手が鳴りやまない。
「1人の女性が禁断の愛に目覚め、その愛を貫こうとしているんだ」
「うんうん、種族の壁を乗り越え、新たなステージへ立とうとしているのね」
「とても勇気のある行動だよ、素晴らしい」
「この愛を見守りましょう」
「うんうん、ワンダ様も賛成ですよね?」
と、ギルドメンバー。
でもさ。
「エブリン、やっちゃって」と、僕は合図を出す。
「らぎゃ!」
――スッパーーーーーン!
「プギッ?」
有無も言わさず討ち取った。
「ええぇぇぇえええぇ! ワンダ様、ナゼなのですか?」
みんな驚き、こちらを見てくる。ため息しか出ないよ。
「いやいや、皆さんこそおかしいですよ。あれはオーク。しかもジェネラル。それが極悪なギザンと逃亡して、子供を作って繁栄したい? 間違いなく、悪の帝国を作りますよ」
「「「あっ!」」」
みんな正気に戻ったようだ。
「ほらね、みなさん騙されていたんです」
「もしかして、何かのスキルで操られていたのか?」
「それよりも、ギザンに似たオークって、ゾッとするわね」
それぞれ反省しているようだ。
こう話している間にも、エブリンとイオナは、オークをどんどん狩っている。
しばらくして、討伐も完了した。それとオークジェネラルから宝箱が出現してくれた。
「ゴクリッ、2回目だね。今度はどうだろね」
1度目の時、レアアイテムがドロップし、それが僕たちの絆と愛が関係していると推測した。
それが今回で証明されるかもしれない。
「では、開けますね。エイッ」
イオナが宝箱に手を掛ける。すると、またもや金色の光が溢れてきた。
「来たぎゃ、やっぱり愛のチカラが働いているぎゃ」
「ええ、マスターは神です。絶対です」
「嬉しいよ、愛が目に見える形になるなんて、こんな嬉しいことはないよ。さぁ、何が入っているか確認しようか」
【オクネェのトゲ鞭】
ピンクのケバケバとした下品な鞭だった。
「えっと、これってジェネラルが使っていた鞭だよね?」
「はい、この悪趣味はそうですね、はぁ」
もはやレアアイテムだという事は、どうでもいい。スゴい武器ではあるようだけど、心の底から拒否反応が出てくるよ。
「ふぅ、これはお蔵入り決定だね」
「はい、でも証明されて良かったです」とイオナ。
そうだよ、テイマーの愛は確実に効いている。それが分かっただけで充分さ。
「あのー」
顔をあげると、職員さんをはじめ、ギルドメンバーが一列に並んでいる。
「ワンダ様、何から何まで、お世話になりました。何かお礼をさせて下さい」
一斉に頭をさげてきた。
「いえ、皆さんが無事だったのが何よりです。お礼なんて、とんでもないですよ」
「でも、しかし……」
「でしたら、その分、誰かの助けをしてあげて下さい。その助けられた人が幸せなら、僕は嬉しいです」
「な、なんて良い人なんだ!」
「うおー、ワンダ様、サイコー!!」
ちょっと照れるので、僕は顔を伏せて誤魔化す。
というか、この人達って乗せられやすい人なのかも。
「さぁ、街まで帰りましょう」
と、僕はみんなに笑いかける。
だけど、僕としてはキメタつもりだったのに、イオナが少し呆れて言ってきた。
「マスター、また忘れていますよ」
「えっ、なにを?」
「アレですよ、ア~レ」
指差す方向に横たわるギザン。まだ気絶している。
「アレをギルドに突き出さないといけません」
忘れていた。きっと、僕の中でギザンは、マジで気にならない存在なんだろう。
「ええ、ザコですからね。仕方ありません」
僕は照れ笑いをしながら、ギザンを縄で縛りあげた。
恥ずかしさをごまかそうとして、ちょっときつめに縛っちゃった。




