プロローグ
こんにちは。『ぽぽの』と申します。
今回は“夏のホラー2021”の作品として、一つ当小説を書いてみました。
ホラー表現はあまり上手く書けなかったというか……その結果、(微)微ホラーになってしまいました。
「それでも構わない」という気持ちで読んでいただけると、私としてもありがたく思います。
毎日投稿して、五日間ほどで完結する短いお話になります。(3万字程度)
それでは……よろしくお願いします!
暑い真夏の下、少女は空調の効いた部屋にいる。
ベッドに敷かれた冷感シーツに寝転がり、耳には携帯電話を当てている。
「えー、それって本当なの?」
「本当だって! 最近、ニュースでやってるじゃん、街やら公園やらで変死体が見つかるって」
通話の相手もまた少女だ。活発な声が端末の向こうから聞こえる。
「うん、やってるね。でもそれって……」
少女は自分の部屋に置かれた小さなテレビを見る。偶然電源のついていたそれには、興味があるわけでもなく昼時のワイドショーが映し出されていて、丁度相手の話している事件が取り上げられていた。
「原因は不明で、警察は調査を進めている……とかじゃなかったっけ?」
「表向きはそうだけど、その原因が“タマシイ様”じゃないかって噂が流れてるんだよ!」
「……その噂って言うのは、どこ情報なの?」
「私の友達だよ! ほら、オカルト同好会の……」
「あー、やっぱりね」
予期していた答えが返ってくると、通話元の少女は落胆する。
「で、同好会のメンバーじゃない私にこんな話をするってことは……」
「少しだけ付き合ってよ、桃、お願い!」
幼馴染の友人のことだ。こうなる事まで高校一年生の桃には分かっていた。相手は今頃見えない桃に対して頭を下げているに違いない。
そんな光景を想像しながら、桃は強い日差しのため閉め切っていたカーテンを少しだけ開ける。
時刻は日射が強烈な二時前後だ。雲一つない清涼な空に浮かぶ太陽からの日差しに、桃は目を細める。
その後で、カーテンを再び閉める。
「私、こんな時間に外出たくないんだけど。大体、同好会のメンバーがいるでしょ? そっちでやればいいじゃん」
桃が嫌気を込めてそう言うと、相手は困惑気味に答える。
「今夏休みだからさ……旅行に行ってる人とかいて人手が足りないんだ。ほら、少数でかくれんぼやっても、物足りないじゃん?」
「私はあくまで数合わせってわけか。……いいよ、その代わり今度埋め合わせしてよね」
「ありがとー! じゃあ、時間は……」
こうして桃は幼馴染に集合時間と場所を教えてもらい、通話は終了した。
その日の夕方。空気は生暖かいが、真昼間よりかはマシな気温だ。
桃は街の歩道をひたすらに走って目的地に急いでいた。
「おーい、楓花!」
桃の幼馴染、楓花は既に自然公園の噴水の前にいた。
「やっと来たー。五分遅刻だよ」
「ごめん、遅れて」
「まあいいんだけどね、桃には協力してもらうんだから。さあ、これで全員揃ったね」
桃は息を整えるのに必死で気が付かなかったが、彼女の背後に三人の男女がいるのが遅れて分かった。
「あなたが桃さんね、初めまして。私は撫子と言います」
眼鏡をかけた身長百六十センチメートルほどの女性が軽くお辞儀する。
黒い長髪を下ろした、清楚な彼女は桃からしてみればお姉さんと言える存在だった。
「は、初めまして。私は桃です」
「そんなに緊張しないで。私は二年で先輩だけど、かしこまる必要はないからね」
「はい!」
次に、男性陣が自己紹介を始める。
「初めまして、だな。俺は勇盛。オカルト同好会の部長だ」
大柄な男、勇盛は桃を一歩退かせる。こんなに体育会系なイメージの人まで同好会に入っているのは想定外だったからだ。
「よろしくお願いします」
「ちょっと勇盛先輩! あんまり桃を威圧しないで下さい」
「おお、わりぃ。そんな感じだったか……」
