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39話:今日のもふ料理

「…………なんだこれ?」

「俺が聞きたい」


 炎を防いだ私を見下ろすギルド長に、フェルギスが同意する。


「おま!? 正体もわからず飼ってるのか!?」

「ペットじゃない」


 フェルギスそこ拘るね。


「そういう問題じゃねぇ! 知能が高いってのは聞いてるが、大の男の骨をへし折るんだろう、この毛玉!?」

「俺が飢えた熊に襲われた時も飛び出して助けてくれたから、ちゃんと状況判断はできてる」

「くま…………」


 うん、熊倒した。

 それに配達のお爺さんの所では人も選んだよ。


 まぁ、元人間立て謂わないこっちの事情だから私は毛玉だとかもふだとか言われることにはなんの文句もない。

 魔物だろうがペットだろうが最終的に安全安心の無害な生き物だと理解してもらえれば、なんと呼ばれようと気にしないよ。

 実際私たちも私が何かわからないからね!


 絶句するギルド長に、神官さんが取り成してくれる。


「確かに今のは確実に私たちを助けてくれる動きでしたし、無闇に他人を襲うようには見えませんね。この子も懐いていますし、大魔法使いどのの言われるとおり状況判断能力は確かなのでは?」

「まぁ、昨日の祭の時も酔っ払いが火炎放射して興奮はしたが、お前さんに落ち着けられてたってのは、野次馬たちから聞いたが」


 あ、そうなってるの?

 別に火炎放射くらいじゃ驚かいないし、あれはうちの弟子を馬鹿にされて怒っただけなんだけど。


 それに今メレがやったのも、今朝覚えたいって言われたから教えたんだよね。

 火炎放射見たよって話したことで火を出す魔法に興味持っちゃって。

 興味関心って子供の原動力だから乗っちゃったんだよね。


 メレ本当に魔法の才能あるみたいで、教えた分だけ習得しちゃうから気軽に応じちゃったけど。

 子供に包丁持たせる並みに危ないことだったな。


 メレも危ないことはしちゃ駄目って教えたんだけど。

 まず何が危ないかから教え直したほうが良さそうだ。


「もふ、お師匠…………めんなさい」


 メレがしょんぼりして声を絞り出す。

 どうやら悪いことをしてしまったのは理解しているようだ。


 うんうん、謝るのは大事だよ。

 そして次も同じ失敗しないことが大事。

 それがわかってるならいいよ。

 いい子のメレはわかってるもんね?


