幕間
『おはよう。いや、おやすみ?
う~ん、どっちが正しいかしら? ねえ、ちょっとあなた。
夢の中で出会った時の挨拶って、知ってる?』
ぼんやりとした世界で、白色の少女が悩ましげに言った。
『え? 初対面だからまずは〝はじめまして〟……?
確かに、そうね。……あと、服を着ろって?
やらしー。そういう目で見ないでくれるかしら?』
『幼児体型に興奮しちゃって……まあ、夢の中だからねえ。
好きに興奮すればいいんじゃない?』
『おっと、あまり時間がないのよね。だってこれ、夢だから。
そう、夢。
未だ解明されていない謎とエロスとリビドーに満ちた世界』
『あはは、困ってる困ってる。言ってる意味がわからないって顔。
そりゃ、夢なんだからえっちぃ夢を見たいよねえ。
でもでも、あたしはそういうところサービス旺盛とは思わない?』
『だってほら、全裸だし。大事なところは霧で隠れてるけど。
なぁにガッカリしてるの。あなた、
僕そういうの興味ありませんみたいな顔しておいて、下半身に忠実なのね』
『――って、そうじゃない。あまり時間ないのよ。
無駄話はやめましょう。お互い、有意義な時間を過ごしましょうね。
だって、夢だから』
『ちなみに言うと、あたしとあなたはまだ出会ってすらいない。
あなたが一つの結末を迎えたことによって、新たな物語が始まった。
どういうわけか、そこであたしとあなたの、過去と未来が繋がった』
『……どういうことかわからない? まったく、要するにね、
あなたが死んでくれたおかげで、閉じていたあたしの未来が開かれたのよ。
これもよくわからない? えっとねえ……この先、
近い未来であなたとあたしは出会うことになっているって話』
『じゃあ、どうしていま会えるのかって?
ほら、これは夢だから……未来と過去が錯綜する不思議空間だから。
あとは……関係あるかわからないけど、あなたの持つソレ。
時を操る練剣が関係してるのかも』
『時を止められるけど、そのぶん体に負荷がかかる。
なるほど、だから逃げる最中に使わなかったのね。
負傷している状態で使うってことは、自傷するようなもの。
開放しないで走って逃げたほうが距離も稼げるってことね』
『とは言っても、通常状態でもろくに使えなかったようね。
体にかかる負荷が大きすぎる……なんて微妙な能力なんでしょう。
あなたの契約したソレ、ハズレなんじゃない?』
『……え? どうしてそこまで知ってるのかって?
ほら、ここは夢だから。あなたのことならなんでもわかっちゃう。
……あなたには、あたしのことがわからないって?』
『そりゃ、こういうことに慣れてないからでしょ。
あたしのような存在にとっての専売特許だからね、これは』
『それと、一つだけ疑問なんだけど……。
どうしてオーレリアは、あなたの能力を知らなかったの?』
『あなたが知らせてない、隠してたってことはわかる。
けど、どうして彼らに教えてなかったのか……あなたの感情まではわからない。
どういう意図があったの?』
肌も、髪の毛も白い裸体の少女が、色素の薄い瞳で俺を覗き込む。
夢の中だというのに、彼女から甘い香りがした。
情欲を誘う、官能的な匂い。
俺は、誘われるがままに口を開いた。
『……ふぅん。使いこなせるようになってから話す予定だったの。
こんな中途半端な力をドヤ顔で披露するなんて、確かに恥ずかしいわね。
だから練剣を解放できてないと嘘を吐いてた、と』
『くだらない見栄のおかげで自死という結末を選べてよかったわね。
そのおかげで、あなたとあたしは繋がったのだから』
『……そろそろ時間ね。目覚めるのよ、あなた。
おめでとう。あなたは蘇る。不本意な生かもしれないけれど』
『? 目覚める前にあたしの名前を教えてほしいって?
んー、別にいいけど……これって夢だから、
どうせ覚えてられないわよ?』
『それでも教えてほしいの? なに、惚れた?
ふっふ~ん♡ まあ、悪い気はしないわね♪
なんたって、千年と数百年ぶりに容姿を褒められたんだから』
『特別にあたしの名前を教えてあげましょう。
あたしの名はベ■ゼ■■■ト。人呼んで貶められた……って、
なに? ほとんど聞こえなかった?』
『……ふむ。あなたとあたしの格の違いね。
名前を認識することができないほど、あたしとあなたの間にある
溝は深いってことか。鍛えて出直してきなさい、ざっと千年くらい』
『とは言っても、あんた……とか、きみ……とかって呼ばれるのは嫌ね。
――うん、決めた。じゃあ、この名前を使おう』
『あたしはバアル』
バアル――そう名乗った白色の少女は、俺の両頬を手のひらで挟み込んだ。
『お姉さんからアドバイスよ。
まずは、目の前にいる狐人族を大切にしなさい。その子は、
あなたが生きてここから出るために必要な仲間よ』
言って、少女が足元から消えていく。
気がつくと、俺の姿も霞んでいって――
『せいぜい足掻きなさい。臆せば死ぬわよ。
そして、ようこそ――こちら側の世界へ』
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