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25話:いっぱい食べるもふが好き

「お、なんだ。ようやく身を固める気になったか?」

「違う!」


 配達のお爺さんに声をかけられ、フェルギスはすぐさま否定した。


 もちろんそう思われたのは見慣れないメレ。

 見た目だけなら早い内に結婚してそうな年齢だよね。

 けど残念、中身は三歳です。


「もひゅ、もひゅ」


 起きてからは私のもふに夢中で今も絶賛私を追いかけてます。

 もう抱っこちゃん疲れたんだよー。

 自由に走らせてー。


「あの白い毛玉も元気だなー」

「変な邪推してないで、あいつの着る物用意してくれ。どうせ何処から連れて来たか知ってるんだろ」

「まぁな。死にかけだって話だったはずだが?」

「打つ手があるから引き取ったんだ。その内年相応に戻す」

「…………素人目にも動きが不自然で、どう見ても長生きできそうにないぞ。できるのか?」


 配達のお爺さんは驚いてフェルギスをまじまじと見る。


 確かにメレは今もやせ細っているし、元気に走ってるけど動きが明らかに不自然で障害を負っているように見えるだろう。

 治癒の神である月神も万能じゃないし、メレは一度匙を投げられてる。

 常識的に考えて、立って喋ってるだけでも奇跡的なことだと言えた。


 まぁ、時に関する魔法って失伝魔法扱いだっていうしね。

 何ができて、何ができないかわからないんだろう。

 時の魔法を持ってしてもメレの改善は簡単じゃない。

 けどできないことはない。


 メレを助けて十日。

 最初は痛みに怯えて動けなかった。

 それからまともに歩いたことがないことが発覚して、実は寝返りさえも上手くできないこともわかってる。

 動きのぎこちなさはそのせいだ。

 よちよち歩きの赤ん坊程度の身体能力で手足の長い体を動かしてるんだからしょうがない。


 そして話してみると。簡単な単語しか知らないこともわかった。

 けどこっちの言うことは理解してる。

 なので日々メレは体を動かす訓練と言葉をお勉強をしていた。


 ただ動けるようになった途端に私を追い駆けて抱っこしたまま離さないのには困ってる。


「あのとおり服は俺ので間に合わせてたけど、動き回ると服が合わずにこけたり引っ掛けたりで危ない。動き慣れないから転んだ時に受け身も取れないしな」


 だから今日は配達のお爺さんにメレの服を注文したフェルギスだ。


「今までの俺一人なら時間が相当かかる。が、ちょっと当てができたからな。大丈夫だろう」


 おや、それは私かな?

 弟子に頼られるならお師匠頑張っちゃうよ。


 なんて思ってたらお爺さんがちょっと息を吐く。


「今年は冷夏で神殿の恩寵もどうも上手くいかないばかりだ。お前さんの手が埋まると困るとギルド長がやきもきしてたぞ」

「勝手なことを」

「はっは、お前さんが突然善行に走るもんだから、町でも妙な勘繰りが横行してたぞ」

「なんだそれ!?」

「今まで散々必要最低限の関わりで済ませて来たんだ。当たり前だろう」


 お爺さんが半笑いになって指摘しても、フェルギスは言い返せないらしい。


「ギルド長がもう一つやきもきしてたのがな、弟子にする気はあるかってことだ」

「…………本人次第だ。って、なんで聞いておいて驚いてんだよ?」

「お前さん、今まで何人の魔法使いを門前払いして来たか覚えとらんのか?」


 あらら?

 フェルギス弟子取ったことないんだ。

 まぁ、私も弟子はフェルギス一人だけどね。


 何せまともに私の趣味に興味持つ人いなかったし。

 今の神官長が就任する前も含めてね。

 そこら辺はやっぱり魔法をあまり重要視しない神官という職業柄だと思う。


「ふーむ、お前さんがねぇ。あの無愛想な大魔法使いが変わるもんだ。…………アニマルセラピーか?」

「うるさい。仕事しろ」


 お爺さんが私を見て呟く。

 フェルギスったらそんな言い方ないでしょ。


「あんたも聞こえてないと思って好き勝手言うな」


 あら、聞こえてた?


