5話:捨てる神あれば拾うもふあり
ある日森の中、イケメンに出会った。
うん、悪くない。
こんなもふじゃなきゃまともに見つめることも躊躇って挙動不審になるところだね。
けどこっちはたぶん動物の白い毛玉だから、森にいてもおかしくないよね。
けど何してるの、この人?
見た感じ神殿の関係者じゃないみたいだけど、森の中の狩人ってわけでもなさそう。
フード付きのマントって、防寒だと思うけど見た目で判断するなら魔法使いって感じだし。
そんなイケメンはぐらつきもせず雪に片膝をついて私に近づく。
あらやだ、イケメンってこんな何げない動作一つで格好がつくなんて。
「…………何してるんだ? お師匠」
はい!?
辺りきょろきょろしてみても私しかいない。
え、私?
戸惑ってたらイケメンが悲しそうに視線を下げた。
「そうか、そうだよな。ずいぶん経ったし。俺のこと、もう、覚えてないか…………。それでも俺、お師匠のこと…………」
待って待って!
え!?
私をお師匠って呼びの一人しかいないんだけど!?
まさかとは思うけど、同じ綺麗な瞳の色してるけど、だいぶ大きくなっててしょんぼりしてるけど…………。
え、本当に?
フェルギス?
名前を思い浮かべた途端、イケメンはパッと明るい表情になった。
「そうだよな、別れた時ちびだったし。あれから身長だいぶ伸びたんだ」
嬉しそうに報告する笑顔になんだか懐かしさがある。
その笑顔は確かにフェルギスの面影があった。
あらあら。
まさかこんなイケメンになってるなんて。
見た感じ二十代くらい?
勇んで魔法の成果を報告してたあの子がこんな風になるなんて、まぁ。
「俺だってまさか本当お師匠に会えるなんて思わなかった」
そう言えばどうしてここにいるの?
ここ神殿以外ないはずだけど。
って聞いたら、私の弟子はばつの悪そうな顔をした。
「俺、結局神官になれなくて。けど、お師匠にまた会うって約束どうしても諦めきれなくて。それで、この神殿の近くに転移陣隠してたんだ」
わー、転移の魔法使えるようになったの?
すごい!
しかも設置って一時的に作るより難しいのに、よく作動したね!
「難しかったよ。失敗もたくさんした。それでも、お師匠にもし何かあったら、一番にわかるようにいたかったんだ」
え、ってもしかしてこんな所まで私に会いに来たの?
「そうだよ。突然お師匠の気配が神域から出て来て驚いたんだぞ」
あはは。それはそうだ。
なんか出られそうだったから出てきちゃった。
雪なんてすごく久しぶりに触ったよー。
「出てきちゃったって…………」
フェルギスが呆れぎみに繰り返す。
けどその口元には笑みがあった。
どうやら再会を喜んでくれてる。
私も嬉しい。
会いたいと思った相手だ、嬉しくないわけがない。
同じ気持ちだったことがわかるのも心が温かくなるようだ。
まさか養い子のほうから見つけてくれるなんて。
転移魔法まで使いこなすなんて、フェルギスすごく有能なんじゃない?
ちょっと誇らしい。
いや、すごく誇らしい。
これは誇っていいだろう。
うん、うちの子すごい!
あれ? そう言えばフェルギス、私と会話してなかった?
「うん? 会話くらいするだろ?」
いや、私喋ってないよ?
なのにわかるんだ?
そういう魔法何かあるの?
「いや、言語系統の魔法は今何も…………なに、も…………」
フェルギスが言ってから改めて私をじっと見る。
私も長い耳を持ち上げてフェルギスと目を合わせた。
途端にフェルギスが力が抜けたように雪に両手を突く。
そんな雪に沈みこませたら手が冷えちゃうよ。
しも焼けになる前にお手て拭いたほうがいいよ。
「…………なんだこのもふ?」
あ、今さら?
再会してからずっともふでしたが?
このまん丸ボディが目に入らぬかー。
「巫女が神殿から出て来るなんて何かあったとは思ったけど、何これ? え? 困ってるなら助ける気できたけど、こんなの予想外以上に予想できるか」
なんかぶつぶつ言ってる。
まぁ、わからなくもない。
私も何でこうなったかよくわかってないし。
うーん、今は私の声聞いてないのかな?
それとも私が伝える気がないと聞こえない?
独り言のつもりが駄々漏れだと恥ずかしいし、これは気をつけないと。
「また過去の巫女が遺したとんでも魔法を実用化しようと変な実験したのか?」
私の失敗を疑われた!?
違いますー!
「…………ぷく」
「あ、鳴いた。鳴いた? えーと、なんだこの生き物?」
さぁ?
あ、イノシシとか?
「いや、神獣の像くらいあっただろ。全然違うから。だいたい猪は蹄だ」
そうかな? 丸っぽいラインしてたし、白い石でできてたし。
「あのな、猪ってでかいからな。こんな頑張れば手乗りできそうな毛玉と違いすぎる」
そうなんだ、小さくなれて良かった。
この姿になって足環外れたんだよね。
だから今なら外に出られると思って、出てきちゃった。
「あんたのそのへこたれない前向きさ好きだけど、少しは謎の生物になった自分の身を心配してくれ」
一応魔法使えるんだよ。
ほら、この籠に乗れば飛べる!
「うわ、浮いた。あ、待て待て! 落ちたら危ない! あんまり高く飛ぶな!」
そんなに心配しなくても私子供じゃないのに。
「俺に危ないって本棚の梯子使わせなかったくせに、バランス崩して落ちたことあるだろ」
そんなこと…………あった、気もするなぁ。
フェルギスに怒られたから雪の上に戻る。
青い瞳が安心したように細められた。
「もう、なんでもいいか。お師匠はお師匠だ。それにあの邪魔な足環が外れたならいいことだ」
そう言って笑ったフェルギスはやっぱりイケメンだ。
「あの足環砕く魔法ずっと研究してたけど上手くいかなくてどうしようかと思ってたんだよな」
あらー悪い顔。
一応国宝指定されてる高度な魔法の道具なんだから砕いたら犯罪者だよ。
まぁ、私からすればイケメン無罪だ。
聞かなかったことにしよう。
一週間二話更新
次回:もふは強し




