第1話 追放は突然ですね
――テイマーギルドの従魔宿舎
「おい、ワンダーボーイ!」
突然、名前を呼ばれた僕は振り返る。
するとそこには、新しくギルマスになったトランプさんがいて、いきなりグーパンチで殴ってきた。
「ええぇぇぇえぇぇえ?!」
あまりのショックで固まった。
「えぇぇじゃねぇよ。お前の世話したグリフィンが、仕事先で大暴れだ。これは全てお前の責任だからな!」
と、その言葉で我に返る。
「ま、待って下さい。病気のあの子を仕事にって。ウソでしょ?」
「あっ……(そうだった)」
トランプさんはバツが悪そうに口ごもる。
「絶対に病院へ連れていくって、約束をしたじゃないですか、それなのになぜ?」
「うぐぐっ、ク、クチごたえするんじゃねぇぇえぇ! 仕事が優先に決まっているだろ。それをフォロー出来ない管理に問題があるぞ。やっぱりお前の責任だぁぁああ!」
僕の仕事は、このギルドで行っているレンタル従魔の世話係だ。ギルドメンバーの従魔がここに集められ、それを一手に引き受けている。
「責任があるからこそ、今回のことは納得いきません」
僕は譲らない思いで強くでた。
だがトランプさんは苛立ち、更に僕を責めてくる。
「うっせえ。そんな事よりもお前の事だ。ここはテイマーのギルドだぞ。1匹もテイム出来ない能なしは必要ないんだよ!」
「うっ、そ、それは……」
これには僕も言い返せない。それは僕のジョブに原因があるからだ。
実は僕、ユニークジョブの持ち主。だけど、そのジョブが問題なんだ。
「ふん、ネームドモンスター専門テイマーだっけ? 文字通り、ネームドモンスターしかテイム出来ないって、どういう事だよ。なぁ、名前ばかりが大層で、全く役に立たないジョブ持ちが、ギルマス相手に偉そうな意見を言ってもいいのかよ、えっ?」
と、意地悪な笑い。
ネームドなんてレアなモノ、滅多に会えない幻と言ってもいい存在だ。テイム出来る機会なんて皆無だ。それを分かっていてのセリフだ。
「おい、聞いてるのか。この従魔なし。お前はこの5年間で結果を出せたのか?」
「いいえ、何も出来ませんでした」
つぶやく様に答える。
「だったら、ギルドでの価値はないよなぁ? つまり、お前は追放だあぁぁぁああ!」
「えっ、つ、追放?」
思ってもいなかった言葉に呆然となった。
「そ、そんな、誰か替わりがいるんですか?」
「そんなのいらんわ、職員で充分だ」
「いや、そうじゃなくて。僕が持っている【加護】の恩恵は知ってますよね? アレが失くなるって事ですよ?」
「すんごい効果があるんだっけ? ハッハッハー。そんな安っぽいウソで騙されるのは、前のギルマスだけだ、ボケェ」
「……マジでこの人分かっていないんだ」
オラつくトランプさんに、僕は絶句した。
実際に加護の効果で、従魔の能力は上がっている。他のテイマーさんにも好評だし、なによりギルドの急成長の大きな一因だ。
「それなのに、従魔がいないってだけで追放は、いくらなんでもメチャクチャですよ」
ゆっくりとした口調になる。
「ふん、何言っていやがる。このウソつきで、役立たずで、従魔もいない人間を、必要とする場所はここにはねぇよ」
今までこの人とは、それなりに付き合っていたつもりだ。でも、それがギルマスになった途端これだなんて、立場で態度が変わる人なんだ。なんだか心が冷えてきたよ。
すると、横にいたユニコーンが、心配をして話し掛けてきた。
『ワンダくん、揉めているなら、私がガツンと言ってやろうか?』
鼻で優しくつついてくる。
「あっ、大丈夫だよ。キミは昨日の行事が大変だったしさ、休んでいてよ」
この言葉だけでも救われる。ちゃんと従魔と付き合えていた証拠かな。
「ほら出た、キッショイ独り言。ひくわ~~~~~~~~~~~~~~っ」
と、腰を振って笑うトランプさん。
「いやいや、声掛けって他のテイマーでもしているよ。別におかしい事じゃないでしょ」
「バカか、道具に媚びを売りやがって。コイツらはゲンコツで言う事を聞かせればいいんだよ。こうやってな、ウリャャャャャヤ!」
トランプさんは、急にユニコーンの鼻面を殴りとばした。
