第16話 お風呂とお食事へ
冒険者ギルドをあとにし、宿屋へ向かった。
「もうすぐで宿屋だよ。今日の食事は期待していてね」
「もう、お腹ペコペコだぎゃ」
「そうだね、ホントに疲れたよ。今日1日で、追放されて、テイムして、ワイバーン戦、最後はギルドで絡まれた。人生の全てを経験した気がするよ」
「マスターに相応しい人生ですわ」
なんだよソレと心の中でツッコム。
「でもそ、今まで全く成長をしなかったスキルも、一気に2つも上がったし、初めて自分に自信が持てた気がするよ」
よーし、大金も入ったし、明日は買い出しだぁ。
「いや、お客さん。あんたのお連れさん、だいぶ匂うよ。メシ前には、水浴びを済ませてくれよな」
宿の店主に念をおされた。
「あー、やっぱりか」
2人は野生、お風呂に入る習慣がない。エブリンに至っては、水浴びすらないそうだ。
だから、傍にいても匂う。野犬のようなむせる匂いが。
「クンクン、フツーだぎゃ」
「お風呂? 初めて聞く単語ですね」
とことんキレイにしたいんだけど、裸を見るのは僕が恥ずかしい。
だから、身振り手振りで教え、石鹸を持たせてお風呂場に送り込んだ。
「これがお湯って言っていたわね。ヒヤッ、冷たいじゃないの」
トビラの向こうの声が聞こえてくるが、戸惑っているのが伝わってくる。
「いいかい、2人とも。泡立つまで何回も洗うんだよ」
「は~い、あらら、なんかベロンと剥がれました」
「……もう3回やってるけど、まだ泡こないぎゃ」
「諦めないでよ、ホラ、しっかりと擦ってね」
僕はドア越しに声をかける。
だけど、そんなに汚れていたんだね。店主さんでなくても苦情はくるか。
「ワンちゃん、泡って虹みたいでキレイだぎゃ、見てみるぎゃ」
「ふぅ~気持ちいい、マスターもはいりますかぁ?」
「おお、それいいぎゃ。早く早く~」
「あわわわ、もうふざけないでよ。着替えは僕のだけど、置いとくからね」
汚れている服は着られない。試しに嗅いでみたら、ウッとくる。
買い物リストに追加だな。それにしても……。
「お風呂っていいですね。気に入りました」
「うんうん、サイコーだぎゃ」
「気に入ってくれて良かったよ。これからは毎日入ろうね」
2人が着替えている間、僕は浴室の後片付け。
湯船は真っ黒で違うモノになっている。
それだけ汚れていたってことだ。
「マスター、これってこんな感じでいいですか?」
振り返るとサイズの合わない服で、パッツンパッツンになったイオナがそこにいた。
目のやり場に困り、慌てて目を背ける。
すると、ググッと寄ってくる気配がする。ヤ、ヤバい。
「ねぇ、マスター。変な所がないか、ちゃんと見てくださいよぉ」
この声は絶対にからかっている。
でも、反撃する度胸はない。誰か助けてよ。
「ワンちゃん、これは歩きづらいぎゃ」
いいタイミングで、エブリンが声をかけてくれた。
だけどこちらはこちらで問題かな。
小さいエブリンにはブカブカで、手も足も外に出ていない。
「もうしょうがないなぁ」
僕は膝をつき、余分な袖や裾をまくってあげた。
エブリンはくすぐったいのか、キャッキャと笑い動きまくる。
それを横で見ていたイオナは、ジト目になっている。
「マスター、えこひいきはズルイです」
「イオナは自分で出来るでしょ」
どちらにしても、やりにくくてしょうがないよ。
「改めて見ると、本当にサイズが合ってなくて申し訳ない。かたやブカブカ。かたやピチピチか」
軽く頭をさげる。
「でもキレイサッパリ、こんなにも綺麗になるもんだね」
「うぎゃ、自分でもビックリだぎゃ」
特にエブリンは地黒だと思っていたけど、透き通る白い肌で、ぜんぜん別人だ。
イオナはイオナで、豊かな髪がキラメイている。
「2人はタイプは違うけど、トップクラスの美形だよ」と、つぶやいてしまった。
「えっ、なんですか?」
「な、な、なんでもないよ」
慌てて視線を外す。でも、これでお店から文句もいわれないさ。
食堂に行くと、店主さんが話しかけてきた。
「おお、キレイになったね、こっちも準備できているよ、空いている席へどうぞ」
「今日はみんなよく頑張った。最大限のご褒美を用意したよそれは売らずにおいたワイバーンの肉。しかも、シャトーブリアンさ!」
「おお、肉が輝いているぎゃぁぁぁぁ!」
「う~ん、この香り。たまりません」
抱える程の大きな肉の塊だ。
次々と焼いてもらい、これでもかと堪能した。
「なにこれ、口の中で溶けたぎゃ!」
「肉汁より旨味が先に口に広がります。はぁ~幸せですぅ」
2人とも食べるのが早くて、厨房がざわめいているよ。
「あの客すげーな。これじゃあ間に合わない、どんどん焼いていくぞ」
それからは、僕ら3人と料理人との戦いが始まった。
パクパク、モグモグ。
「すみません、おかわりください」
「わたしもください」
「うぐ、するいぎゃ、わたしは2皿だぎゃ」
この光景に周りがざわつき出している。
「よく食べるなぁ。あんな華奢な体の何処に入るんだ?」
「1人10皿はいってるよ、凄いぞ」
いや、僕はこれ程は食べれない。でも2人はまだまだいけそうだ。
で、負けじと焼けた肉がテーブルに並ぶ。
パクパク、モグモグ。もう苦しいよ。
「まだまだー、あと5皿一気にちょうだい」
「ヤベー、ペース上げてきたぁ!」
「遅いおそいー、こっちも5皿、いやその倍だぎゃ」
「ヒイィィィイィィィィイ」店主、スタッフの泣き笑いの悲鳴が。
そして格闘の末、店主さんが出てきて、あんなにあった肉が全部なくなったと教えてくれた。
「はっはっはー、若いっていいな。たまげたよ。代わりにデザートはどうかな?」
「ふぅ、ワイバーンも役に立つ生き物だぎゃ。でも、もう、これ、以上は……」
何がいいか聞こうしたら、2人ともフォークをもったまま、寝ていたよ。
「ぐ~ぴ~、ぐ~ぴ~、ぴ~ぴ~」
今日は本当に頑張ったもんね。
ただ僕は従魔の主として、最後の一仕事が残っている。
大変だけど、ベッドに運ぶまでがお仕事さ。それでやっと休めるよ。