「せめて手は真上に上げるよう教えるか」

「うん、ごめんなさい」


 メレはフェルギスにも頷いて、魔法を向けてしまったギルド長や神官さんに謝る。


 神官さんは優しくメレに声をかけた。


「まだ魔法を覚え始めたばかりでしょうに。なんて才能の豊かなことでしょう。この巡り合わせはあなたが必死に生きた神からの褒美かもしれません」

「いや、神ってそこまで細かくないぞ」


 フェルギス、さすがに真面目な神官さんにそれは駄目だよ。


 なのでフェルギスには教育的頭突き。

 頭の毛で跳ね返る私を抱き留めながらも、フェルギスは衝撃に息を詰める。


「ぐ…………! 悪い、不敬だった」

「おいおい、信仰についてまで理解してるのかよ、この毛玉」


 謝るフェルギスにギルド長が私の行動の意味に気づいて額を覆った。

 その横で神官さんが顔を輝かせる。


「まさか神獣さまなのでは!?」

「いや、それはない」


 声を高くする神官さんに、答えを知ってるフェルギスは冷静に否定した。


 まぁ、神獣さまに仕える巫女だからね。

 神獣さま本人ではないかな。


「っていうか、これが神獣だとしたら、あんたには何に見えるんだ?」


 フェルギスが神官さん相手に、膝の上の私を指す。


「…………ねずみ、でしょうか? 神獣さまは普通の動物より大きいと聞きますし」

「にしてもこれだけ毛深いなら羊、にしちゃ小さいか。いや、これだけ丸い動物って何かいたか?」


 神官さんもギルド長も私が何かわからず困惑してる。

 うん、私も自分がなんなのかわからないよ。


「犬や猫のように鳴き声を上げる様子もありませんね。草食動物であるように見えますが。あの、攻撃的な動きがありますし、なんなのかまでは」

「っていうかじっとしてると毛深すぎて体の前後もわからなくなるなこいつ」

「神殿でこういう動物見たって言う例は?」


 フェルギスが神官さんに聞くけど、首を横に振られる。


「寡聞にして。もし神獣さまであるなら何かしらの説話となっているでしょうし」

「だとすると、魔物か。だが、魔に侵されたっていう凶暴性が全くないんだよな」


 結局神官さんもギルド長も首を捻るしかなかった。


 そんな話合いに飽きた人が一人。


「もふ、ご褒美」


 メレだ。

 私のお尻を叩いて訴える。


 どうやら神官さんの言葉で忘れていたことを思い出したようだ。

 いきなり炎を出す魔法を使えたご褒美に用意してたお菓子を。


 メレの言葉でフェルギスも思い出したらしい。


「あぁ、そう言えば…………。ちょっと待てって言ってもぐずるなこれは。人数分用意してくれるか?」


 まっかせてー。

 今日作ったのは卵タルトだからね。

 ちゃんとお客さんの分もあるよ!


「わーい!」


 フェルギスの膝から飛び降りると歓声を上げてメレも立つ。


 私の言葉がわからないギルド長と神官さんは、首を傾げて応接室から出て行く私たちを見送った。


 そしてタルトとお茶、メレ用にミルクを用意して戻ると目を剥く。


「その毛玉! 魔法まで使えるのかよ!?」

「も、もしかしたら神より遣わされた神獣の亜種では!?」

「いや、だからそれはないって。あとあんたも人前で魔法使うなって言っただろ」


 フェルギスに注意されちゃった。


 けど今のは不可抗力だよ。


 台所でカートに乗せて部屋の前まで私が魔法で動かした。

 そして部屋にカートを押して入るのはメレに頼んだんだけど。

 メレは慣れないカートを扉の敷居にぶつけて、カートが倒れそうになってしまったのだ。


 だから私がカートごと魔法で止めて、体勢を立て直したのを見られることに。


 お菓子やお茶が無駄になるよりましでしょ?


「…………もういっそ、黙ってたほうが俺たち以外の誰の心労にもならない気がしてきた」


 ギルド長がなんか諦めぎみに呟く。


「俺もそう思うし、研究するから差しだせとかほざいたら見捨てるからな。もうこの国に拘る理由もないんだ」


 こら、フェルギス。

 また神官さん困らせて。


「べ、別に信心がなくなったとかじゃなくてな」

「いえ、事情は聞き及んでおりますし、あなたが腐らず身を立てたその努力と真摯さは存じております」


 もう、ともかく甘い物食べて気持ちリフレッシュしてもらおう。


「いただきまーす!」


 メレは元気に卵タルトに向かう。

 フェルギスにも勧められてギルド長と神官さんも食べた。


「美味い!? お前さんこんな特技あったのか!」

「まぁ、滑らかな舌触り。子供が喜びますね」


 あ、フェルギスがお菓子作りしたと誤解された。

 そしてフェルギスも否定できないから顔が引きつる。


「一人で置いて行った時はどうかと思ったが、過保護なほどの守り施してたし、菓子作りまでねぇ」

「この子も師と仰ぎ、お手伝いも率先している様子。やはり恩寵深き方にはそれ相応の徳があり、人心を慮る目があるものですね」


 フェルギスー、顔が引きつってるよー。

 褒められてるからいいじゃない。

 なんだったらお菓子作り教えようか?


 なんて、私は他人ごとで卵タルトをかじっていた。


一週間二回更新

次回:カリオ4

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