勇盛は反省するが、仕草がいちいち大仰なので桃は彼の行動にまず驚いてしまう。初日に彼と打ち解け合える人間は限られそうだ。
そして最後のメンバーが眼鏡を軽く持ち上げながら話し始める。
「僕の自己紹介も一応しときましょうか。理旺です、よろしく」
「よろしくお願いします」
彼女の学校生活などの日常においては、このようなメガネ男子とは絶対に関わりを持たないだろうが、今はオカルト同好会を相手にしている。オカルト系の人間と言えばこんな感じだ、というのがまさに理旺のような見た目で、桃は彼の存在が意外としっくりと来ていた。
「理旺は私たちと同じ一年だよ。タメで全然いけるよ!」
「そうなんだ!」
同学年というだけで、彼との距離が一気に縮まった気がした。楓花と性格は対極かと思っていたが、幸いにも理旺は無口ではなく、他人との会話を拒絶するようには見えなかったので、桃は機会があれば何か話したいと思った。
「さて、顔合わせも済んだことだし、部長、早速活動に入りましょう」
撫子が誘導し、勇盛は他のメンバーを前に並ばせる。
きっちりと横に並んではいないが、ある程度はまとまっている。桃も楓花の隣にちょこんと立った。
「よし! さて、最近この街で変死体がちょくちょく見つかるって話だが、それは知ってるよな?」
「ちょくちょくって、慣れたような表現はやめてください。人としてどうかと思います」
撫子は勇盛に釘をさす。
「ああ、ごめん。まあ、その原因は不明となっているが、俺たちオカルト同好会は“タマシイ様”の仕業だと睨んでいるんだ」
全体に向けての話し方のように思われるが、彼の視線は主に桃を向いていた。確認しながらも、同好会外の桃に詳細な経緯を説明してくれているらしい。
「あの……質問してもいいですか?」
桃はゆっくりと手を挙げる。
「おお、何だ?」
「えっと、“タマシイ様”って何ですか?」
楓花からも同じ言葉を聞いていたが、桃はイマイチその存在がよく分からなかった。というのも、彼女は非日常な怪奇現象のようなものにはあまり惹かれないからである。どちらかというと、幽霊を信じないタイプである。
「タマシイ様ってのは、人の心に寄生するような怪物だ。俺も詳しいことは分からないが、今回の件にはそれが関わってるみたいだ。なあ、理旺?」
この話の発端は理旺だった。勇盛は彼に目配せをして、説明を求める。
すると彼はお約束のように眼鏡を持ち上げて口を開く。
「少しだけ説明します。タマシイ様は妖怪の類と言われてますが、実際のところは違うと僕は考えています」
「え……妖怪じゃないの?」
楓花は少し残念そうに嘆く。
「少女失踪事件が数十年前に起きたのを知っていますか?」
理旺は唐突にそう言うが、首を縦に振る者はいない。
「失踪って言っても色々あるしね……。それに数十年前って、私たち生まれてないわよ」
撫子の言う通り、数十年と言われても彼らはまだ誕生すらしていない。過去の事象をよく知っているのは、図書館に通い文献などを読むのが日常の理旺だけだった。
「その通りです。失踪と言っても、その事件の鍵となったのは“かくれんぼ”でした」
「かくれんぼが鍵? もしかしてその最中に誘拐されちゃったとか?」
不安を煽る楓花の予想に、理旺は首を横に振る。
「いや、この事件では第三者が関与していることはなかったんだ。当時十人程度でかくれんぼをして遊んでいた小学生の集団がいて、順調にゲームは進んでいったんだ」
「まあ、小学生の遊びだしな」
「部長、その小学生の遊びをこれから私たち高校生がやるんですよ。あまり馬鹿にしたような言い方は控えてください」
「わ、悪かったって。全く、撫子は細かいな」
「そんなことないです! 部長が大雑把なんです!」
体格の全く異なる二人が睨み合う。それを他所に、桃が楓花に耳打ちする。
「ねえ楓花、先輩二人っていつもこうなの?」
「うん、いつもだね」
