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18話:もふ来る

 こんにちは、もふです。


 昨日初めての誘拐に遭って、さらに初めての告白を受けました。

 相手は弟子のフェルギスです。

 可愛い弟子の性癖を歪めるわけにもいかずお断りしたところ、すごい顔して徹夜してました。


 お師匠は弟子の体が心配です。

 どうかフェルギスの心身の健康をお守りください。


 私は神像に向かってそうお祈りした。


 時の神は私が誘拐されたことよりも、フェルギスの告白のことのほうが気になるご様子。

 神にとって種族の違いなんて小さなことらしい。

 こっちは大問題ですよー。


 この体に不便はないしどちらかと言えば気に入ってる。

 けどそこに恋愛感情を抱かれてどう思うかは別の話なのですよ。


 うん、ない。

 フェルギスの性癖が歪んでしまうと思えば悲しいし、阻止しなければと師匠としては思うわけで。


 おや、誰か来たようだ。

 籠に乗ってふわっと移動しよう。


 台所のほうの門が開く音がして向かうと、台所に配達のお爺さんをフェルギスが引き入れていた。


「あぁ、これはこれは。もふさん、先日は失礼したね」


 いえいえ、こちらこそお騒がせしまして。


「気にしてないってよ」

「適当言ってるようにも聞こえるが、お前さん自身は全然納得してないところを見ると、本当に賢い子なんだな」


 配達のお爺さんが、籠に乗って浮く私を見ながら感心するように頷く。


 フェルギスと一緒に台所の椅子に座ったので、私も籠を降りた。

 するとフェルギスは私を抱えて専用のマットの上へと移動させてくれる。


 魔獣疑惑が出るから他の人の前で魔法は使わないことにしてたんだけど、籠はフェルギスの魔法とでも思ってくれたかな?


「それでだ、昨日やらかした奴だがな。窃盗で突き出したはいいが、何を盗んだかというのが問題になってな。あっちはお前さんがペットじゃないと言ったからと言い訳しよる」

「それで敷地内の生き物連れ出していい理由にはならないだろ」

「まぁな。町の役人も魔法使いの屋敷から勝手に持ち出して痛い目を見たと聞いた時点で、魔法使いから盗む馬鹿として扱っている。呪いをかけられなかっただけ喜べと言っておったよ」


 フェルギスは役人の言いがかりに渋い顔だ。

 まぁ、私がいいと言わなきゃたぶん呪ってたよね。


「でだ、お前さんのほうから何を盗まれたか訴えてほしいそうなんだが」

「何を?」

「ペットじゃないなら、家畜か飼育動物か。役人は書類の関係で盗まれたものの分類を知りたがっておるんだ」

「見に来ればいいだろ」

「ほれ、お前さんが以前役人の上のほうと諍い起こしただろう? あれでお前さんに関わるのは役人たちの中で嫌がられているんだよ」


 何したの、フェルギス?


「落としたい女がいるから惚れ薬作って盛れなんて、阿呆なこと権力かさに着て強制しようとした馬鹿がいただけだ」


 わー、ろくでなし。

 好きならちゃんと玉砕しなきゃ!


「玉砕前提かよ」


 だって最初から惚れ薬頼りで努力するつもりもないんでしょ?

 さらにはフェルギスに盛れって自分でどうにかするつもりもないでしょ?

 そんな人好きになってもらえないよ。


「ふーん…………」

「わしとも話しておくれぇ」


 放置された配達のお爺さんが苦笑いで弱々しい声を出してみせる。


 うん、私の分類の話だよね。

 うーん、家畜にしては私生産性ないし、飼育動物でいいんじゃない?


「だめだ」


 じゃあ、同居。

 あれ、同棲って言うんだっけ?

 あ、居候!


 あれ? なんでがっくりしてるの、フェルギス?


「なんだ? 面白いことでも言われたか? 仲良さそうだなぁ」


 配達のお爺さんもフェルギスと仲良さそうだよ。

 なんか、相手し慣れてますって感じがする。


「あーもー、聞きたいことがそれだけならうちに居候してるやつとでも言え。で、あんたは茶々を入れるな」


 はーい。


「はは、当代一の魔法使いに茶々を入れるとは怖いもの知らずだな」

「何が当代一だ。俺の師匠のほうがよっぽど凄いし強い」


 それは物理的に?


 あ、なんかフェルギスに怨みがましい目をされた。


「まぁ、もう一つついでに報告だ。聞いたところ一人攻撃されなかった奴も含めて全員里へ帰すことになった」


 え? 止めてくれた人も?


「その一人は自主的にだな。怖すぎてもふさんの近くで働きたくないんだと」


 えー?


「あの部屋の惨状を見ればな」


 あらら、フェルギスも納得?


「他の奴らは里のほうに申し送りもして、客の悪口を聞こえる所で言う考えのなさと、盗みを前に奨励する不心得、そして魔法使い相手にやった馬鹿さを伝えてある。もううちとその周辺で雇われることはない」

「別にその辺りはどうでもいい」

「それは、ここを出て行くということかね?」


 お爺さん、なんでそうなるの?


 おや、フェルギスが私を横目に見てるね。


「俺はその時にしてる研究に適した土地を移っていってる。薬草育てるのにここの庭が使い勝手良かったし、環境も悪くないから長くいた」

「わしも親の代からお前さんの顔見に通っているから、そう言われると悪い気はしないな」

「なんで自分のことを俺の環境の一部だと思ってるんだ」

「お? わしこれでも町で郊外の大魔法使いと正面から話せる数少ない偉人じゃぞ?」

「俺と話すくらい誰でもできるだろ」

「まずをまともな返事をしないくせに何を言う。そうでなくても長命すぎて生きにくかろう」


 あぁ、そういうことか。

 この人は本当にフェルギスのことを心配してくれてるんだ。

 お爺さんなのに、親が生きている時代から今までずっと。


 そしてフェルギスは神の恩寵を受けてる。

 神殿でもないのに、不老長寿の恩寵を。

 それはきっと、私の影響だ。


 フェルギスと別れてから毎日その健康を祈っていた。

 まさか健康に年老いず長生きしてるなんて思わなかったけど。

 考えないようにしてたけど、いったい今はいつなんだろう?


 いったいどれくらいの時間、フェルギスは私を待っていてくれたんだろう?

 そう聞くのがちょっと、怖かった。


毎日更新

次回:困った時のもふ頼み

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