『イッタイ。このオヤジ、何様のつもりよ!』
なんの理由もなく殴られたユニコーンは怒り、いまにも噛みつきそうな勢いだ。
慌ててユニコーンを止めるけど、トランプさんの方がその態度に怒りだした。
「なんだ従魔のクセに、その反抗的な目は? よ~し、徹底的に教育してやる。おい、そのホウキを貸せ」
と、詰め寄ってくるトランプさん。
「貸す訳ないじゃん、何いってんのさ」
『ワンダくん、危ない。いま助けるからね、エイッ!』
ユニコーンの強烈な体当たりだ。
「いだだだだだだぁぁぁぁああ! つ、つ、突き飛ばしたな。お前がやらせたのだろ。おい、警備員ー、コイツをつまみ出せ」
ヨタりながらも悪態をついてくる。
『ワンダくんを放せ。もうこうなったら、この角で土手っ腹を……』
ユニコーンがグッと体を沈ませた。
「わ~~~~~、止めなよ。トランプさんもほら、ユニコーンに謝って下さい」
他の従魔もあちこちで騒ぎだして、もう現場は大混乱。
『能無しトランプに鉄槌を!』『ワンダくんを助けるぞぉぉ』『デッカイ尻を噛んでやれ』
どんなになだめても、みんな聞いてくれない。それほどトランプさんに怒っているんだ。
このままだと、トランプさんの身が危険だ。
僕はみんなを止めるためと、自分でも驚くほどの大きな声をだした。
「もう、やめろおおぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
…………みんな動きが止まっている。よ、良かった。でも、ここまでかな。
「……トランプさん、今までお世話になりました。僕……ここを出ていきますよ。でも、最後にもう一度聞きます、本当に僕は追放なんですね?」
『ワンダくん……』と、従魔たちは寂しそうにしてくれている。
「ヒャッヒャッヒャー。撤回されると思ったのか? バカなやつめ。それとグリフィンの件、賠償があるから給料は出ねぇぞ」
「もう、それでいいですよ」
肩をすくめて答える。
「それと退職金もだぞ」
「好きにしてください」
「おーし素直じゃねえか。それじゃあ、さようならだな。グッバイ、お疲れちゃ~ん。従魔なしのテイマーく~ん」
トランプさんは、また腰をふって高笑いをしていた。
10才から懸命に働いたギルドなのに、呆気ない終わり方だった。
だけど。
「あーはははははーっ」
あまりの理不尽さに、笑えてきた。
「こんなに嫌われてまで、ここに居る理由はないよ。ギルド生活もここまでだ。逆にサッパリして、感謝かな」
と、軽い足取りで歩き出す。
僕はユニークジョブの他に、神からの贈り物と言われている【加護】を持っている。
当然だけど、性能は破格。誰もがうらやむモノだ。
そして加護だけじゃなくスキルだって、他では見たことのないモノ。レベルの上限が【神】だ。
「加護と神上限、前代未聞の組み合わせか……ふっ」
自分の境遇に苦笑する。
「ステータスオープン……」
名前:ワンダーボーイ
ジョブ:ネームドテイマー
物理戦闘力:F
魔法戦闘力:D
加護:ラケシスの寵愛(運命の神により、全てのスキルに恩恵が生じ、その効果が10倍になる。不屈、勇気、博愛を元にその範囲は変動する)
スキル:能力アップ《1/神》 スキルアップ《1/神》 会心率アップ《1/神》 慈しみの風《1/神》 テイマーの愛《1/神》 状態異常(回復、付与率)《1/神》
(上限神=最終的に神のレベルまで行使できる。成長率も高水準)
「従魔がいないから、テイマーとしてスタート地点にすら立てないか。ふっ」
また苦笑しちゃったよ。
「ネームドに会える運、それが一番欲しいかな」
案外に気楽でいる自分に戸惑いながら、笑ってギルドを後にした。
【みなさんに感謝です。日間44位、ありがとうございます】
高い確率で星評価やブックマークをしてくださり、ありがとうございます。
読んでくださる人数に対して、かなりのポイントをもらい、自己最高です。
他の作者さんみたいに、1日で1万や2万PVとかはいきませんが、これからもより多くの人に読んでもらえる様、僕なりに頑張ります。
それでは、本編を楽しんで下さい。