「なんか二人ってあれだね……意外と息ぴったりっていうか……」
「桃もやっぱりそう思う?」
勇盛と撫子は互いに火花を散らしているが、どうやら仲が悪いわけではないらしい。
二人の隅に置けないような関係を匂わせるやり取りに、初対面の桃でさえそう感じてしまう。当人たちは気付いていないのか、言い合いは続く。
「先輩方、話の続きをしてもいいですか?」
理旺も“またいつもの”光景を目にしている感覚で、少し低めの声で二人の間に割って入る。
「ええ、ごめんなさい」
「悪い、かっとなった」
「それでですね、一人の鬼が隠れている子たちを見つけていったんですけど、最後の一人が見つからなかったんですよ」
「見つからなかったってどういうこと?」
楓花は思ったことは何でも口にするタイプだ。
「正確には“見つけてもらえなかった”かな。人数もある程度いた中で、大人たちもいなかった、本当の子供たちだけでのかくれんぼ。日も暮れる頃、大体の子たちが見つかって、全員見つかったと思ってしまったんだろうね。その場には子供たちだけだから、人数の確認もすることなく解散したそうだ」
「見つけてもらえなかった子は、ずっと隠れていたの?」
「そうみたいだね。性格は割と大人しめの子で、それが仇になったんだろう。悪く言えば影の薄い子とか目立たない子だけど、そういう意味で長く続いたかくれんぼの中で次第に全員の頭から忘れられていったのかもしれないね」
「でも、かくれんぼで置き去りにされる……なんて本当に起こりえるの?」
今度は撫子が質問する。その問いには、理旺も確証はないようで曖昧に答える。
「僕もそこは疑問に思います。今言ったことは、過去の事件の記事を簡単に述べただけです。僕の私観としては、その子に対するいじめがあったんじゃないかって思うんですが、そこは明らかにされていないので何とも言えないですね」
「そう……いずれにしても、いたたまれない気持ちになるわね」
「で、その子は結局どうなっちゃったんだ?」
「察しはついているかと思いますが、亡くなりました。当時も今日みたいな真夏の昼間から夕方にかけてかくれんぼが行われていました。いくら夕方とはいえ、暑さに具合を悪くし、隠れていたこともあって発見が遅れてしまったようです」
「間に合わなかったってわけか……」
勇盛も撫子のように、被害者の子の死を嘆く。
「そして自分を見つけてくれなかったという怨念が変化したのが“タマシイ様”と呼ばれるようになったんです」
タマシイ様が生み出される経緯が語られ、各々は思考を巡らせる。そんな中、桃は分からないことを聞いてみる。
「何で“タマシイ様”なんですか?」
彼女には、その怨念がなぜそのような名前を付けられたのかが理解できなかった。周りを見れば、他のメンバーも同じ疑問を抱いていたようで、うんうんと頷いていた。
対して理旺は「ここからが本番」とでも言うように、列から抜け出し噴水の縁に腰を掛け、再び語り始める。
「人の魂や記憶を食べるからだよ」
「魂を……食べる?」
「ああ、僕が読んだ本にはそう書いてあった。真実かどうかは分からないけどね。それでね、今回の事件の被害者、皆子供なんだ」
「言われてみれば、そうだったわね」
撫子は欠かさずチェックしている朝のニュースを、ここ数日分思い出す。小さい者は小学校低学年、そして極少数ではあるが中学生も数人被害者だった。無論、全員亡くなってしまった。
「そして死体の状況はまるで生気を吸い取られたかのように、痩せこけていたんだ」
「普通の人間には出来ない所業ね」
「だから“タマシイ様”が関わってると思ったんだぁ」
楓花を始め、同好会の面々は理旺の説明に納得する。
「で、話を戻すが、今日はその真偽を確かめるために集まってもらった」
