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54話:失敗はもふの母

 フェルギスは顔馴染みのお願いで王都に事態収拾のための手紙を書くことになった。


 私はそれを横目に書斎で読書中。

 そんな私を撫でつつメレは眠ろうとしてるようだ。


「あ、そうだお師匠」


 フェルギスが手紙から顔を上げて、メレの様子に気づいた。

 一度言葉を切ると声を潜めて改めて私に声をかける。


「巫女って、お師匠を見たら俺たちみたいに話せるか?」


 さぁ?

 実は私、現職の他の巫女さま見たことないんだよね。

 代替わりは報告されるけど、他は噂聞く程度だし。

 フェルギスが王都に行って十一人揃ってたって言うこと自体異例のことだと思うよ。


 というかそもそも、なんでフェルギスとメレには通じてるか私にもわかんないからね。


「まぁ、他の様子見てると俺とメレが特殊か」

「もふ、おしゃべりしたい?」


 あら、起きちゃった。


 メレもさすがに私が普通の動物ではないことわかってる。

 というか教えたし。

 お喋りできると知られるともふが連れていかれると話したせいで、大泣きされてしまったけど。


 お喋りは別にいいんだよ。

 今さら喋る必要性感じてないし。

 ただ私が巫女だとばれると神殿に戻れって言われるのを心配してるんだよね、フェルギス?


「そこは隠す方向で行きたい。メレだってお師匠と離れるの嫌だろ?」

「いやー! もふといるー!」


 メレは私を抱き込んで、そのままもふもふの毛皮に頬ずりを始めた。


 うーん、ばれたらしょうがないとか思ってるのを、フェルギス見透かしてるね?

 メレにこんなわがまま言われたら、お師匠として応えないわけにはいかないじゃない。


「もちろん俺もお師匠と今さら別々なんてことになるくらいなら国捨てるからな」


 あらやだ。

 もふになってモテ期到来?


 なんてまぁ、そこは置いといて。


「その手の話を置いておかないでくれ。俺はそう言う意味でお師匠と離れたくないんだからな」


 うーん、けどもふなんだよ、私。


「わかってるよ。だから俺はお師匠元に戻すこと諦めないからな」


 けど戻るとそれはそれで巫女としてって問題が再燃するんだよ、フェルギス。


「…………もふにしたのは時の神なんだろ? だったらいっそ神は別の巫女を選ばないのか?」


 私以外の時の巫女を?


 基本的に巫女は消えてから次の巫女が就くって言うのが慣例だし、巫女が二人同時に存在したなんて、騙り以外ではないんだよね。


 それに神との相性や力の馴染みやすさっていう基準もあるんだよ。

 だから今いる国内の人の中から選ぶとしたら、フェルギスかメレになるかも?


「断る。メレもまだ子供だ。他の神の信者でもいいんだろ? 国中捜せば誰かいるんじゃないのか?」


 時の神の恩寵と相性がいいことや、神の声を聞く能力があることなんかが必要だし。

 二人はすでに満たしてるんだよね、これ。


 そんな状況で積極的に他を捜すとは思えないんだけど。


「巫女のほうでも会議開く以外に、恩寵出す時には他の神殿に報告する取り決めするって言うし。すぐさま時の巫女がひつようってことはないはずだ。けどそうなるといつまでもお師匠が人間に戻れない。いっそ巫女たちにお師匠の代わり捜させるか?」


 あらあら、フェルギスが頭抱えちゃった。


 まぁ、巫女はたぶんわかる人側だよ。

 少なくとも太陽の巫女は恩寵を視認できるんだし、だったら私が巫女だってことも視認でわかるんじゃない?


 あ、けど神の恩寵受けやすい人も太陽の巫女ならわかるかもしれないね。

 時の巫女捜しができそう。


「あいつか。もふのままでわからないならこの姿の意義もあるかと思ったけど。どうせ見てわかるならやっぱり関わらない方向でいこう。あと、お師匠は元に戻す」

「もふお師匠のもと?」


 そっか、メレにはちゃんと言ってなかったね。

 私元は人間なんだ。

 けど秘密ね、しぃだよ。

 できる、メレ?


「しぃ! わかった!」


 うん、いいお返事。


「本当に口滑らせるなよ? 前にも言ったが、ばれたらお師匠いなくなるからな」

「え…………やだー!」


 大丈夫だよー、もふはメレの側にいるよー。


「いや、戻したらもふでもなくなるだろ」

「もふ? もふいなくなる?」


 あー、メレ泣かないで。

 もふというか私はいなくならないよ。

 ただこの毛皮とはお別れになる、かな?


「やだー!?」

「嫌も何も、お師匠戻すんだから当たり前だろ」

「もふがいい! もふはもふなの! もふじゃなきゃやー!」


 あらー、メレそんなに強く、う、強く掴むと、み、身が出ちゃうよ。


 私の訴えを聞かず、メレは叫ぶ。

 その頑なさにフェルギスも顔を顰めた。


「俺は元のお師匠がいい。もふも嫌いじゃないが元に戻らないと何も進まんのはもうわかった。だから戻す」

「やー! いやー!」

「嫌と言われてもやるからな。今の内に堪能しておけ。いや、たまには俺にももふらせろ」

「や!」


 メレー、そろそろ本当に放して…………うぉっぷ。


 私の声にフェルギスが机を立った。


「ほら、お師匠が苦しがってるぞ。残り少ないもふだ大切にしろ」

「やーだー!」


 おぉう、メレ、ぎゅっとしたまま振り回さないでー。

 前より力は弱くなってるけど、その分動きは良くなってるからちょっと止まって。


 うぅ、そう言えばフェルギスは嫌々言うのもすぐに収まったね。

 メレはいったいいつまでこうして甘えてくれるかな?


「お師匠、苦し紛れに現実逃避するな。メレから逃げろ」


 フェルギスがメレの前に膝をついて私を助けようとしてくれる。

 するとメレが涙目のまま私を突然持ち上げた。


「もふはもふがいいの! フェルももふ好き!」


 そう言って私をフェルギスの顔に押しつける。

 屈みこもうとしたフェルギスのタイミングとマッチして、私のもふに顔が埋もれた。


 力いっぱい押しつけられだけど子供だし、私の毛が緩衝材になって怪我はしてないはず。

 はず、なんだけど…………フェルギスが動かない。


 どうしたの? フェルギスー?


「く…………これは…………」


 わー、効いてる効いてる。


「きいてる?」


 効いてるっぽいよ、メレ。

 フェルギスはもふの誘惑に抗えないみたい。


 恋愛感情的に私を元に戻したいのと、もふもふしたい気持ちは全く別ってことかな?

 そして目の前にもふもふを差し出されたら堪能したいよね。

 私もそう思う。


 本当になんで時の神は私のほうをもふにしたんだろう?

 私ももふもふしたかったなぁ。

 されるのも悪くないけど。


「う、それでも、俺は…………」


 おや、まだ抵抗するのかな?

 ふっふっふ。体は正直だよ、フェルくん。


 その伸ばした手は私をもふもふしたくてしょうがないんじゃない?

 自分に正直になろう。

 さぁ、今ならもふのし放題だ。


「ふっふっふー」


 私の真似っこをしたメレも、もふに顔を埋める。

 あ、ちょっとくすぐったい。


 けど楽しいからもう少し悪代官ごっこしようかな?


毎日更新

次回:もふもふで癒される

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