41話:風の前のもふに同じ
秋祭り前にフェルギスが王宮に呼ばれてからそう経っていない今日。
また呼び出しの封書が届いた。
「一度で済ませ!」
なんて言ってたけど、逃げるように帰って来たフェルギスにも非はあるとお師匠思うな。
急がば回れって、いつだかの時の巫女が書いてたのを見たことがある。
それに今度は別の人からの呼び出しらしい。
私とメレはお留守番だ。
話を聞いて配達のお爺さんが様子を見に来たり、小神殿の神官さんがご飯の差し入れくれたりで以前より賑やかになってる。
もちろんアイパッチギルド長も、心配して様子を見に来てた。
そんなフェルギス不在の夜、私はメレに抱きしめられながら眠る。
それはいつものことなんだけど、今夜は異変があって真っ暗な中目が覚めた。
動物的な体だからいつでも眠りは浅いほうなんだけど、今夜は「起きろ」って声がしたんだ。
声の質なんてわからないのにしっかり意味が分かる声。
私はこの声を知ってる。
これ、神託だ。
「…………うー…………もふぅ?」
あー、ベッド抜け出したらメレが起きちゃった。
大丈夫だよ、ちょっと見回るだけだからベッドにいてねー。
すぐ戻るからー。
とはいうものの。
さーて、神託で起こされるなんて相当のことだ。
しかもこういう時って悪いこと起きる前の警告なんだよね。
人間と違って私の目には暗闇でも物の形が見えるけど、室内には異常なし。
臭いも変化なしだけど、耳を澄ますと金属の擦れる音がした。
外だ。
距離的に通用門な気がする。
フェルギスが呼び出しを無視して帰って来た、なんてことはないだろうね。
さて、何が起きてるかな?
私は籠に乗って浮くと、窓に引いたカーテンに下から入って窓を覗く。
すると通用門に小さな灯りが見えた。
相当絞ってるけどここは郊外で、蝋燭の光り一本でも目立つくらい暗い。
そんなところで何やってるかなんて、きっと悪いことなんだろう。
「もふ…………?」
おっとメレが不安そうな声を出してる。
大丈夫だよー、ちょっと下見て来るだけだからベッドにいてね。
窓を見られると不安がられそうなのでさっさとカーテンから離れた。
そして私は籠に乗ったまま部屋を出て階段を下りる。
よしよし、足音も立たない。
そのまま玄関ホールに面した応接間にはいり、またカーテンの隙間から窓を覗いた。
応接間の窓は通用門のすぐ側で、行ってしまえば壁の内側。
だから不用心に板戸も閉めてなかったんだけど、こうして覗き見するには都合がいい。
今度はもっと慎重に窓をから覗くと、やっぱり人影がいる。
一人や二人じゃないな。
しかもただの強盗でもないみたいだね。
だってここは大魔法使いの屋敷。
そして門には魔術師ギルドのギルド長が怪我する勢いの結界で守られてる。
それをどうやらろうそくの明かり程度で解こうとしているんだ。
完全にフェルギスの家とわかってて侵入しようとしてる。
となると主不在はわかってるはずで、いったい何が目的だろう?
素直にお金目当てにしては手間がかかりすぎるし、魔法使いの高価な本や道具かな?
「ふぅ、ようやく」
思わずと言った様子で賊が声を漏らすけど、気を引き締めたのかすぐに口を閉じる。
そして細く鋭く口笛を吹いて合図をすることで、迷わず門の内側に入って来た。
辺りを警戒して一度間隔をもって広がるから人数がはっきりとわかる。
独身のフェルギスの屋敷、しかもその屋敷の主が不在なのに十人って、多くない?
あ、身を隠す魔法をかけ直し始めた。
すでに見つけてる私には無意味だし、正面から見ればばれる魔法だ。
けど屋敷の中に侵入すればそう簡単にばれないし、外からは侵入者がいることすら気づかれないだろう。
完全にフェルギスの不在を狙って周到に準備してきてる。
その上魔法が使える程度には教育されてるなんて、ただの賊じゃない。
これは様子を見るべきかな…………と思ったら!?
台所の扉が内側から開いた!
そうだ! 台所には二階から下りる階段がある!
「もふ…………? !? きゃー!」
「いたぞ! 巫女だ!」
正面から見てしまったメレが悲鳴を上げ、賊はメレを捕まえようと声を上げた。
メレは咄嗟に薬草園のほうに走って逃げる。
しかもいたぞって! 狙いはメレなの!?
うちの子に何するのー!
私は目の前のガラスを体当たりで割って走る。
「え!? ぐへ!」
「おい、ど、ぶふぉ…………!?」
門を確保してた二人の賊を門の外に蹴り出す。
その音で追って行ったうち四人が私に気づいて足を止めた。
そうなればただの的!
私は地面を大きく蹴って魔法で地面を割る。
そこに二人落ち、一人は危険を察して薬草園の中に逃げた。
もう一人は魔法と同時に私自身が駆け寄って頭突き!
薬草園の中に逃げた一人の背中にクリティカルヒット!
やった!
「な、なんだ!? 誰かいたのか!? 神殿からは聞いてないぞ!?」
「もふー!」
はーい!
メレちょっと動かないでねー!
私は吹っ飛ぶ賊の陰に隠れて残る四人と距離を詰めた。
「白い、あれは!? 噂のペットか!」
正解!
巨大化! かーらーのー!
ただの頭突き!
汚い悲鳴を上げて薬草園の中をバウンドしながら吹き飛ぶ残りの賊が四人。
いや、もう断言しよう、誘拐犯だと!
うちのメレが可愛いのはわかるけど誘拐は断固阻止だ!
「もふ! もふ! ふ、ふぇぇ、えぇぇええん!」
あー、怖かったね、一人にしてごめんね。
ほーら、巨もふだよー、もう大丈夫だよー。
悪い人たちは捕まえちゃうねー。
というわけで今度は薬草園の低木に魔法をかけて…………それー! 縛り上げろー!
「「「「「「ぎゃー!?」」」」」」
薬草園にいた六人の賊に低木が音を立てて這いより、手足を胴体とひとまとめに絡めとる。
その上私の魔法に籠めた意思のせいか、そのまま上に伸びて二階くらいの高さにまで成長。
さらには棘のある木々も入ってるから苦痛の声も上がる。
「ぐぅ!? 大魔法使いの罠か!? く、そ! 棘がぁ!」
「切る先から再生する!? どんな魔法だ!?」
「巫女は、ど、何処へ? あのガキさえ捕まえれば…………」
「他はどうした!? 仕事をしろ! さっさと連れて行け!」
「大きくても所詮獣だ! 数発ぶち込めばいいだろうが!」
「おい、まさかやられてるんじゃないのか? このまま捕まってるのはまずいぞ!」
口々に喚く誘拐犯は、どうやら私に頭突きされて吹っ飛んだこともよくわかっていないようだ。
「びええぇぇええー! やー! やー!」
知らない人の悪意ある叫びに、私に埋もれてたメレは甲高い泣き声を上げる。
あー、怖いね、怖いね。
この人たち黙らせるからメレ泣きやんでー。
っていうか、さっきから身勝手なことばっかり言って反省が見られないよ! 反省が!
これは自分の行いがどれだけ小さな女の子を傷つけたかわかってもらわないとね!
よーし、ガラガラ変わりだ。
私はうるさい賊を、静かになるまで高い位置で振り回して黙らせることにしのだった。
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