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013 対虹色リザードマン①

 当初、俺が殺される前に出会ったダッキは、貧相な体つきをしていた。


 例えるなら、奴隷。ろくに食事を与えられず、しかし酷使されて痩せ細った体。骨の上に皮を貼ってつけたような、そんな体つきだった。

 

 年齢で言うと十二歳前後だろうか。尻尾の数は一つしかなかった。



「んん、ぅ、ぅ……ふ、ぁ……」



 二度目の邂逅。スケルトンとなり、彼女と再会した時にはすこし成長していた。約二年、魔物の心臓や肉を食べたことにより、肉付きが良くなった気がする。太った、というワケではなく、ちょうどいい感じ。


 年齢で言うと十五歳前後だろうか。尻尾の数は、三つに増えていた。



「んぅ、く、ぁ、ふ、ぅぅっ」



 そして現在。年の頃は変わらず、しかし大人びた雰囲気と、大人として扱うに足る体つきを伴ってダッキは成長していた。スケルトンである俺が目を引くほどに、彼女は美しい。



「んっ、くぅ、は、ぁぁっ……」 



 献身的で、気が利いて、俺の周りにはいなかったタイプの女性だ。

 きっと、こんなところにいなかったら、えらくモテていたに違いない。



「んんぅっ……」


(……ところで、さっきから何をうなされているんだろうか。顔が赤い気がするし……寝てるのか、本当に?)



 顔と肌を赤くして、うわずった息を吐くダッキ。足をクネクネさせて、手を股に挟めて眠っている。半身に潰された五つの尾が、忙しなく動いていた。



(まあ……悪い夢を見ているワケではなさそだから、起こすのはよそう)



 聞いてるこちらもなんだか悪い気がしてきたので、俺は無心のまま、あわよくば寝ていたと言わんばかりに身動きひとつ取らず、みんなが起きるのを待った。






「おはようございます、キリカさん」



 どれくらい経ったのか、ダッキが妙にスッキリとした表情で起き上がった。



「おはよう、ダッキ。よく寝られたか?」


「はい、おかげさまで」


「キュルル~……」


「アリアドネはまだ眠そうですね。いい加減、キリカさんに寄生していないで自分の足で歩いたらどうですか?」


「キュルル……♡」


「気に入ってるのはわかりますけど、あまりキリカさんに迷惑をかけてはいけませんよ?」



 俺の肋骨で蠢きはじめたアリアドネに、ダッキが小言をいいながら身支度を整える。


 崩れた服装を正し、ぴょこんと跳ねたアホ毛を手で直すダッキの背後で、五つのふさふさな尻尾が揺れた。銀色の、とても美しい毛並みだ。


 

(……やっぱり増えてる)



 狐人族は、成長に合わせて尻尾も増えるのだろうか。

 ダッキ以外の狐人族と出会ったことがないから、わからない。



(安易に触れていいものなのか……女の子だしな、デリカシーに欠ける問いかもしれない)



 体の一部だ。もしかしたら、あまり触れては欲しくないことなのかもしれないし。



(ダッキは気付いているんだろうか……まあ、自分の体のことだしな。気付かないわけがないか)


「キリカさん、出発しましょうか。まずは朝食を獲りに行きましょう!」


「キュルル~っ♡」



 いつものように笑顔を振りまいて、ダッキが先頭を歩いた。アリアドネも上機嫌に声を鳴らして、俺の歩みを急かす。



「そうだな。行くか。きょうもよろしく頼むぞ、二人とも」


「はい、こちらこそです。キリカさんっ」


「キュルル~♡」



 言って、ダッキの隣に追いつこうと足の歩みを早めた。

 瞬間――



「きえええ」


「―――ッ」



 ほぼ勘だった。

 探知(パルス)には何も引っかかっていない。

 だが、なんとなく嫌な予感がして、振り返った瞬間だった。



足引く沼底(タルデ)



