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001 裏切り①

新連載はじめました。きょう一日で十話ほど連続投稿していきますので、よろしくお願いします。

 胸から生えたそれが剣だと理解するのに、そう時間はかからなかった。



「――チッ。不意打ちで心臓を狙ったのに、よく躱せたな」


「お、オーレリア……、な、にをッ……!?」


「あーあ、チクショウ。めんどくせえ、そう都合よくはいかねえか」


「ぐ、ぅ――ッ!!」



 背後から蹴り飛ばされ、同時に剣が体から抜ける。

 激痛に喘ぎながら俺は、背後を睨みつけた。


 ――オーレリア。

 幼馴染であり、共にA級冒険者となった彼は、血の(したた)る剣を俺に向けて破顔した。



「相変わらず頑丈だな。いや、よく体が動くというべきか。末恐ろしいよ、その直感ってヤツは」


「どういう……どういうことなんだ、オーレリア……、これは……ッ!?」


「勘違いするなよ、キリカ。おまえは俺たちじゃなく、〝人喰い狐〟に食われて死ぬんだ。そういうふうに報告する予定だ」


「よ、てい……? 何を言ってるのか、さっきからわか……ごほっ!?」


「あまり喋るなよ。死ぬぞ。とはいえ、これから殺すんだけどな」


「……!?」



 笑みを貼り付けたまま、オーレリアが近づいてくる。

 明確な殺意。

 (はなは)だ、何が起きているのかわからないがこのままでは殺されてしまう。


 俺は出血する胸を押さえながら、腰の剣に手を伸ばした。

 その時だった。

 


「まだ仕留めてなかったのかよ、オーレリアぁ」


「と……トーマス……おまえまで……ッ」


「よう。お別れの挨拶をしに来てやったぜ」



 槍を肩に担いだトーマスは、ヘラヘラと口角を緩めた。

 聞くまでもなく、トーマスとオーレリアは共犯。

 獲物を逃さぬ獣のような視線が、それを物語っていた。

 


(いや、二人だけじゃない。おそらくは……)


「お察しの通りだよ、キリカ」


「――ッ!」



 弾かれたように体が振り返る。

 背後から現れたその姿に、俺は顔を歪めた。



「オルメダーラさん……なぜ、あなたが……っ!」


「なぜ、か。憶えがあるだろう? キミには」



 血を失いすぎたせいか、あるいはオルメダーラの言葉に記憶が反応したのか。

 情景がフラッシュバックする。

 


 ――薄暗い地下。長耳族(エルフ)の女性が、助けてと伸ばした干からびた腕。


 ――ドロドロに溶けた人の遺体。


 ――何かの研究施設と思われるそこで、貯水タンクのようなモノに入れられた生命体。



 ――何か、見たかい? キリカ。


 ――いいえ、何も。ちょっとトイレに迷ったぐらいですよ、オルメダーラさん。



(アレのことか……! 偶然、オルメダーラさんの地下でアレらを見たから……ッ! バレてたのか……!)


「しかし、本命は私じゃない。キミを殺したいと思い、話を持ちかけてきたのはオーレリアだ。彼の想いに応えてやってくれよ、キリカ。友達だろう?」



 うっすらと笑みを浮かべ、オルメダーラは手で正面をうながした。

 瞬間、俺の横っ腹に蹴りが食い込む。

 反応できずモロに食らった俺は、地面を転がって木に激突した。



「う、ぐ、ッ!?」


「よそ見すんなよ。オルメダーラさんのいう通り、俺が主役だ。俺から目を逸らすなよ」


「お、オーレリア……今なら、まだ……」


「間に合う? 間に合わないよ、キリカ。おまえは俺を、致命的に、後戻りできないところまで突き落としたんだ」


「俺が……おまえを……?」

 

「ムカつくんだよ、いつも俺の前に立ちやがる。俺が何かを成し遂げても、おまえは軽く向こう側に進みやがる。飄々(ひょうひょう)と、これくらいなんてことないはないと涼しい表情でな。引っ張ってくれる女が好きとか抜かしてくせに、いつもおまえは俺を引っ張りやがる」



 普段の、冷静で感情をあまり出さないオーレリアが、憎悪を剥き出しに荒々しく言葉を吐く。



「頼んでねえよ。したり顔でこっちを見るんじゃねえ。俺を――下に見るな」


「っ!?」



 眼前に立ったオーレリアが、剣を上段に構える。


 死ぬ――そう、意識した途端に体の内側から、猛烈な寒気が襲ってきた。



(俺は、死ぬのか? ここで、死ぬ?)

