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9話:もふは優しくもふりましょう

 時の神にお参りして、私は屋敷の中へと入った。

 中庭に面した部屋は二階まで吹き抜けで、その上中庭方向の壁は全面ガラス。


 お、お金がかかってるよぉ。

 そしてなんでかここ、カーペットの上に雑に板渡して大量の鉢植えが置いてある。


 世間知らずの私でもわかる。

 すごい勿体ない使い方してるよね、ここ?


「日当たりがいいから温室代わりに使ってるんだ。本格的に温度と湿度が欲しい奴はガラスケースの中だぜ」


 ひぇー。

 個人宅にこんな透明なガラスあるのぉ?


「お師匠、そういうところは庶民感覚なんだな。あれだけの本に埋もれて生活してる奴なんて貴族にもそういないぜ?」


 本ってそう言えば知識人やお金持ちのステータスなんだっけ。

 文字教えられてからは時間潰すのにちょうど良かったからあんまり高級品ってイメージないけど。

 読み切れないくらいあって良かったなってくらい?


 まぁ、もう全部読破したけどね。


「今考えるとあそこ、魔術師ギルドが見たら昇天しそうな空間だよな。失伝魔法の研究書も大量、古代文字の文献大量、変わり種だと錬金術の実用書まであったよな」


 代々の巫女も暇だったんだろうねー。


 ところでここって、本来は何に使う部屋なの?

 まさか温室じゃないでしょ?


「なんだっけ? えーと、最初は…………談話室?」


 そう言いながら、フェルギスは私を別の部屋へ案内した。

 そこはもっと広くて暖炉もある、元談話室の隣室。


「ここは食堂だな。って言っても俺一人だから適当に居間にしてるけど」


 あの端に寄せてある大きな机って最初は食堂の真ん中にでも置いてあったのかな。

 うーん、十人は余裕で座れそうなくらい大きい。


「上の階は部屋余ってるし好きなところ使っていいぜ」


 そう言ってフェルギスが座るのは一人がけ用のソファ。

 たぶん元は談話室にでもあったんじゃないかな?


 家具付き、元貴族のお屋敷は伊達じゃない。

 そんな家に住めるなんて、あの小さなフェルギスが立派になって。


「そんな俺も、こんなよくわからないもふもふに助けられたわけだけど」


 熊のことかな?

 あれは私も驚いた。


「何を他人ごとみたいに」


 籠に乗って浮遊して近づくと、フェルギスが私の脇に手を入れて持ち上げる。

 そのまま膝に乗せられた。


「やっぱりほぼ毛じゃないか。軽いし別に筋肉が肥大化してるわけでもないな。あ、骨触れる。痩せすぎじゃないのかこれ? 毛深いわりに皮下脂肪が厚いってわけじゃなさそうだけど」


 フェルギスは私の体を撫でまわす。

 そして骨だとかお腹回りだとかを遠慮なく。


 ちょっとそれはどうなの?

 お師匠相手への敬意は?

 それ以前に私の性別もふじゃないのよ。

 エッチ!


「ぶほっ!?」


 フェルギスの手を振りほどいて、私は跳ぶように向き直る。

 そして毛に覆われた頭でフェルギスの胸に頭突きを見舞った。


 勢いよく息を吐き出すと、フェルギスは胸を押さえてひじ掛けに縋るように体を折る。


 レディへの対応がなってないよ!

 なんか不満で足タンタンしちゃうよ!


「痛、くはないけど、俺の膝をまぁまぁの衝撃で足打ち付けるのやめてくれ。あと、毛が緩衝材代わりになるとは言え、だいぶ衝撃あるぞ」


 安心して。

 熊にしたみたいな勢いないから。


「怖いこと言うなよ。っていうか、足の裏までもふもふなのに、何であんな威力出てたんだ?」


 さぁ?

 私も今日初めてこのもふい体になったからね。


「…………人間状態でも俺と別れてから鍛えまくってたとか?」


 いやいやいや。

 それはない。


 フェルギスのお世話しなくなってから一気にやる気なくして、ちょっと自堕落してた時もあるくらいだし。

 普通にこの体になってから強くなったんだよ。


 朝夕のお祈りして、趣味に没頭して、神殿の雑用こなしてたくらいしか体動かしてないって。


「こなすな、巫女が」


 相変わらず神官と下働きの人たち仲悪くてねぇ。

 しかも神官は私の部屋に来れるからうるさいんだよ。

 ゆっくり趣味をしたいから適当に返事して一つ聞いたら後は知らんふりしてたけど。


「…………俺がいた時はわざわざ嫌み言いに来る奴らいたよな」


 あれはいい魔法の的だったね。


「あぁ、失敗したーとか急に入ってくるからーとか言って適当に魔法ぶつけて追い出してたな」


 さすがに私一人の時にすると失敗ばかりは危険だからって、趣味取り上げられても嫌だしやってなかったけど。


 話ながらフェルギスは優しく私を撫でる。

 うん、よきよき。


「結局あいつら巫女を敬うなんてことしなかったんだな」


 しないよぉ。

 不老長寿が欲しくてずいぶんな競争勝ち抜いて来たってよく自慢してるし。

 なんか私はそんな競争もしないで勝手に巫女に収まった狡い奴みたいに思ってるみたいだし。


「馬鹿じゃねぇの? 本当にあいつら信仰心もないのに恥ずかしげもなく神官名乗るよな」


 他の神殿は違うの?


「違うちがう。信徒集めるためにも巫女さまお願いしますって、神官たち傅いて巫女に神の力振るってもらってるからな」


 あー、時の神殿そんなパフォーマンスしないもんね。


「まず神官が少しでも長く不老長寿でいたいから神域から出てこないしな」


 そう言って、フェルギスが思いついたように黙ってしまった。


 どうしたの?


「神官、あんたがいなくなったことに気づいて次捜すって言ったんだよな?」


 うん、次の巫女は太陽の巫女みたいな男で貴族がいいなって。

 神殿に巫女いないと神域の維持ができないからそこは真面目に捜すんじゃない?


「そうじゃなくて…………。もしあんたがこんな姿になってるって知ったら、あいつら騒いであんたを殺そうとするんじゃないか?」


 え、えー!? なんで!?


「身分が低いってだけで敬わなかったんだ。人間やめてたらもう許容できないとか言い出しそうだろ」


 わー、否定できない。


「あいつらが次の巫女捜すなんて無駄なことしてる間は大人しくしとこうぜ。どうせ冬だ、外に出たい気温でもないだろ」


 なんて魅惑的なお誘い。

 もちろん私に否やはない。


「…………ところでこのもふは何を食べるんだ?」


 さぁ?


 なんて軽く流せないちょっとした死活問題が浮上したのだった。


一週間二話更新

次回:春うらら隣はもふをする人ぞ

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