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24話:輝けるもふ

「いたいぃ、いたいよぉ」


 女の子はぐずる、ぐずる。

 三歳なのに十代半ばの体で相当な負担だったんだろう。

 そして今まで声も上げられなかった。

 気持ちのやり場も、泣き止み方さえ知らない子。


 うん、いいよいいよ。

 いっそ偉いね。

 よくできました!


「そう言えば、喋れたんだなこの子。生まれた時から急成長してたなら、言葉覚える余裕なんてないかと思ってた」


 フェルギスは急いで出した道具の片づけをしながら、女の子の様子を窺う。


 そう言われて見ればそうだ。

 三歳くらいなら言葉を真似することはできるけど、この子の環境を考えると難しかっただろう。


 辛くて泣くこともできない中で、ちゃんと言葉覚えたんだね。

 できる子だね。

 これは将来に期待大だね。


 あ、そう言えばこの子名前はなんていうの?


「…………ないらしい。生まれた時から髪の色がこれだから、早々に呪われてることはわかって、つけなかったそうだ」


 理由もわからず呪われて、今日明日とも知れない命。

 呪いの原因がわからなければ、それが周囲に害を及ぼさないとは限らない。

 何より日々異常な速度で育つ子供は親としても恐怖だったろう。

 この子を育てた三年は、両親なりに頑張った結果なのかもしれない。

 がりがりでも、動けなくても、この子が生きてたのはその証拠と言える。


 けど神殿にも匙を投げられ希望が持てなくなった。

 生活の苦しい親が死なせるよりもと、仕事のある場所に子供を売ることはある。

 ただの厄介払いというには、この子の親ももう他に手がなかったんだろう。


 とは思うけど…………やっぱり親の手に戻さないためにこの子を買ったフェルギスの判断は正しかったと思える。

 手放したなら、それがこの子の親の決断なんだ。


「俺は自分の名前、気に入ってる」


 急にどうしたの、フェルギス?


「お師匠も最初名前つけなかったんだろ、俺に」


 え…………、それ誰に聞いたの?


「まぁ、神官の嫌みのついでにな。けど、一年親が現われないことで名前つけて養い親になってくれた。名前がその証だと思うとよけいに愛着っていうか、なんて言うか、その…………」


 フェルギスは片付けを終えてこっちにやって来た。

 ばつの悪そうな顔で、女の子にがっしり掴まれた私の前に屈む。


「ともかく、この子にも名前つけてやってくれないか。時間止めて終わりなんてわけにはいかないし。俺がここで手を放したらこの子は生きていけない。だったら一年待つ必要もないだろ」


 確かにこの子の異常な成長は止めたけど、三歳でこの見た目は生きにくい。

 年相応に逆成長の必要がある上で、それができるのは世間的にはフェルギスだけだ。


 時に関する魔法は失伝状態だと聞いたし、時の神殿の内情を知るからこそ、神殿は何もしてくれないとわかる。

 つまりこの子を救えるとしたら、たぶん私たちだけ。

 この子はすでに売買済みで、帰ることもできない。

 だったら名前をつけてきちんと育てる覚悟を示すのは悪いことではない気がした。


「正直、名前つけるにしても俺、何も思いつかなくてさ」


 そっか。

 じゃあ、メレはどう?


「メレ?」


 うん、古い言葉で「できた!」って意味だよ。

 この子はきっとこの先、三年間でできなかったことよりもっと多くのことをできるようになるから。


「そっか、メレ。うん、いいんじゃないか。まずは、気持ちを言葉にできたって辺りか」


 あ、そう言えばいつの間にか痛いって泣かなくなってる?


 見るとメレは泣き疲れたのか眠ってる。

 呼吸は規則的で、今のところ異音もない。

 まだちょっと体縮めてて痛そうだけど、最初に見た時よりもましと言える。


「なら今の内にお師匠を…………って、がっちり毛を掴んでるな」


 あたた、引っ張らないで。

 いいよ、無理に引き離さなくてもこのままで。


 けど床に寝かしておくのは可哀想だから、何処か使えるベッドある?


「俺が使ってる部屋の隣。書庫にしてたけど、お師匠が使うかと思ってシーツは一回変えたな」


 あー、結局私フェルギスの所で寝てるもんね。


「庭だろうが廊下だろうが何処でも寝てるけどな。もうその毛皮、何処でもベッドになるんだろ」


 うーん、否定できない。


 そんな話をしながら、魔法陣を描いた布ごと私がメレを魔法で浮かす。

 それをフェルギスが下に腕をいれて抱きかかえた。


「やっぱり軽いな。成長に体が追いついてない。歯が大きさに見合った成長してるかもわからないから、食わせるものは考えたほうがいいだろうな」


 フェルギスは食糧の心配を口にして、食材の名称を上げ始める。

 どうやらメレ用に何か買い足す気のようだ。


 あれ?

 そう言えばいきなり出かけたけど用事はなんだったの?


「あ、そうだ。注文の品の出来上がり待つだけのはずだったのに、受け取らずに戻って来た」


 フェルギスは書庫代わりにしていた客間にメレを寝かせて、用事が済んでいないことを思い出したようだ。


 用事終わってないなら行ってきていいよ。

 私どうせ動けないし。

 ここ、フェルギスの結界あるんでしょ?

 だったらよっぽどのことがないと危なくないよ。


「そうか? だったらすぐ戻る。物さえ受け取ればそのまま帰ればいいし」


 必要なもの買い物して来てもいいよ。


「いや、本当何食べてたかわからないだろ。いきなり食わせるんじゃなく、まず水からのほうがいいんじゃないか?」


 そう言って出て行ったフェルギスは、本当にすぐ戻って来た。


 なんの用事だったの?


「材料はある物でこれ作ってもらって来た」


 そう言ってフェルギスが取り出したのはハート形のペンダントトップがついた首飾り。


 あ、違う。

 これハートを逆さにした時の神獣、猪を表すアミュレットだ。


「前に金具だけ作って放置してたんだ。神像あるし、わざわざいらないかなって」


 ペンダントトップには灰みの青色をした石がはめ込んである。

 まるでフェルギスの瞳の色だ。


「これつけてればお師匠が野良に間違われて攫われることないだろ」


 え、私用?

 いいの?


 うん? けどこれって首輪…………。


「所有主張するなら指輪渡すっての。ともかく目印だよ。つけるからちょっと動かないでくれ」


 メレに掴まれて動けないけどね!


 あとフェルギスがさりげなくすごく恥ずかしいこと言ってる!


「あーもー、うるさいな。ほら、これで少しは危険、も…………」


 フェルギスが私の顔を覗き込んで、さらにベッドの下に膝をついて打ちひしがれる。


「毛に、埋もれた…………。くそ、もふのふかふか具合舐めてた。これじゃほとんどわからねぇ」


 あらら、どうやら失敗みたいだ。

 うーん、罪深きかなもふ。


 けど嬉しいから贈り物はしっかりもらうことにした。


毎日更新

次回:いっぱい食べるもふが好き

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