 


 胸から溢れる血。朦朧とする意識。体が、寒い。



「さようなら、キリカ」



 そして今まさに振り落とされた凶刃は、赤黒い体毛の獣に阻まれた。



「こ――コイツ、さっき仕留めたはずじゃ……ッ!?」


「――ッ!!」



 地を踏みしめ、巨体に似合わない素早い動きで突如この場に乱入してきた魔物により、オーレリアは突き飛ばされる。

 

 それは、老人の顔を怒りに染め上げ、深く傷ついた獅子の胴体を震わし、(サソリ)の尻尾を荒れ狂う鬼神のごとく躍動(やくどう)させた。



「――マンティコアか。さすがの生命力だ、傷の治りが速いし執念深い。オーレリアに夢中のようだね」


「チッ、雑魚が俺の邪魔をするなッ」


「おいおい、戯れてていいのかねえ? あいつ、逃げちまったぜ?」


「クソ、早く追えよトーマスッ!!」


「へいへい。つっても、そう遠くには逃げられねえだろ。ゆっくりと狩りを楽しもうぜ。——なあ、オルメダーラさん」



「ふふ。君たちはすこし、彼を舐めているようだ。窮鼠(きゅうそ)猫を噛む……追い詰められた獲物は恐ろしいよ」



「マンティコアが半分に……ッ!? 抜剣の瞬間が、まったく見えなかったぜ……! さすが、俺ら冒険者の頂点……S級!」


「立てるかい、オーレリア」


「……。キリカを追います」


「ああ、すぐにそうした方がいい」



 静止していた気配が動きはじめた。


 一瞬だけ跳ね上がった霊威は、おそらくオルメダーラさんのモノだろう。


 背筋が(あわ)立つほどの力量……感じ取ったのはその一端だが、その一端だけで俺の霊威を遥かに上回っていた。



(さすがというべきか、S級冒険者……!)



 全冒険者ギルドの頂点に立つ、七人のうちの一人。

 その中でも最強と名高いのが、彼……オルメダーラさんだ。



(たった一つランクが違うだけで、ここまで開きがあるのか……ッ)



「……っ、くっ……!」



 呼吸するたびに胸の傷口が痛む。滴る血が、俺の逃げる道を示していく。

 

 追いつかれるのは時間の問題だろう。どこに隠れようとも、血が俺の存在を匂わせる。


 

「……どこか、少しの間だけでいい……時間があれば」



 麻袋に入っている、父からもらった小瓶。

 あらゆる傷を癒やし、使用者を不死に近い体にすることができると謳われた、竜血。

 

 親父がどこでそれを取ってきたのかは知らないが、それを飲むことができれば――



「ここは……『ヴォーパルソードの地下迷宮』……」



 数十年前に発見されて尚、未だに踏破されたことがない大迷宮。

 はびこる魔物の危険度(レート)はBからA相当。

 一部の報告では、Sに匹敵する魔物の存在も仄めかされている。


 A級冒険者、五人以上のパーティでなければ立ち入ることを許されていないその大迷宮への入り口が、目の前にあった。



「………」



 生唾を飲む。

 オーレリアたちの気配がすぐそこまで来ていた。

 迷っている暇はない。

 迷宮内なら、死角も多いし逃げ切れる可能性がある。

 反対に、魔物に阻まれて死ぬ可能性も。


 

「……死にたくない……ッ」



 俺は、迷宮へと足を踏み入れた。


「おもしろかった!」

「続きが気になる!」

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