 俺の真横を通り抜けていく疾風。


 あと数瞬、避けるのが遅かったら。

 あと数瞬、ダッキの魔法が遅かったら。



「きええ、きええええ」


「てめえ……()()()()()()()()


「きええええええ」



 ギョロリとした細長い黄色の瞳が、俺たちを見据える。

 すれ違いざまにむしり取っていった肋骨を三本、ガリガリと食いながら、二本足のそいつは……二足歩行のそいつは、色鮮やかな虹色の体表を歪ませた。



「……消えたッ!?」


「ダッキ、俺の後ろに――」


「きえええ」


「――ッ!?」



 殺意に体が反射して、両腕をクロスに構える。瞬間、真正面から現れたソイツの拳が俺の両腕を砕き、



「キュルルルッ!!」


「きえ?」



 よろけ、後ろに倒れた俺を追撃することなく、ソイツは拳を突き出した姿勢のまま固まった。


 

「これは……糸?」


「キュルル!」



 いつの間にか、よく目を凝らさないと見逃すほどに細い糸が俺とソイツの前に張り巡らされていた。

 

 通路だけではなく、砕けた俺の腕や体にも蜘蛛糸が巻き付けられている。



「……あれだけの威力の拳を喰らえば、腕が粉砕するだけでは済まないはず。アリアドネはもしかして、キリカさんを守ったんですか?」


「キュルル♡」


「加えて、敵の動きも完封か。ここぞとばかりに優秀さを発揮してきたな、アリアドネ。えらいぞ」


「キュルルルル~♡」



 とはいえ、危険な状況なのには変わりない。



「きええ」


「触れたらやばそうだな、ぐらいの知能はあるのか、コイツ」



 慎重に、蜘蛛の巣に引っかからないよう拳を引き抜いた魔物は、細長い目をギョロギョロと動かしながら、俺たちの間にある蜘蛛の巣を観察する。


 

「……リザード、でしょうか?」


「進化したリザードマンだとは思うが……姿を消すだなんて、聞いたことがないぞ」



 おまけに霊威や気配を感じ取ることができないから探知(パルス)で追うこともできない。



「……目で追えない速さ、というワケではありません。確かに速度はなかなか、リザードとは比べ物になりません。またその攻撃性も……けれど、何よりも不可視が厄介ですね」


「ああ、まるでカメレオンだな」



 虹色に光る体表のリザードマンは、なすすべなくこちらを凝視していた。

 


(進化先は千差万別……なら、カメレオンのように周囲の色に溶け込むような性質を持った個体が生まれてもおかしくはない、か)



 ましてや、ここは爬虫類(レプティル)で構成されている迷宮だ。カメレオンに憧れる個体がいてもおかしくはない。



「とにかく、あいつをどうにかしないと進めないワケだが……」


「ですね。遠距離の攻撃ができればよかったのですが……物を投げて倒せそうな相手ではありませんし」


「迂回するしかなさそうだな。つっても、俺の腕がこんなだから、下手に動けないし……」



 粉砕してしまった両腕に視線を落とす。肋骨はともかく、この状態では戦えない。

 再生は始まっているようだが、損傷が大きすぎる。三十分以上は、かかるかもしれない。



「キュ、キュルル!」


「あっ、キリカさん、あのリザードマン……諦めて帰っていきますよ?」


「……諦めたのか?」



 ダッキの言う通り、虹色リザードマンは踵を返していった。

 あるいは、迂回するために戻ったのかもしれない。



「……とりあえず、腕が再生するまでここに――」



 直後、探知(パルス)に反応があった。

 リザードと思われる霊威が前方から、虹色リザードマンと入れ違うようにして現れる。

 その数は――



「二、四……十……っ!? おいおい、まだ増えるぞ、後ろからもだ!!」



 探知範囲に、続々と侵入するリザード。

 その数、概算して三十。

 それが前方、後方から……俺たちを挟むようにして集まってきていた。



「おもしろかった!」

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