004 迷宮探索へ
「――申し遅れました、私の名前はダッキと言います」
「改めて、俺はキリカだ。よろしく……で、いいのかな?」
「はいっ!」
ダッキを先導するように飛ぶ二つの火球が石造の通路を照らしていく。
俺たちは、とりあえずこの迷宮を脱出するために動き始めていた。
「ところで、ダッキは……どうしてここに? まさか道に迷ったってことはないと思うんだが……」
「あ……それは、ですね」
三つの銀色の尾がしゅんと垂れ下がる。同時にダッキの耳と表情も、暗くなった。
(……三つ? ついこのまえ会った時は、一つしかなかったような……)
見間違い……あるいは、死んだ衝撃で記憶がおかしくなったか。
(まあ、大したことはないか)
そう結論づけて、俺は彼女の言葉を待った。
「あの時……半年前、キリカさんと別れてすぐに予感がしたんです。危険な予感……キリカさんが死んでしまうような、そんな予感が」
「……半年前?」
「はい、半年前です。あ、でもでも、正確な日数ではないと思います。眠りに落ちた回数で数えていたので……」
「えらく曖昧な……いや、それにしてもだ。俺が死んだのは、ついさっきじゃないのか?」
「……おそらく。私は、半年前……キリカさんが石橋の上から落ちるのを見ました。なんとか助けようと思って、お礼を返したくて……でも、間に合いませんでした」
(見ていた、か……。しかし、だとすれば目撃者を放っておくほど甘い男じゃないぞ、オルメダーラは……)
オルメダーラの探知は、隠蔽された魔力痕ですら感じ取ることができる。探知範囲も広く、その気になれば一キロ圏内はオルメダーラの手のひら。
俺が落ちるところを目撃できたのであれば、オルメダーラの探知に引っかかっていたはず。そうだとしたら、彼女は消されていてもおかしくはないはずだ。
(見たところ無傷……ダメだ。わからないことが多すぎる。混乱してるってのもあるが、まずは話を聞こう)
「あ、あの……? 私の顔になにか……?」
「いや……続けてくれ」
「はい。キリカさんが石橋から落ちて、キリカさんを追い詰めたあの三人が去るのを待ってから、私は下に降りる決意をしました。もしかしたら、キリカさんは生きているかもしれない。なんとなく……私の勘というか、キリカさんを追いかけた方がいいと思って」
それで、と……ダッキは言った。
「約半年かけて、ようやくここまで来ました」
「生きてるのかわからない俺を探して……こんな迷宮の深くまで?」
「はい」
「どうして……そこまで」
たった一回、迷子になっていたところを助けただけだというのに。
どうして彼女は、危険を冒してまでこんなところに。
ダッキは、両肩をすくめた。
「自分でも、わかりません。私、実は記憶がなくて……。どうしてあの森にいたのか、どうして生きてるのか、どういう私だったのか、わからなくて。でも、キリカさんを見てから、私のなかが熱くなって……」
ボロボロになったリュックを抱いて、愛おしそうにダッキはそれを撫でた。それは、俺が彼女にあげたものだった。数日分の食料を詰めたそれを、俺はあの時の彼女に渡していた。
「あなたについて行けば、きっと自分がわかるかもしれない。ただの勘ですけど」
顔を赤らめて言うダッキ。率直に言って、異常だなと思った。けれど、
「……なんか、ありがとな」
(目覚めた時、こんな姿になっていると知ったら……俺はもっと取り乱してたと思うし、寂しくて死んでいたかもしれない。スケルトンだけど)
きっと、今よりもひどく混乱して、落ち込んで、ワケもわからず暗闇の中を彷徨っていたと思うから。
だから、ありがとう。
「い、いえ、そんな……。私も、実は少しずつ記憶が戻ってきたんです。とはいっても、身を守る術ばかりで肝心なことは何一つ思い出せていないんですが……」
と、その時だった。
俺の探知に魔物の気配が引っかかった。
「前方から魔物だ。多分、リザードだろう。俺の知ってるヤツらより幾分か強い霊威だが」
今、進んでいる通路は一本道だ。戦闘は、避けて通れない。
「……そういえば、俺も魔物だけど……襲われるのか?」
「魔物同士でも争いは起きます。ここに来る途中でも見ましたが、同じ種でも群れが違ったりすれば敵のようです」
「なるほど。爬虫類系が多い迷宮だしな、スケルトンは場違い極まりない」
そして案の定、通路の奥から現れたリザードは、俺たちの姿をみて威嚇を開始した。
「ギュエエ、ギュエエエエエエエ……ッ」
滑らかな体型に褐色の肌で這う爬虫類の魔物。
リザードの中でも一般的なタイプのそいつは、蛇のように長い舌を吐き出すように射出した。
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