38話:もふの侵さざることもふの如し
秋祭り楽しかったな。
いっそ酔っ払いの喧嘩も珍しい物見たって感じ。
ただ疲れてたフェルギスをつき合わせたのが申し訳ない。
フェルギスは私が楽しんでるならそれで自分も楽しいと、本当に機嫌よく笑ってくれてたけどさ。
うーん。
私の弟子は内面もイケメンすぎでは?
十歳までしか育ててないけど誇らしいぞ!
そして今日はお客さんだ。
フェルギスはモテモテ!
なんて冗談だけど。
お客の一人は魔術師ギルドの眼帯ギルド長で、昨日の夜言ってたとおり王都での話を聞きに来てる。
そしてもう一人は壮年の女性だった。
聖印や服装から神殿関係者だとわかる。
「お初にお目にかかります、大魔法使いどの。と言っても、町では数度お見かけしていたのですけれど」
相手は町にある月の神の小神殿に従事する神官さんだった。
フェルギス、なんで住んでる町の神殿から初めましてなの?
「…………就任後、ご挨拶が遅れまして」
「おいおい、そんな殊勝なたまかよ。普通に月の神の信徒じゃないから参ったことないことくらい町の奴ら知ってるぞ」
私の問いを受けて目を泳がせるフェルギスに、ギルド長が驚いてみせる。
なるほど、そういうことか。
けど駄目だよ、フェルギス。
神々は協力するものなんだから、一人を信奉して他を蔑ろにするなんてもっての外。
十二神揃って国を支える神さまなんだから。
土地柄お参りに優劣つけちゃうのはしょうがないよ。
けど自分が住んでる場所の小神殿を無視するのはいただけない。
もしメレが真似しちゃったらどうするの?
「ごめ…………す、まなかった。神の一柱のみを特別視するようなことは、神々の和を乱す。それに、教育にも悪い。今後は、他の神々にもできるだけ、敬意は払う」
他の人がいるせいか、フェルギスがちょっと大人びた言葉遣いで謝る。
「おー…………。やっぱり子育てって親も育てるもんだな」
「うるさい」
茶々を入れるギルド長にフェルギスは不服そうに答えた。
神官さんは祈るように手を合わせて笑顔だ。
「さすが神の恩寵厚きお方。そしてお話のとおり賢い同居者であるのですね」
私に微笑みかけた神官さんは、次に申し訳なさそうに眉を下げた。
「それに比べ己の不徳を恥じるばかりです。治癒の神でもある月神に仕える身で、死に瀕した少女を助けられないと拒絶するだけしかできませんでした」
そう言えば、この町の小神殿にメレは最初連れていかれたんだ。
そこで匙を投げられ、両親もこれ以上世話はできないと人買いに行ったけれど、どう見ても瀕死で呪われているメレを人買いも拒否した。
そこで押し問答しているのをフェルギスが通りかかって保護したんだ。
神官さんは目元を拭って私を抱くメレを見つめる。
「良かった、本当に良かった。もう、苦しくはないのね?」
メレは一度会ってるけど、呪いによる激痛で目も固く閉じられ身動き一つできない状態だった。
だから神官さんを覚えてはいないようだ。
「くるしい? 痛くないよ。メレ、元気、いい子」
見た目は十代半ばだけれど、中身は三歳なので基本素直だ。
まぁ、嫌々とわがままを言うこともあるし、私たちの言葉をそのまま真似して今みたいに胸を張ることもある。
ただそれは何処にでもいる子供の反応だった。
その様子に神官さんは何度も頷くと、フェルギスに向き直る。
「突然の訪問お許しください。救えなかったこの子を思うと後悔の念が尽きず。ギルド長から助かったと聞いてどうしてもこの目で確かめたかったのです」
「いや、メレの呪いは時の神に関係してたから、無理にできないことを悔やむ必要はない」
「なんだ、この呪いの原因わかってるのか? いや、こうして回復させたんだからそうか」
驚くギルド長に、フェルギスは簡単にメレの状態を説明した。
先祖の因縁が偶然メレに集中して呪いとして発現してしまったのだろうという推測と、異常成長を止めることはできたことを。
話を聞いて神官さんが納得したように頷く。
「私も気になっていたので、彼女の故郷に人をやって確認しました。確かに三年前に生まれた赤子が急成長したのだとか。取り上げたのが産婆としても働く火の神小神殿の者でしたので、すぐに呪いを受けていることはわかったそうです」
「メレの親の信奉する神は、家庭の守り神か。神殿もほとんど何もしない時の神より、そっちに改宗するよな。おっと、神官の前で失敬」
「いいえ、お気になさらず。なるほど、時の神に仕える方だからこそ、過去と血筋に原因があることを突き止められたのですね」
ちょっと違うけどフェルギスも否定はしない。
メレは自分の話をしてることは分かってる。
だから普段より大人しく私を抱いてた。
けど内容がわからないことが不安なのか、私の毛をぎゅっと握る。
大丈夫だよー、必ず治すからね。
というかそのためにメレも魔法頑張ってるもんね?
「うん、もふお師匠すごい! 魔法!」
突然のことにギルド長たちはびっくりする。
私に答えたとわかってるフェルギスが責めるように見てきた。
ごめんよー。
そしてメレは元気でいいけどちょっと落ち着こうか。
フェルギスがお話し中だからねー。
「もふってのはその白い毛玉だろ? お師匠ってお前、この子、本格的に弟子にするのか?」
おや、ギルド長が勘違いしちゃった。
「…………まぁ、成り行き上。本人の体を外から変化させるのは危険だ。メレ自身に魔法の才能はある。だから自分で自分の体の異変を制御できるようにすれば、本来の年齢にそぐう姿に戻れるんじゃないかと考えて教えてる」
「できるのですか!? あぁ、本当になんと恩寵厚い」
「いや、俺これでも神官不適格って」
「そうだ、お前さん王都で」
話が逸れたことで、メレが声を小さくして私に聞いてくる。
「おんちょ?」
神さまに好かれてるってことだよ。
きっとメレも毎日感謝の気持ちを忘れなければ時の神も答えてくれるよ。
なんかよくこの屋敷のこと眺めてるみたいだし、暇なのかな?
まぁ、変化のない神殿見てるよりは日々変化がある。
ただ生活してるだけの様子見て、神の暇潰しになるかはわからないけど。
「まほ?」
うんうん、魔法も神さまの力の一端って教えたこと覚えてるね。
えらいね。
すごいね。
わー、メレが笑顔で胸張った。
かわいー。
「ふふーん」
調子に乗ってもかわいー。
親ばか? どんとこい!
「できるよ、メレ、魔法!」
メレは調子に乗って腕を突き出す。
けどそれは可愛いじゃすまないなー!
咄嗟にメレの手の前に私は跳びあがった。
メレから発された炎を体で防いで、正面に座ってたギルド長と神官さんを守る。
「こら、メレ! 人に向けるなって言っただろ!」
「だ、大丈夫ですか、この子!?」
フェルギスのお叱りに、怒るより神官さんが私を心配してくれる。
けど大丈夫!
私の真っ白な毛皮には焦げ目ひとつついてなかった。
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