第14話 目立たずにいこう
街に近づくにつれ、僕はだいぶ緊張してきた。トラブルを起こさず、無事に過ごせるだろうか。
「いいかい2人とも、もう1度約束事を確認するよ」
ニヤニヤ、ソワソワしている2人。見えてきた街に興奮しているようだ。
「うぎゃ、ケンカ、悪口、勝手にモノを食べないだぎゃね。任せるぎゃ。あれ、キックはセーフだぎゃ?」
「お任せ下さい、私はエブリンと違って自制心の塊です。マスターの偉大さだけを知らしめます」
コクンと頷く2人だけど、少し分かっていないみたいだ。
初めて行く人間の町に、興奮して張り切っているので、僕としては強く言えない。
やれやれだ。
だけど心配していて町中では何事もなく、ギルドへたどり着けた。
「ふぅ~、第1関門クリアだよ」
ギルドの中をそっと覗く。
「混んでいるし、誰も僕らの事なんか気にもとめていない。よしよし、順調だよ」
カウンターで大物の解体依頼をして、裏へと回った。
そして出てきたのは、迫力のあるベテランの解体師さんだった。
「見かけない顔だな。ふーん、ギルドカードを出しな」
解体師さんは値踏みするように見てくる。
「Gランクのペーペーか。はぁ~、ウサギの解体ぐらいは、早くできるようになれよ」
「いえ、数が多くて大物なので」
「はぁ? ガキが口答えすんじゃねえよ」
僕が『はい』と答える前に、イオナが1歩前に出た。
「何ですって。初対面の相手にその態度の方が、よっぽど子供しゃないの。解体するだけがアンタの仕事なの?」
思わぬ女性からのカウンターに、解体師さんは顔を真っ赤にし震えている。
「お、お、お前には関係ねぇだろう」
「やっぱガキね。そこは素直にスミマセンでしょうに」
「て、て、てめぇ」
「わーーー、ご免なさい。この子、人前が慣れてなくて。ほら、解体依頼書です。表でもOK貰っていますし、お願いしますよ」
「ちっ、……まぁいいや、ここに出しな」
半ギレながらも、退いてくれて良かったよ。
ふぅ~、ここまで2人は僕の言い付けを守り、大人しくしていただけに勿体無い。
「ここからは預けるだけだし、大人しくしてね」
「もちろんですわ」
「任せるぎゃ」
「やっぱり不安だよ。とほほ」
だけど僕が次々と袋から出して2人に渡すと、キレイに並べている。静かなものだ。
その間、解体師さんはクチをポカン。
「おっちゃん、次はこっちでいいぎゃ?」
並べていた列がいっぱいになり、エブリンがどうするか尋ねる。
これに解体師さんはハッとし、アタフタしだした。
「ちょい、待て、これギガントボアじゃねぇか。おいって。それにいったいどれだけあるんだよ」
びっくりしたよ、解体師さんが何か怒っている。
数を言わなかったのがいけなかったのかも。
職人さんは気難しいからなあ。
「あっ、この場所の半分で済みますから、大丈夫ですよ」
「いっ、は、半分だとー! おーい、応援に来てくれ。それだけの量を俺1人では。……ワ、ワイバァァァアアァァンンン。キャアー! イヤイヤ、イィヤャャーーーーアァァアンンンン!」
『イヤーン』って、体格に似合わないけど可愛らしい。まぁその悲鳴のおかげで、この場が騒然となった。
他の解体師さんが、何事かと集まってくる。
真っ赤になったさっきの人をそっちのけで、どうさばくかの大相談会がはじまった。
しまったよ、事前に言えばよかったな。
「こんな立派なワイバーンなんて初めてだ。おい、これ用の刃物あったよな?」
「はい、急いで研ぎます、少々お待ちを!」
「でもこれは4~5人でやらないと、無理だな。よし、気合い入れっぞ。お前が担当だな、お客の話を聞いておけ」
それから数人掛かりで作業に入った。
ちなみにワイバーンの魔石と、一番良いところのお肉は売らずにおく。
それを先ほどの解体師さんに伝えた。すると。
「あ、あのう、なんて言うかよぅ。さっきは、えっと、そのよう」
ちょっと言いづらそうだ。ここは汲み取ってあげるべきだよね。
「あのー、カードにあるように僕は本当に新人です。だから、これからも色々お願いすると思いますので、よろしくお願いします」
「お、おう。分かった。うん、まぁ、俺もいたらない男だし、その辺はカンベンな」
「はい」
ようやく立ち直ったようだ。
そこからの切り替えは早く、大量の獲物のおかげで、腕が振るえると喜んでいる。
「でも、オメェすげえよなぁ。ここ最近で一番の獲物だぞ。若いのに、たいしたもんだよ」
「誉められるのは嬉しいけど、あまり目立ちたくないんですよね」
2人に言っていたのに情けない。もうこれ以上は自重しないと。
「ところでよ、オメェ何者だ? やたら強いし、でも控え目だしよ。……ははぁ~ん、分かったぞ。その実力を隠すということは、どっかのお貴族さまだな。そして後ろの2人は護衛だろ」
「なんでそんな発想になるんですか」
呆れていると、横のエブリンがニヤリとして、頷いている。
「エブリン、変な事言わないでよ。短い付き合いだけど、君が何かを企んでいることは、スグ分かるんだから」
やらかす前に止めようと、クチをふさいでおく。
でも、違った。
動いたのはイオナだった。
「ふふふ、マスターの気品を見破るとは、見処ありますね。このお方の正体は、唯一無二のネームドテイマーにして、ナデナデの王なのです。びっくりしたでしょ。さあ、存分に敬いなさい」
「……ナデナデの王?」
そっちに反応してくれて、良かったよ。
いや、良くないか、恥ずかしさ倍増だよ。チラチラこっちを見ているし。
「オホン……まあ、何にしても、持ち込みは大歓迎だ。これからも頼んだぜ」
解体師さんが、話を切り上げてくれて助かったよ。
あれが大人の対応ってヤツだな。痛みを知る者は弱者に優しいよ、感謝です。
「取りあえず、これからは目立たないよう、気をつけるよ。最初で立ち位置が決まるって言うから、慎重にいかなくちゃ」
「らぎゃ!」
「任せてください」
敬礼する姿に、ちっとも安心できない自分がいる。本当に大丈夫かな。




