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第2話 カワイイ出会いも突然です

「これから大変だなぁ。ふぅっ」と、独り言。


 僕は森の中を歩きながら、今後の事について考えていた。


「うーん、ネームドモンスターかぁ」


 ネームドモンスターの事は、以前から調べているけど、分からない事だらけだ。

 その出現場所や条件などに規則性はない。


 それに殆ど目撃されないし、狂暴で強大な存在である為、高ランクでない限り情報を持ち帰らないからだ。


「一目でいいから会いたいっなっと」朽ちた木を飛び越える。


 分かっている事は、彼らは自我が強く、同じ種族の中でもとりわけ知能が高い。

 それがあるせいなのか、何者にも屈しない高いプライドを持っているってことだ。


「僕がテイム出来るか不安だけど、ジョブを信じて探すしかないんだ。でもまぁその為にも、まずは資金調達なんだよね」


 おっと、また独り言かと苦笑いをした。


 クエストで稼ぐにしても、僕の場合は大変だ。その理由は単純、僕に従魔がいないからさ。


「テイマーってのは従魔主体で戦うから、いまの僕には戦う術がないんだよなぁ。そうなると、やっぱ安全な薬草採取が一番だよ、なっと」


 小さな子にも安全な、秘密の場所を知っているから救われるよ。そろそろ着くころだ。


「わー、ここは昔のままだ。本当にキレイだよ」


 薬草の生い茂るその広場は、木の隙間からの陽に照らされているそんな静かな場所なんだ。


 テイマーギルドに入る前、孤児の僕はいつもお腹を空かせ、生きる為によくここへ通っていた。


 袋いっぱいに採ると、2万G(ゴールド)にもなり、5~6日は楽に暮らせたんだ。


「よーし、昔みたいに採りまくるぞぉ」


 気合いを入れて腕まくり。



 夢中になって採っていると、僕以外にもう1人いることに気がついた。


「いつの間に来ていたんだろう、不思議だなぁ」


 でもここはみんなの場所。邪魔にならないよう、少し離れる。


 ――ガッ、ガッ、ブチッ、ブチッ


 すごい勢いで採っている音。乱暴じゃないかなと気になって、ちょっと見た。


「うぎゃ、うぎゃ、うーっ」


 唸りながら採っている。


 年は僕より下の女の子。服は粗末でとても汚れている。きっと貧民街の子だよ。

 この子も生きるため頑張っているんだ。


 ――ブチッ、ブチッ、モシャモシャ


 でも、よく見ると。


「薬草をそのまま食べているじゃん!」


 あんな苦いのを。よっぽどお腹がすいているんだな、かわいそうに……。

 空腹のツラさは、経験した者にしか分からないよ、うん。


「ねぇ君」

「ギャ?」

「これ、よかったら食べて」


 ランチにと買っておいたサンドイッチを、思わず差し出してしまった。


「グゥーーーーーーーーッ!」


 すごい腹の音が鳴った。

 それを恥ずかしがりもせず、女の子は僕の手から、サンドイッチを奪うようにもっていく。


 そして一心不乱に食べる、食べる、あっ、喉につかえたな。


「あっ、待ってよ。ほらお茶だよ」


 お茶を出すと飲む、飲む。で、食べる、食べる、食べたら全部失くなっちゃった。


「しまった、僕の分が……」


「ふぅー、マンプクー、生き返ったぎゃ」


 ニッコリ笑った顔は人懐っこくて、ベリーショートの髪型と、エメラルド色の瞳が印象的な女の子だ。


「ははは、良かったよ。じゃあ僕はこっちを採るからね」


 僕は女の子に持っていた飴玉もあげ、薬草摘みを再開させた。

 お昼は残念だけど、人助けが出来て良かったよ。その分いっぱい採ればいい事さ。


「ねーねー、ご主人様。なんで食べずに袋に入れているぎゃ?」


 あらら、この子ついて来ちゃたよ。


「売ってお金にするためだよ。ってか、ご主人様って何さ、あははは」


 僕は変なノリだなと思ったけど、この子に合わせてみた。


「ご主人様はご主人様だギャ。こんなカワイイご主人様で、私はツイテいるぎゃ」


 んん、ちょっとイタイ子かな。それとも新手のサギ?


 戸惑っていると、女の子は僕の真似をして、薬草集めを手伝いだした。

 やらなくていいよと断っても、やりたいと笑顔で袋に入れてくる。


「よいしょ、よいしょ、ふぅーっ」


 仕方がないので、ちゃんとした取り方を教えると、大人しく聞いている。


「おおぉ、これだとキレイに採れるぎゃ」


 さっきみたいに乱暴なやり方じゃなく、教えた通り優しく丁寧に扱っている。

 人の言う事をしっかりと聞くし、飲み込みも早い。

 そして、他人の手助けをしようとするなんて、貧民街の子供にしては珍しい子だよ。


「君……、いい子だね」


「えへへ、ご主人様の役に立てて嬉しいぎゃ」


 この子のおかげで、すぐ袋はいっぱいに。

 不意にできた連れに戸惑ったけど、悪い子じゃなさそうだ。

 見た目が凄くカワイイし、それ以上に純粋だよ。


「うーん、ご飯で手懐けた手前なぁ」


 このまま放ったらかしには出来ないし、送り届けると決めた。


「ねぇ、君はどこの子なの?」と聞いてみる。


「私、ゴブリン族のエブリンだぎゃ。よろしくね、ご主人様」


 満面の笑顔で答えてくる。やっぱり変な子だ。

 ゴブリンって、なんのジョーダンと、なにげにステータスオープンをしてみたら。



 名前:エブリン(ネームド)

 種族:ゴブリン

 物理戦闘力:S

 魔法戦闘力:F

 スキル:エブリン流格闘技

 称号:笑顔の増幅者

 従魔契約者:ワンダーボーイ



「ええぇぇえ、ツッコミ所多すぎだーーーーーーーーーーー!」


 僕は絶叫、そして放心、思わずこの子をガン見した。


「どうしたぎゃ?」


「あわわっ、ええっと、ネームド……ゴブリン……従魔って?」


 単語しか出てこずに、手足をワチャワチャさせてしまう。


「あわわっ、ええっと、ネームド。イヒヒッ、面白い遊びだぎゃ」


 エブリンは僕の真似をして喜び、大クチを開けて笑っている。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ちょっと待て! こんなのマジか、マジなのか! 到底信じられないよ」


 僕にとっては一大事。魂の叫びをあげたつもりだったが、それよりもエブリンのイヒヒと大きく笑う声の方が、森の中に響き渡った。


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