部長の勇盛は全員を再度まとめ上げる。タマシイ様の詳細な情報に関しては知らなかったものの、これから何をするかについてはおおよそ行き渡っていた同好会の面々は頷いている。事態を把握していないのは、昼間に軽く幼馴染の頼みを聞き入れてしまった桃だけだった。
「あの、これからかくれんぼをするのは分かるんですけど、それで何が分かるんですか?」
「タマシイ様は他人のかくれんぼに乱入してくると言われているんだよ。突然『もういいかい?』っていう囁き声が聞こえて、それに反応すると、タマシイ様の世界に引きずり込まれてしまう……という噂は僕達オカルト好きの間では有名な話だ」
「へぇ……何か怖いね」
桃は雰囲気を作りながら話す理旺に、少し影響され恐怖する。そんな彼女をフォローするように、勇盛は高笑いする。
「はっはっは! 大丈夫だ、桃。何かあったら俺が助けてやるし、そもそもその噂が真である証拠はどこにもない!」
「それ、オカルト同好会の部長が言う台詞じゃないと思います」
「すまんすまん。あんまり怖がらせちゃうのは、協力してもらう身として申し訳ないと思ってな。つい……」
楓花に諭される勇盛であるが、彼のことを根っからの面倒見の良い先輩であると感じる桃であった。
「ありがとうございます、先輩。それで、これから私たちでその世界に行こうってことですね?」
「その通りだ。だから、もし知らない子供の声が聞こえたら、全員返事をすること!」
「聞こえなかったら、ただの痛い高校生の集団ね。ふふっ……」
確かに撫子の言う通りで、茂みに大きな身体を隠している自分たちを想像すると、少し恥ずかしい気がした。それに、噂が本当だとしても、大人と言えなくもない高校生ほどの人間は果たしてタマシイ様の世界に誘われるのだろうか、という疑問も桃の頭にはあった。
「ミーティングは終わりだ。早速活動を開始する!」
活動すなわちかくれんぼをするのだが、鬼は桃が担当することになった。見つける側である鬼はもしかしたら彼の世界には導かれないのでは、という淡い可能性を考慮してのことだ。
桃は約五分ほどの時間を待ち、同好会メンバーが広大な自然公園に身を潜めたのを見計らって出発した。「もういいかい?」という決まり文句はきっと届かないだろうと思いながらも、形式的なことなので声を張って言ってみる。
しかし返事はなく、まだまだ暑い夕方の自然公園を、吹き抜ける風を浴びて涼しさを感じながら歩き捜索する。
公園内には夏休みを謳歌する家族連れも多い。自分が奇妙な検証に協力しているような実感は、正直言ってなかった。童心に帰ったつもりでいる桃は、まず誰から見つけようかと思っていると、真っ先に勇盛を思い浮かべる。
彼の屈強な体ならば、完全に隠れることは出来ないのではないか、部分的にはみ出した彼の姿が連想され、何だか少し可愛らしくも思えて一人でくすくすと笑ってしまう。
だがそんな桃の考えとは裏腹に、彼女は一人も見つけることが出来ないまま三十分が過ぎた。皆が意外にも隠れるのが上手なのかと思ってしまったが、範囲を自然公園内に限定している以上、隠れられるような場所は全て探したつもりだった。何かがおかしいと思い始める。
とは言っても、家族連れの賑やかな声は四方から聞こえるので、自分が変な場所にいるわけではないのは確かだった。
桃は気を取り直して公園内の周縁部の茂みの方に向かうが、やはり誰もいない。
「皆、どこに隠れてるんだろう……?」
こうなってしまってはお手上げ状態の桃は、事の成り行きに不安になる。
そんな彼女に、突然声が聞こえる。
『……もういいかい?』
(な、何!?)
知らない女の幼い声に戸惑う桃。体の自由が利かず、締め付けられる感覚が彼女を襲う。
(もしかして……タマシイ様!?)
半信半疑だった考えが、次第に確信へと近づいていく。そして脱却不可能な拘束を解くには、あの一言を言わなくてはいけないと思いが逸る。桃は深呼吸をしてからこう言う。
「も、もういいよ」
その瞬間、意識が消え去り視界が暗転した。




