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009 対冒険者②

「……なぜ殺さない?」



 ヘルガの苦渋に染まった声が聞こえた。



「聞きたいことは聞いた」


「はっ……そんなアマちゃんに一ついいことを教えといてやる」



 冷汗を流しながら、ヘルガは笑みを浮かべた。



「この迷宮はな……A級以上の冒険者、五人以上のパーティが揃わないと入ることができねえ。普段はな」


「……どういうことだ?」


「とある富豪が、この迷宮を踏破しようと凄腕の冒険者を集めた。色々と報酬が良くてな、到達した階層までのマッピング、資源等々を高く買い取ってくれるそうだ。

 それに便乗した等級の低いオレたちは、ハンデとして先行させてもらったのさ。つまり――」



 ヘルガの言葉を待つ必要もなく、俺は理解した。そして、運が悪いことに――俺の探知(パルス)が敵の霊威を捕捉する。


 背筋が(あわ)立つような感覚。


 この霊威、気配は紛うことなく――



「……S級か……ッ」


「ハハッ、探知(パルス)まで備わってンのかよ。おまえを生け捕りにすりゃ、多額の報奨金がもらえそうだぜ」



 急速にこちらへ近づいてくる巨大な霊威。ピキッと、彼我との距離が近づくたびに俺の骨に亀裂が入る。



(マズい……S級は……マズいッ! しかも、この気配は……()()かッ)



 生前の俺はA級だった。S級と一つしか変わらないとはいえ、そこにある溝は果てしない。


 ただでさえ脆い(カラダ)だ。A級冒険者として培った技量、多少ひとより多い魔力を保有するとはいえ、圧倒的に勝ち目はない。


 なにせ近づいてきているだけでこれだ。巨大な霊威に当てられただけでスケルトンの体は耐えられないし、一度でも攻撃がかすればどうなるかわからない。



(逃げるか? しかし――)


「ちなみに逃げても無駄だぜ。逃げるのは不可能だ。今こっちに向かってきてンのは、オレらの引率者で……オレら冒険者の頂点に立つ七人の一人にして、最速の――」


「ダッキ、来いッ」


「は――」



 俺の呼びかけに反応し、閃転(パテアール)を使った瞬間だった。



「いい閃転(パテアール)だ」


「――いッ!?」



 遮られるように、ダッキの前に女が現れる。手を伸ばし、ダッキの首を掴んだその女は、瞬間――俺の頭蓋に手のひらを伸ばしていた。



「!?」


「ほう、おまえもいい反応だ。感心するよ、まるで最弱とは思えない体捌(たいさば)きだな」



 アイアンクローの要領で、一瞬だけ頭蓋に触れた女の手から伝わった力を使って後ろに倒れて回避する。

 その勢いでサマーソルトキックを放つも、容易に躱された。



(危なかった……!! 彼女のことを知らなかったら、終わってた……ッ!!)


「安堵していてもいいのかな? これ、きみの足だろ」


「――ッ!?」



 片手でダッキの首を、もう片方の手で俺の右足首を持って、その女は悠然とたたずむ。



(全く気が付かなかった……! 痛みがないとはいえ、いつの間に……)


「変異種だな。霊威がまずもっておかしい。スケルトンのそれではないし、スケルトンである意味がわからない」

 


 表情は見えない。泣いているのか、笑っているのか、怒っているのか。それともその全てか。あるいは、はたまた別の表情を表しているのか。どこか気味の悪い仮面を装着したその女は、俺の右足首をこちらによこした。



「面白そうだ。私と戦え、スケルトン」


「うぐ、ぐ……に、逃げ、て……っ」


「それともアレか、この小娘が気になるか? なら――」 


「やめ――ッ」



 ゴギ、と音がして。

 ダッキの体から、力が抜けた。



「これで戦えるか?」


「おまえぇぇッ――」


「ほら、受け取れよ。大事なものならな」



 投げ飛ばされるダッキの体。それを受け取る前に、仮面の女が腰から剣を抜いた。振り下ろされる斬撃が、俺に迫る――



「キュルッ」


「アリアドネ――だめだッ」


「キュ――」



 俺の骨から飛び出して、身代わりとなって切り捨てられるアリアドネのちいさな体。

 それを踏み潰すかのように、ダッキが石畳を転がった。



「ぁ、ぁ」


「さて、奇跡はもう起こらないぞ」



 突きつけられる剣。

 仮面の女は、潤いの欠いた声音で言った。



「魔物にも神がいるのなら祈れ。いないのであれば、剣を()れ。身命を賭して私と戦え」





「――どういう……ことだ?」


「えと……?」


「キュル……?」



 俺は、訝しみながら後退った。


 同じく、俺の隣に()()()()()ダッキも首を傾げて、肋骨のアリアドネも不思議そうに声を漏らした。



(四人の動きが……停止した。それも、まるで眠ってしまったかのように。立ったまま)



 ヘルガと呼ばれた剣士、網目状の糸に絡めとられた女、魔導師の少女、そして救援に現れた仮面の女――全員が等しく、目を瞑って静止していた。



(S級冒険者……あのクリスティーナ・クロエですら謎の術にハマってる……というのか?)



 仮面を被っているから、正確には彼女が目を瞑っているのかはわからない。だが、よくよく耳を澄ましてみると、聴き慣れた寝息が聞こえてきた。


 本当に、立ったまま寝ているようだった。



「……誰だ? 誰の魔法だ……?」


「わかりません……キリカさんの探知(パルス)には、何も引っかからないのですか?」


「キュルルぅ……?」


「ああ……半径百メートルには、誰も……」



 背筋に冷汗が流れる。いや、背筋が無ければ汗なんてもの流れないのだが、そんな感覚がした。


 得体の知れない何かがこの近くにいる。きっと肌があれば(あわ)立っていたに違いない。

 


「とりあえず、逃げよう……他の冒険者が来る前に」


「そ、そうですね、行きましょう」


「キュルル♡」



 そして、俺たちは踵を返して……元来た道を引き返して行った。

 

 一瞬だけ、後ろ髪を引かれるように……仮面の女を視界に入れて。




『―――』





「……?」


「……どうかしましたか、キリカさん?」


「いや……一瞬だけ、肩に重みを感じて……あと誰かのため息も……」


「気のせい……ではないでしょうか? 肩には何もありませんよ?」


「そう、だよな……」







「ふはははは、私の名前を言ってみろ! なに、言えないだと?! おまえも父親同様私を泣かせる気かぁぁッ!!」


「ンな……ッ!? リリの霊威が……消えた……!?」


「んー、んー、リリの魔法は世界一ぃぃ……」


「……この人たち、どんな夢見てるんだろ……」


「おもしろかった!」

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