表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/18

002 裏切り②

「はぁ、はぁ……、くそ……っ」


「キィエエエエッ!!」



 襲いかかってくる魔物たちの隙間を縫って、薄暗い通路を走る。

 額から脂汗が落ちた。

 休む間もなければ、麻袋を漁る暇もない。

 

 予想以上に魔物の数は多く、オーレリアたちも本気で迫ってきているようだった。

 かろうじて魔物が足止めをしてくれてはいるが、



「キィエエエエエエエエッ!!」


「チッ……!!」



 魔物は、平等に侵入者を殺しにかかる。そこに慈悲なんてあるはずもなく、むしろ弱っているなら好機と襲いかかってくる。


 前方から飛んでくる火球が髪を掠める。他の髪に引火しないようすぐさま引き抜いて、火を吐く蜥蜴(トカゲ)の魔物――サラマンダーを忌々しく睨みつけながらそばを通り抜けた。


 追われていなければ、剣を振るう余裕があれば、確実に殺していた。

 だが、今の俺は逃げることが精一杯ときてる。

 


「ちくしょ……ッ!!」


「焦るのはよくない。今は必死に逃げることだけを考えるべきだよ、キリカ」


「――ッ!!?」



 耳元でそう囁かれ、俺は激痛を無視して剣を抜いた。

 振り抜いた刃は虚空を切り、



「オぉーレリッアぁァッ! 俺が貰っちまうぜ、こいつの心臓をよォ!!」


「くゥッ!!」



 寸分違わず突進してきたトーマスの槍が脇腹を掠める。続け様に繰り出された薙ぎ払いを剣で防御して、俺はまた駆け出した。



「ハッハーッ!! やべえなアイツ! 攻撃の勢いを使って逃げやがった!」


「肉体、精神ともに追い詰められると人間は、生き残るために様々な物質の分泌をはじめる。今の彼は、脆いがその分研ぎ澄まされた抜き身の刃だ。逃げる方向にしか意識が向いていないけれどね」


「……俺に任せてください。あとは、俺が。俺の手で」



 背後から、暴発したように霊威が上昇する。これは、オーレリアのものだ。

 抑え込んでいた霊威を解放した……ということは即ち、



「――波風唄(なみかぜうたえ)え」



 錬剣(エボルシオン)の解放。それに他ならない。



颶風逆巻く水陣(マナンティアール)


「――ぐふ、ァッ!!?」



 俺とオーレリア、彼我の距離約三十メートル。

 それを一瞬にして埋めたのは、オーレリアの刺突から繰り出された水流だった。


 瞬時に振り返り、剣で防御の型をとるも、激流に轟く水圧を真っ向から防ぎ切ることなど不可能。


 一瞬にして押し返され、吹き飛ばされ、勢いの止まらぬ水流に体を潰されながら通路の奥まで転がされた。



「が、ぁ……」


「終わりだ、キリカ」



 水の勢いが止まり、仰向けとなって力尽きた俺の視界にオーレリアが映る。

 冷たい石畳の上。

 逃げ場を求めて動いた視界の端には、切り取られたかのような溝があった。


 否。溝ではなく、穴。崖。

 わずかに吹き上がる風の音が鼓膜を掠めた。



「安心しろ。息の根を止めた後、この橋からおまえを落とす。どれほどの高さかは知らないが、万が一にも生存の可能性はない。俺は用心深いから、二回……殺すよ。おまえを」


「……、…ぉ」



 言葉が出ない。先の一撃で、内臓がひどく攪拌(かくはん)された。骨も折れている。一つひとつの凄絶な痛みが脳を刺激して、息すら吸えないし意識も暗くなってきた。



(だが、発しろ……唄え、うたえ……ッ!!)



「と、きよ……とま……れ」


「これで……俺を遮る者は居なくなる。目の前の景色が見える。風通しが良くなって、変に誰かを意識する必要もなくなる。俺は、俺のままで、俺のペースで歩いてもいいんだと……」



 オーレリアの長剣が俺の肌を這う。喉から搾り出すように、音を吐く。



「お前は……うつくしい」


「こんな状況でなにを唄っている。死の間際に()でも浮かんだ―――まさか」



 驚愕に見開くオーレリア。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 視界に飛び込む暗黒。奈落の穴。

 俺はそこへ向かって、手を広げた。



「待て――死ぬな、俺に殺させろッ!!!」


「―――」


「キリカぁぁぁぁぁあッ!!!」



 背後から轟くオーレリアの絶叫。

 せめてもの、最期の抵抗として俺は、精一杯の笑みで一瞥(いちべつ)をくれてやり――俺は石橋の下へ落ちていく。



(……死ぬな。確実に。とはいえ、誰かの手に……アイツの手によって殺されるくらいなら……。結末は、俺が選ぶ)



 やがて出血多量と、()()()()()代償によって死ぬ。

 奈落の底に叩きつけられるのを待つ必要はない。それだけが、不幸中の幸い。

 そして、俺の選んだ結末。

 


(どうしてこうなったんだろう……っていうのは、常套句かな。しかし、どこで間違ったのやら。いいや、狂ったのか)



 まさか、危険度(レート)SS相当の〝人喰い狐〟を狩るつもりが、俺が仲間の手によって狩られてしまうなんて。


 まったくもって意味不明。ワケがわからない。

 


(いや、オルメダーラさん……オルメダーラの言う通りかもしれない。俺は、知ってしまったから)



 オルメダーラの屋敷。その地下で行われていた夥しい実験の痕。

 いったい何を作ろうとしているのか、何を編み出そうとしているのかまではわからない。ただ、それを知ったから……。



(オーレリア……おまえはヤツの口車に乗せられたのか? それとも、本当に俺を……)



 どのみち、考えたって仕方がない。

 体はいっさい動かないし意識も途切れてきた。このまま、あとは死ぬのを待つのみ。



(……俺の人生、なんだったんだろうな)



 きっと、あの時。

 オルメダーラの屋敷でアレを見なければ。


 ……否。逃げず、立ち向かっていれば。


 己の正義感と向き合い、オルメダーラと戦うことを選んでいれば。


 悔やまれる。

 あの時から、こうなることは決まっていたのだ。


 俺は、俺の戦いを放棄したのだから。



 ――そして、痛みがなくなり。

 

 俺の意識は、


 微睡んでいく――。

 


「おもしろかった!」

「続きが気になる!」

「早く読みたい!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも嬉しいです!

ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