第18話 昇格試験も突然です
僕らは全部の買い物を済ませ、時間がだいぶ余ったので、冒険者ギルドへ寄ってみた。
「何かいいクエストがあるかもしれないよ」
と2人には言うけど、本当は新しい武器を手に入れたから、早く試したいだけなんだ。
「あはは、ワンちゃんが楽しそうぎゃ」
ギルド内は今日も人はいっぱいだ。
中に入るとみんながこちらを見て、ビクンとしているのがわかる。
「さすがに昨日の今日だから、馴れるとまではいかないみたいだ。ここは大人しくいくからね」
2人に念をおしてから、あいさつをした。
「みなさん、おはようございます」
すると全員ガタッと起立をし、深々と腰を曲げての最敬礼。
「おはようございます、ワンダ様。ご機嫌はいかがでしょうか?」
……ちょっと引くかな。でも無言はダメだし。
「え、ええ。大丈夫ですよ、ハイ」
「ふぅ、よ、よかったー。あっ、す、すみません、生意気なクチをきいてしまって」
なんだか申し訳ない。
「あの~、僕も皆さんと仲良くしたいので、出来たら気軽に話しかけてください」
「そ、そ、そんなおそれ多いです」
何人かの人が頭を振っているけど、中には興味ありげな人もいる。ここはもう一押しだ。
「知り合いも少ないし、助けてほしいんです。お願いします」
深く頭をさげた。すると。
「あなた達、マスターからの要請を、断ろうとしているんじゃないでしょうね?」
イオナの恫喝。後ろ姿しか見えないけど、絶対に悪い顔をしているよ。
「あうっ、あうっ、うっ!」
昨日のトラウマで失神する人が続出。頭から倒れる男の人を思わず受け止めた。
「もう、ダメだろ。みんな怖がるじゃないか。お兄さん大丈夫ですか? 【状態異常回復《2/神》】本当にスミマセン。これで嫌いにならないで下さい」
「はっ……えっと…………好き」と、受けとめていた男の人がポッ。
僕は目を閉じ、つい床に叩きつけてしまった。
「ワンちゃんの魅力はワールドワイドぎゃ」
「ええ、私に染まって欲しいですが、これもアリかもですわ。ムフフフフッ」
ギルドメンバーから笑い声。でもこれでみんな安心したのか、徐々に声をかけ始めてくれた。
自己紹介をしてくる人や、自分もパーティーに入れてくれという者、他には商売人とかもいて、随分と交流の輪が広がったよ。
「みんないい人ばかりで、良かったぁ」
「いえ、ワンダ様。もったいないお言葉です」
中にはエブリンに、殴ってくださいという変な人もいた。ちょっとアレな人で、ギルドから注意され、つまみ出されていた。
「あの~、クエストの方にー」そろそろ抜け出したいのだけど。
「はじめまして、わたくしDランクの……」
まだまだ続きそう。数が多すぎて対応しきれない。
早くクエストを確認したいのになぁと、困っていると助けてくれる人が現れた。
「はーい、みんな解散してください。ワンダ様が困っているじゃない、散った、散った~」
それは昨日カウンターで、大声を出した受付嬢さんだった。
パンパンと手を叩き、みんなを追い払うと、掃除が終わったかのように満足げだ。
そして僕と目が合うと態度を豹変させた。
「これはこれは~、ワンダ様ご機嫌麗しゅう。ささっ、こちらの方へどうぞ」
手もみをして腰を曲げ、こわばった笑顔になっている。
「私、カミラと申します。以後お見知りおきを。あっ、矮小なモノですので、名前なんて覚えていられませんよね、へへへっ」
ちょっと苦手かな。
そのカミラさんは、人混みを抜けカウンターに着くと、お願いがあると話し出した。
その内容はギルドランク昇格試験を、受けて欲しいとのことだ。
「お怒りはごもっともです。突然ですみません。ただワンダ様の実力なら、Sランクが相応しいのです。その手始めとして、是非ともBランクの試験を受けていただきたいのです」
僕は息をのんだ。
だって僕はいま最低ランクのGランクだ。
それを5段階も飛び級なんて信じられない。
しかもBランクといえば、1流といわれる人達の1歩手前だ。
Bランクは夢への登竜門と言われ、上がれる人もごく限られている。
「カミラさん、Bランク以上って、いろんな施設が使えたり、優遇されたりするんですよね?」
「おお、よくご存じですね、さすがワンダ様です。税金とかも安くなりますよぅ」
「受けます、ぜひやらせてください」
詰め寄る僕に、カミラさんはびっくりしている。
しまった、怖がられているのに、不味いことしちゃったよ。
そのせいで頬をちょっと赤らめているし、怖がらせないよう、笑顔でゆっくりと後ろに下がった。
でもそれもちょっと遅かったみたい。
カウンターの奥で他の女の人も、こちらを見て内緒話をしている。
(ワンダ様って、やっぱりいい人っぽいよね?)
