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52話:トンネルを抜けたらもふだった

 住んでる町に押しかけられても、結局王都に呼び出されたフェルギス。


 前回それで留守番をしていたメレが狙われてる。

 なので今回は一緒に王都まで行くことを決めた。


 ただ王さまの用事に、私たちは同行できない。

 神殿群は観光地だけど、偉い人たちが来る時には立ち入り禁止になるんだよね。

 大勢の知らない人をメレは怖がるから、無理について行くよりその間だけホテルに籠ってることになった。


 正直、お高い。

 もう調度も立派で絨毯もフカフカ。

 お上品でお偉い方しか出入りできないようなしっかりした宿をフェルギスは選んだくれた。


 けどやっぱり人間が管理する場所だ。


「無事か!?」


 居ないはずのフェルギスの声がして、私は薄暗い場所から這い出る。

 積み上げたものの下にある椅子の足の間をトンネルのように抜けた。


 するとひょっこり出てきた私を確認してフェルギスは盛大に顔を顰める。


「…………またか」


 まただよ。


 私が顔を出した椅子の上には気を失った人間たちが積み重なってた。


「メレは?」


 無事だよ。

 隣の寝室のほうにいてもらってる。


 私がそう言った時、寝室の扉の鍵を開ける音がした。


「フェル?」


 声を聞いてメレも出て来て、無事な姿を見せてくれる。

 その表情に怯えがないことを見て、フェルギスも息を吐いた。


「今回は平気そうだな」

「もふがね! ズダダダダダーって!」

「なんかそれ、前にも聞いたな」


 メレが上機嫌に飛び跳ねるのを、フェルギスが明後日の方向を見ながら呟く。


 聞いたし、同じようなことしたね。

 あれは私が誘拐に遭った時のこと…………うん、過去のことはいいか。


 今回はメレが狙われたわけだ。

 ま、その誘拐犯たちはもう伸びてるけどね。


 しかも雇い主が別みたいで、鉢合って勝手に争い始めたりしたからもうひとまとめに倒したよ。

 ホテルなせいか女の人も含むけど、そこは男女平等。

 打撲はあるだろうけど、骨にはひび程度だと覆う。


「犯罪者に気遣うだけ無駄だしな。それで、何処の奴か漏らしたりは?」


 してないね。

 ちなみにそこの女性が理由つけて入って来た不届き者、そっちの男性が私が倒した物音に駆けつけてメレを攫おうとした不埒者、魔物だとか言って私を攻撃して来た無法者って感じ。


 色々いるからたぶん別勢力だとは思うけど、お互い把握もしてないみたいだったよ。


「お、お客さま! これはいったいどうしたことなのですか?」


 ホテルの偉そうな人が現われると、入り口を塞ぐ形で立ってたフェルギスは笑顔で振り返る。


「こいつら埋めて燃やすことのできる場所ってあるか?」

「はぁ!? な、何を!?」


 ちなみにその人、さっさと私を殺してメレを攫えって廊下で叫んでたよ。


「お前もか」

「ぼぇ!?」


 フェルギスが半身からさらに身を返して回り、偉い人蹴って人の山に追加した。

 その衝撃で気絶してた人たちが目を覚ます。


 メレ、お部屋戻ってようね。

 いい子には帰ったら美味しいお菓子作りが待ってるよ。


 メレは私の言葉で笑顔のまま部屋の扉を閉めた。

 そこにフェルギスがすかさず守りの結界を張る。


「高い金払ってこれかよ。割に合わねぇな」


 そうだね。

 ここまで入って来て偉い人も手駒なら、突き出しても町と違って調べてくれないかもだし。

 それこそフェルギスより高いお金払ってさ。


 誰も来ない内にちょっと話聞く?

 ちょうど気が付いたみたいだし。


「倒すなら俺でもできるけど聞き出すとなるとやり方がな」


 痛めつけるだけじゃ芸がないとは言え、吐かせるためにちらつかせる情報ないもんね。

 向こうは私に警戒してるけど、その分口も重そうだし。


 ここはあんまり普及してない時魔法で搦め手使って脅してみる?