「仲がいいのはいいが、そっちのお嬢ちゃんはそろそろ限界じゃないか?」


 配達のお爺さんが私の後ろを指す。

 見ればメレがふらふらになってた。


「こら、無理するなって言っただろ」


 子供にそれ言ってもわからないよ。

 フェルギスだっていきなり火が消えたように寝落ちすることあったし。


「と、ともかくこっち来い、メレ」

「もひゅ…………めれ…………」

「もふは夜になれば一緒に寝るだろ。昼間くらい好きにさせてやれって」

「…………ふぇる」

「うん? …………あ!」


 あ、初めてフェルギスの名前言ったね!


「も、もっかい言ってみろ」

「もひゅ、めれ、ふぇる?」

「フェルギス、フェルギスだ」

「ふぇる、いす」


 うーん、難しいか。

 今まで喋ってなかったわけだし。

 上手く口とか舌が動かないんだね。


 痛いって言ってたのもほぼ叫び声で、泣きながらの勢いだったし。


「もう一回、フェルギス」

「へる、ぎぃす」

「惜しい、フェルギス」


 あらあら。

 フェルギス夢中になっちゃって。


 けど私もフェルギスが初めて喋った時やったなぁ。

 最初に「まんま」だったなぁ。

 お腹すいてたんだね。

 クロノアって教えたら「くおぉおぉぉお?」って不思議な声出してた。

 いやー、いい思い出。


 なんて思ってると配達のお爺さんが私の側にしゃがみ込む。


「やっぱり丸くなってるじゃないか。なぁ? お前さんのお蔭か? どれ、わしからのお礼を上げよう」


 配達のお爺さんが葉っぱをくれた。

 なんかスパイシーだけど売り物?


「厭世的に生きてたのになぁ。今を生きる気に、ようやくなったか」


 わーい、葉っぱのお代わりもらえた。

 そしてそれは、私のせいかな?


 世俗と隔絶された神域で育てたことに、問題があることはわかってた。

 あそこには時の流れがない。

 そんなところで情緒が育つ時期を閉じ込めたんだ。


 だから神殿の外に出すということに、抵抗しながらも頷いてしまった。

 今も、あの時養い子を手放したのは、良かったのか悪かったのか。

 フェルギスと再会しても、一長一短だってことに変わりはない。


「お前さんが来てくれて良かった、もふさん」


 配達のお爺さん笑ってまた葉っぱをくれる。


「どういう縁かは知らんが、良かったよ。自分以外がいない世界なんて寂しい。そんな世界の奴と言葉を交わすのも寂しい。同じ時を生きられないにしても、今は確かにあるはずなんだが、寂しいばかりが募るのはな」


 親の代から、それだけ長い間フェルギスを見てた人。

 このお爺さんは、もう私よりもつき合いは長いんだろう。


 この出会いは、私がフェルギスを手放したからあったものだ。

 きっとこのお爺さんとの友好はフェルギスにとっての長所だろう。


「何度か世間に引っ張り出そうとしたんだが、無理でな。…………大事な人の死が、変化を与えたのかもしれん。それでも、そんな時にお前さんに会えたから、あいつも笑ってられるんだろう」


 大事な人? あれ? それってもしかして私か。

 私が死んだと知ったらフェルギス落ち込むと思われてたのか。

 フェルギスと出会った時点でそれなりに歳だったんだけどなぁ。


「おい、何食わせてるんだ? 際限なく食べるからやめろ」

「いやー、吸い込まれるように入って行くが楽しいなぁ」


 そっか、心配してくれる人いたんだ。

 良かった。

 厭世的でもフェルギスが生きた証だね。


 うん、良かった。

 死んだと思われても次を捜すなんて言われる私と違って、本当に良かった。


毎日更新

次回:犬棒、もふ井戸

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