(うん、ごねないし、素直だよ。それにさ、なにより……笑顔が可愛いわ)
(そうよね、なんか守ってあげたい感じよね、ジュルッ)
(でもあんた、あの後ろの2人をすり抜けていける?)
(うっ、それは無理、死にたくないわ。ショボン)
ほら、沈んだ顔をしているよ。こうなると、声をかけづらい。
でも、人も従魔と同じ。こちらが心を開けばちゃんと応えてくれるはず。
うん、勇気を出してみよう。
「みなさん、怖がらせてごめんなさい。僕はみんなと友達になりたいんです。だから、昨日のことは、忘れてくれると嬉しいです」
誠心誠意、心を込めてお願いをしたよ。
「クゥ~~~~~、カワイイ~~!」
「えっ?」
「ううん、是非私が担当になりますね」
「あっ、ズルい。私だってなりたいのよ、あなたはソコラのを相手にしていなさい」
「ちょっと、最初に相手をしたのは、この私。遠慮してよね」
「いいえ、そんなルールはありませんー」
よかった、なんだか知らないけど、受け入れてもらえたみたいだ。
でも調子に乗らないで、これからもきちんとしなくちゃね。
「そうだ、さっきの昇格試験の話、詳しく聞かせて下さい」
その話を振ってみると、急に微妙な雰囲気になった。
「えっと、1つだけ大変言いにくいことなんですが、不具合がございまして……」
カミラさんは言葉を選んで、すごく話しにくそうだ。
「あれ、どういうことだろう?」
ギルドの方からあった話なのに、何がそんなにダメなんだろうか。
するとカミラさんは、僕の背後に何かを見つけ、ギョッとしている。
振り返ってみると、強面のおじさんがそこに立っていた。
「おいおいおい! 坊主、昇格試験を受けるんだってな。今回の試験官は俺様ギザン様だ。手加減しねぇからな」
「あっ、はじめまして、ワンダーボーイといいます」
「テメェ、はじめましてじゃねぇ。昨日あったギザンだよ」
「へっ、知り合いにこんな人はいないはず。でも昨日って言っているしなぁ、土下座をさせてしまったその中の1人かも、うーん」
思い出そうと頑張っていると、カミラさんがそっと耳打ちをしてくれた。
「ワンダ様にオラついて、立ったまま失神した人ですよ」
「あーーーーーーーっ、あのクズの人ですか」
ギザンは真っ赤になりプルプル震えている。
忘れられていたことと、さっきの耳打ちに怒っているみたい。
「えっ、でも試験官って言ったよね。カミラさん、これどういうことですか?」
「はい、申し訳ございません。これがワンダ様にお詫びしないといけない事なのです」
深々と謝ってきたよ。つまり決定ということだ。
ギザンが僕を憎々しげに見ている。
はあ、良いことの後に悪いこと。これはちょっと釣り合いとれないぞ。