 若返りはないけど老いの魔法はあるし、どうせそれが目的でメレ狙ったんだろうし。


 危険を感じて今後狙うのやめてくれたらしいけど。

 この部屋の大きさなら結界で神域再現して外と隔絶すれば脅しになると思うんだ。


「うわー…………本当自信失くす。なんで俺が大魔法使いなんて呼ばれてるんだか」


 とか言いつつすぐに私の言ったとおりの魔法を組み立てる弟子は十分才能あると思うよ。

 さて、私も自分を守るだけの結界を張って、と。


 ただ不穏な気配を察したのか、何人かがフェルギスが塞ぐ入り口に走った。

 けどすでに結界できてて弾き返される。


 残念だったね。


「うーん、新手が来るまで時間ないだろうし十秒一年くらいでいいか。今その部屋の中の時を早くした。お前らは今この時もすごい勢いで歳を取っていく。助かりたきゃ、お前らを送り込んだ奴の名前を吐け」

「何を言ってる! ここから出せ! これは不当な監禁と脅迫だ!」

「そうよ! 突然魔物を嗾けてこんな横暴が許されると思っているの!?」


 元気に白を切る誘拐犯たち。

 ただ十秒程度じゃ変わらないけど一分もすると異変に嫌でも気づき始めた。


「う、うわぁ!? 皺が! 髪が!?」


 肌の張りがなくなり、髪も白く変わっていくことでフェルギスの言葉が嘘じゃないとようやくわかったようだ。

 そして一人が結界に貼りついて叫んだ。


「伯爵だ! 神官長に金と縁故を貢いで次に空きができた時の神殿に神官として入れてもらえるよう約束してた伯爵の命令で、俺は仕方なく!」

「それを証明する手はあるか?」

「ある! これが指示書だ! 署名は暗号化されてるけどイニシャルが伯爵を指してる!」

「ま、いいか。ほら、出ろ」


 フェルギスはその指示書を受け取ると、結界に穴をあけそこから転がるように男が出る。

 すると老いていた外見が今の時間のとおりに戻る。

 元の若さを取り戻した男は、安堵のために泣き出してしまった。


 それを見た他の不埒者たちが結界の穴から三人飛び出す。

 フェルギスは男が持っていた指示書を見るのに気を逸らしていた。


「おい! 勝手に出ると…………あーあ、もう取り返しがつかねぇぞ」

「ど、どうして元に戻らないの!?」


 飛び出した女性が白髪でまだらになった髪を掴んで叫ぶ。


 ちゃんと区切った結界の中との時間の流れ断ち切って出さないとそうなるよ。


「戻してくれ! なんでもする! もちろん命令した相手のことも教える!」

「無理だって。もう戻せねぇよ。この部屋の中は俺が時間を操ってたけど、そこから出たらもう神の領域だ。俺じゃどうにもできない」

「どうしてだ!? あんたは若返りの秘術を、神の御業を使えるんだろう!? あの娘はそうして助けたって!」

「あれは成長する力を持つ子供限定で若返りじゃない。それは王都の魔術師ギルドに報告してある。今さらもうどうにもならない。あ、結界の中にいる奴らは大丈夫だぞ」

「そんな…………!?」


 年老いたままの三人が茫然自失で座り込む。


 そんな三人とフェルギスを見比べ、部屋に残っていた人たちは素直に口を割り出した。

 そうしてる間にも老いていく彼らの目には、自分以外を客観視して恐怖に突き動かされてるようだ。


「なんかあれだな。改めて、こういうもんなんだなっていうか」


 そうだね、私たちは老いたことがないから。


 私に至っては老いが恐怖であることをよくわかってなかった。

 これが時の神を求める原動力なんだ。


 私とフェルギスが見る中、元に戻った誘拐犯たちが泣いて震えるほど安堵してる。


 時の神への歪んだ信仰も、メレへの欲に任せた暴挙も許せるものじゃない。

 けど、今回はやりすぎたと反省しよう。

 私はまだまだ世に出るにはもの知らずだった。


毎日更新

次回:もふは行くよ何処までも

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