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3話:もふ発ちぬ

 なんか後ろで驚いたような声がしたような?

 この体足早いし気づかれてないよね?

 うん、追ってこないし、だいじょぶだいじょぶ。


 よーし、部屋に戻ろ!


 …………はい、困りました。

 ドアノブに背が届かないー。

 よしんば届いたとしてももふもふなこの手じゃ回せないよぉ。

 どうしよ?


「…………ぷく」


 どうやら力むと音が出るみたい。

 特に意味はないけど、と思ったら魔法が発動した。

 わーい、良かった。

 もふの姿でも魔法は使えるんだー、なんでだろー、っていうか今の詠唱になるの?

 うーん、ちょっと体の造りが違って発動の感覚違うけどドアは開いたからいいか!


 中に入るとそこは応接スペース、と言ってもろくに人が来たことはない。

 だいたい呼び出されるからね。


 下働きの控え室もあるんだけど、私になってからそっちもほぼ使われてない。

 元が何でも自分でするのが当たり前の生活だったから、誰かいつもいるの落ち着かなかくて断ったんだよね。


 で、私が用があるのは応接スペースから奥の寝室と書斎。

 魔法でドアを開けてまず書斎に入る。


 おぉ、体が小さくなると積み上がった本や構想を書いた紙の山が圧巻だね。

 あと色んなにおいがする。

 うーん、匂いでなんとなく毒がわかるみたいで、それでいうとこの部屋、毒だらけだ。


 魔法に使う鉱石とか薬効のある草とかあるからかな?


「…………ぷく」


 そーれ、浮けうけー。

 出しっぱなしだった本は片づけて、端に避けてただけの魔法素材もちゃんと容器に直して。

 次にやって来た巫女が使う時にこんなに散らかってたら悪いからね。


 書斎と言ってもここは私の趣味部屋だ。

 趣味で魔法をやっていた。

 神官は基本的に魔法を神の力の劣化版として見向きもしない。

 けど私は、いや、歴代の巫女は魔法こそ飽くなき時間つぶしの趣味として連綿とやっていた。


 この書斎に並んだ天井に届く書架に収められる蔵書の数々は私以前の巫女の収集品。

 中には巫女が独自に編纂した本もあるのを見ると、本当に時間を持て余してたんだろう。

 私も研究ノートを纏めた物を並べてるし、うーん、書きかけの物は破棄しようか迷うな。


 神の力は絶対で、人間では逆らえないし、扱えない力だ。

 だから神の力に触れられる地位の神官は魔法を下に見る。

 けど私は神の力にはそれなりの使い勝手の悪さがあるのを知ってる。


 だって、十の力はそのまま十としてしか顕現させられない。

 魔法は行っても八程度の力だけど、人間の暮らす地上で十の力が必要とされる機会は少ないし、十の力を受け入れられる状況というのも少ない。


 作物の育ちを良くするために神の力を使えば人間の手に余るほどの作物を得て、翌年には反動が来る。

 けれど魔法なら育ちの悪い作物を元気にすることで収穫可能にして、来年も同じように収穫させられる。


 過去の巫女の書物の中に、過ぎたるは猶及ばざるが如しってあった。

 まさにそれだ。


「…………ぷく」


 よし、片づけ終了!

 ここから本題。

 旅の準備だ!


 何がいるかな?

 ひとまず私個人の物って言える物は持ち出そうとは思うけど、この体じゃ持ち運びはできないんだよね。


 あ、薬草入れる籠、あれよくない?


 底は平らで膨らむように丸い側面の籠に私は飛び込む。


 なんか入ってみたくなっちゃったんだけど、あ、いい感じ。

 って、私が入ってどうするの。


 けど気に入ったからこれの中に物をいれて、上からクッションで蓋をしよう。

 そして私がその上に座る!

 あ、視点低いと見晴らしも悪いし、籠に浮遊の魔法をかけよう、そうしよう。


「…………ぷく」


 よしよし、浮いた。

 おや、窓に白い毛玉が…………私か!?


 うわ、丸い!

 目鼻何処!?

 あ、耳上げると真っ白な毛の中に一房色ついた毛がある。これは人間の時のままか。

 何この長くて大きな耳?

 鳥の羽根みたいに動かせば飛べそうじゃない?


「…………ぷくぷくぷく!」


 つい乗りで空中に浮かせた籠から飛び降りちゃった。

 もちろんそのまま落下。

 ちょっとびっくりして変な音が連続で漏れる。


 けど、着地に問題はなかったな。

 自分の身長、いや、体高の何倍もの高さなのに。

 物は持てないけど人間の体じゃこんなことできなかったなぁ。


「…………ぷ」


 さて、気を取り直して持って行く物はどうしようかな?

 杖は掴めないし、薬の類は飲めるかわからないし。

 魔法触媒になる魔石を一通り持って行こうかな。


 服はいらないよね、着られないし。

 やっぱり気になるから書きかけの研究は持って行こう。

 インクとペンは…………よし、魔法で動かせる。

 一番小さなペンは机の抽斗にあったっけ。


 そう言えばこの抽斗の中身、私の物じゃないんだ。

 小さい子供用の道具ばっかりなんだけど、今はこれくらいがちょうど良くなってる。


 これを使ってたあの子、どうしてるかな?

 もう時間ずいぶん経ったし、私のこと忘れてるかな?


 ひと時だけの私の養い子。

 あれは特例で、行き場のない子だったから親の手が必要な年齢を過ぎて引き離された。

 大きくなって神殿から出されて、それ以来会ってない。

 神官を目指すと言ってたけど、貴族ばかりの中に神殿の捨て子がなれるわけがない。

 なんて、言えなかったな。


 それでも、また会いたいと言ってくれたのが嬉しかったんだよね。


「…………ぷ!」


 よし、あの子に会いに行こう!

 ずっと神殿の中で暮らしてこんな姿になったなら、なんとなく外出たいって思っただけだったけど、目標ができた。

 巫女としての務めももうこの体なら関係ないよね?


 こんな姿で私だってわからないだろうけど、私が成長したあの子を見たい。

 もう大人になってるだろうし、元気でいてくれるならそれでいい。


 そうと決まればさっさとやろう。

 籠に積むだけ積んだし、こんなもんか。


 さすがに今から飛ぶのは目立つな。

 だったら籠は窓から魔法で先に下して、私はさっき飛び降りたのちょっと怖かったから神殿の中を風のように駆け抜けよう。


 この体のほうが私、活動的になってるかもしれない。


一週間二話更新

次回:もふは風にも負けず

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