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015 成長

「……よし。完治した。すまないな、二人とも。時間を取らせた」


「キュルル♡」



 両腕、肋骨ともに完全再生した俺は、暇つぶしに倒したリザードを積み上げて遊んでいるアリアドネとダッキに声をかけた。


 アリアドネの巣に引っかかり、身動きが取れなくなっていたリザードは皆アリアドネの毒によって死に絶えた。格上の魔物でも、アリアドネの巣にかかれば彼女一人でも倒せる。



「ふぁい、行きましょう!」


「ダッキ、また食べてたのか?」


「もぐもぐ……えへへ、ごめんなさい。またお腹すいちゃって……」


「おまえの胃袋はアイテムボックスみたいだな」



 積み重ねられたリザードの死骸は二十以上。

 さらに、アリアドネとダッキの食事として骨になったのも二十と少し。


 そのうちの数体はアリアドネが食べたが、残りはダッキがすべて、この数時間のうちに食べ尽くしてしまったのだ。



(……よくよく見ると、積み重ねられたリザードも心臓部だけ穴が空いてるな……。毒で倒したはずなのに……食べられるのか?)


「えへへ……照れちゃいますね」



 顔を赤くして爆食いを恥じているダッキ。成長に合わせて、食欲も増しているようだ。



「でも、食べても食べても満足できないんです。なんか違うなーって。私が食べたいのは、これじゃない……というか」


「飽きたんじゃないか? ダッキに関しては二年以上も同じ肉が主食になってるだろうし、そりゃ飽きるぞ」


「そうですね……そろそろ、違うお肉が食べたいです」


「キュ……キュル?」



 スッと、横目でアリアドネを見遣るダッキ。アリアドネは体を震わせ、逃げるように俺の肋骨へと入ってきた。



「……食うなよ?」


「冗談です」


「なら、いいが……」


「キュル……」


「じょ、冗談ですって……!」



 震えるアリアドネを抱えながら、俺たちは歩きはじめた。

 

 前方方向に広がる、アリアドネの巣を焼くためにダッキが火球をぶつける。



「もう一つ灯りを増やしたほうがいいですね。——火の手を上げろ(プエスタ)



 新たに生み出され、合計六つとなったちいさな火球が道を塞いでいた巣を静かに焼いていく。

 瞬く間に巣が消えていき、アリアドネは複雑そうにそれを見ていた。



「ダッキのそれ……これまで使っていた魔法とは違うよな?」


「え? ——あ、そうですね。これまではただの灯りとしてしか機能しない火球、触れても熱くない、燃やすこともできない松明代わりの魔法でした。ですがさっき、ようやく思い出したんです。攻撃系統の魔法を!」



 これはそれの一端です。そうドヤ顔で進んでいくダッキの後ろをついていきながら、俺は静かに拳を握った。



(歯痒いな……俺だけ、置いていかれていく感覚だ)



 同じ場所……いや、俺より少し後ろを歩いていたはずの彼女が、いつの間にか俺を通り越していた。そんな感覚。

 


「時間と共に、あるいはピンチに陥ったら、なのかはわかりませんが、モヤがかかっていた景色が急に見え始めて、それの正体が空だったとわかるように、魔法の扱い方だけがとつぜんわかるようになるんです。

 なので、これからはキリカさん一人だけに痛い思いをさせたりはしません」



 言って、柔和に笑うダッキに、俺は背を蹴り飛ばされた気分になった。

 


「私も一緒に戦います。キリカさんと一緒に骨を折って、砕かれて、骨を折り、砕いてやります」


(……そうか。なんとなく、オーレリアの気持ちがわかった)



 ダッキの表情、瞳から向けられる絶対的な信頼。

 私なんてまだまだですと、格が上の存在から言われる謙遜ほど嫌味ったらしいモノはない。


 けれど、



「頼りにしてる。だが、傷付く役目だけは譲れないな。それは俺の専売特許だ。俺がいる間は、後衛のダッキに傷一つ負わせない」



 そう、慣れている。

 S級冒険者から王族特務に引き抜かれた親父。

 およそ戦闘に関して群を抜く資質を持ち合わせた姉のような存在。

 

 他にも、俺より才能のあるヤツらの中で、俺は戦ってきた。

 今さら、不貞腐れるような俺じゃない。

 むしろ、この状況では心強い。



(俺は強くなる。もっと強くなりたい。人間だった頃の俺よりも、もっと……)



「……キリカさんは、やっぱりすごい人です」



 そう言って目を細めたダッキは、ふと視線を前に投げた。それに遅れて、俺の探知(パルス)が反応した。



「この霊威……大きいな。十中八九リザードマンだろう」


「私も、なんとなく感じます。今度は気配を感じ取ることができるリザードマンのようですね」


「あんなヤツが何体もいられたら困るから、もう二度と現れないことを祈るよ」


「まったくです」


「キュルル!」



 肋骨の中からアリアドネが高い声を上げた。どうやら巣を作るかと聞いているようだったが、俺は首を振った。



「ダッキとアリアドネは後方を警戒していてくれ。前のアイツは、俺が一人でやる」


「いけません、キリカさん! 私もお手伝いさせてください!」


「頼む、一人でやらせてくれ」



 スケルトンとリザードマン。その格の差は一目瞭然だ。

 体の頑丈さ、攻撃性能、搭載された筋肉……どれをとっても勝てる要素なんてない。


 だが、それだからこそ、勝った時に得られるものは大きい。

 


「無茶な戦い……死ぬかもしれないという死線を潜り抜けた果てに、進化があるはず」



 進化を経験したことがないからわからないが、おそらく進化とは脱皮のようなもの。

 さまざまな経験を積んで、傷ついて、成長しなければ脱ぎ捨てる殻すら得られない。



「……わかりました。ですが、本当に危なくなったら止めに入りますから」


「ありがとう」


「キュルル♡」


「おまえもありがとう。危ないから離れていてくれ」



 そして、俺は二人に見守られるようにして立つ。



闘う気概をこの手に(アラストラール)



 全身に黒紫色の稲妻が走る。魔力が、無くしたはずの筋肉の代わりとなって俺に纏わりついた。


 こちらの準備を終えた頃に、ソイツは現れた。リザードとは似ても似つかない漆黒の体表に、異様に発達した両脚。だらりと脱力した両腕は、俺の姿を視認した途端に地面に触れた。


 人型であるリザードマンを踏襲した、またもや異質な魔物が四つん這いの姿勢となってこちらを威嚇した。



「きえええ、き、きええ、きえ、きき」


「新種の宝庫かよ、ここは」



 その佇まいは、もはや爬虫類などではなく、



「虎……獅子……獣にでも憧れたか、おまえ」


「気をつけてください、キリカさん。おそらく機動性に優れたリザードマンだと思われます!」


「わかった」



 視線を固定したまま、うなずく。

 腰を落とし、柄に触れる。

 A級冒険者とほぼ同程度の霊威を放つソイツ——黒色リザードマン。


 いい訓練相手に巡り会えたことに感謝して、俺は剣を抜いた。

 同時に、



「きえええええ」



 黒色リザードマンは、四つの四肢を使って跳ねた。

 

 

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