エピローグ
目が覚めた時、視界に映ったのは一面の白だった。
始めは何かわからなかったが、慣れてくれば天井に白色の蛍光灯が点灯していたのが分かった。
桃は病院のベッドに臥していた。丁度様子を見に来た看護師と目が合うと、彼女は慌てて担当医を呼びに行った。
担当医の話によれば、桃は自然公園の茂みで意識を失っていたとのことだ。呼びかけても返事は一切ないが、心拍はあるということで今に至る。
楓花も場所は離れていたが、似たような状態にあったらしい。看護師が隣のカーテンをそっと捲ると、目覚めていない彼女の姿があった。
二人とも、一度心拍が危うかった時があったらしい。その時と比べれば、今の楓花は非常に安心できるとの見解を貰い、桃はその日は安静のため病院に一泊することになった。
翌日目覚めると、既に楓花は目を覚ましていた。桃よりもピンピンしているのがこれまた彼女らしい、と二人でクスクス笑い合っていると、病室にキチッとしたスーツ姿の大男が一人入って来た。
「お目覚めの所、申し訳ありません。少しお話宜しいでしょうか?」
彼は警察の人間だった。変死体の関連する事件の捜査を担当しているとのことで、二人は唯一の生き残りで重要参考人である。根掘り葉掘り真相を明らかにしたい事だろう。
彼の話によれば、一緒にかくれんぼをしていた勇盛、撫子、理旺は亡くなったとのことだった。そして、別の地で幽玄という大学生も命を落としていたことも知った。
「ごめんなさい、何も覚えていないんです。ただ、悪い夢を見ていた、そんな感覚しか残っていなくて」
桃は目を伏せながらそう言う。続けて刑事は楓花にも目線を送るが、彼女も似たような返答をする。
「そうですか。これだけ謎の多い事件です。有力な情報を得られないのは残念ですが、仕方ありません」
刑事は胸ポケットから名刺を二枚取り出し、各々に渡す。
「ゆっくりで構いません。何か思い出しましたらこちらまで連絡をください」
そう言って去っていく刑事を見て、楓花は言う。
「良かったの、何も覚えてないことにして?」
「うん。もうあの世界に誰も行くことはないと思うから」
「そっか……」
楓花は窓の外に広がる晴天の青空を眺めて言う。
雲一つない晴れ晴れしさは、まさに彼の世界で命を失ってしまった盟友たちの清々しさを表しているようだった。
「ねえ楓花、退院したらさ、お墓参り行こうよ」
「うん、そうだね。ありったけの花を持ってお祈りしに行こう」
失った命も記憶も元には戻らない。しかしオカルトの噂話から始まった今回の一件は、忘れられない記憶として残り続けるだろう。
二人は同じ方角を見上げて、優し気に微笑んだ。
これで完結となります。読了いただき、ありがとうございました!
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