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12話:もふも歩けば棒に当たる

 私もっと強くならないと!


「やめてくれ」


 決意も新たに言ったらフェルギスに拒否されちゃった。


 なんで?


「鼠捕り覗きこんだら桶がひっくり返って出られなくなったのはわかった。だからって今以上に強くなってどうするんだ? 破壊するのか?」


 は! そうだね。

 桶壊したらフェルギスが困るよね!


「いや、あんたあの熊やった脚力出したら桶くらい粉砕できただろ。今以上ってなったらもう家を壊す気かって聞いてるんだ」


 そんなことしないよー。


「信じられねぇ」


 そんなこと言いつつフェルギスは居間で私を膝に乗せてブラッシング中だ。


 お仕事で町に行くと言ってたけど、なんでか人間用と動物用のブラシ買って帰って来た。

 どっちも目は細かく上等なものだと私でもわかる。

 そして私のもふにはどっちのブラシが適してるかをお試し中なのだ。


 ちなみに鼠は取れませんでした。


「なんでこんなほぼ毛なのにあんなに強いんだよ?」


 男の子は強さに拘るねぇ。

 強さだけで手に入れられるものなんて、暴力で奪われる程度の物しかないんだ、ぜ!


「それ俺が昔読んだ小説の台詞だな。何処にあったんだよ」


 なんか読み終わった小説積んである一角が書庫にあったよ。

 あったけど、あそこって書庫でいいの?


「元は客室だな。隣にほぼ同じ形の寝室もう一個あるだろ」


 うん、フェルギスが寝室にしてる部屋ね。


「あの書庫にしてる所にも本の中に一応ベッドあるぞ。お師匠が使うなら整えるけど? いや、その前に一回本の整理したほうがいいか? お師匠に覆いかぶさったのがもし本だったら、まずいな」


 確かに重さもあるし痛そうだ。


 それにしてもフェルギス、書斎だけでも本が溢れてるのに読書家だねぇ。


「本屋に売ることも考えるんだけど、分類とかが面倒でな」


 本を売る!?

 そんな勿体ない!


「庶民感覚だとそうなるよな。買う側も金の欲しい貴族から買って、見栄を張りたい商人に売るんだ」


 なんかそれ、読み物じゃなくて装飾品扱いだね。


「まぁ、そんなところだな。この屋敷も三階の寝室が余ってるから、ちょっとやそっと本増やしたくらいじゃ問題ないんだ。お師匠も欲しい系統の本があったら手に入れて来るぜ?」


 え、本当?

 わーい、魔術書はまだ読み切れないくらいあるから、やっぱり数の限られてる冒険活劇?


 って、私そこまでフェルギスに甘えていいの?

 本って高いでしょ。


「こっちは赤ん坊の頃に命助けられて以来世話になりっぱなしだったんだ。こんなの甘やかすうちには入らないさ」


 あら、やだ、かっこいい。

 これがスパダリ?


「変な言葉覚えるなよ。それも俺の持ってる本からか? そんな単語入ってる小説なんてあったかな」


 ジャンルとか関係なく積み上がってたよ。

 冒険活劇もあれば恋愛も古典もあった。


「あ、あー。思い出した。創作物に出て来る魔法ってどれくらい実現可能なのかやってみようとしたことあるんだよ。あの時はともかく目立つことやってみようとか短絡に考えてたな。名を売れば声がかかるかもしれないから」


 わー、フェルギスお仕事熱心だったんだね。

 冬の間ずっと屋敷にいた割に何かの研究してたし。


「いや、研究はあんたを人間に戻す方法を模索してた。神の恩寵かもしれないにしても、訳が分からなさすぎる。もうこれ呪いの類だろ?」


 そうなのかな?

 けど気にしなくていいのに。

 たぶんその内神さまが思い出したころに戻るよ。


「軽い…………。人外になったらもっと混乱したりあるだろ」


 と言われても、結局はこれ私が神に願った結果なんだよ。

 曲解されたとはいえ自分のせいだし。

 受け入れるしかないと思ってたんだけど。


「俺がそんな姿になったらまず魔術師ギルドが黙ってないな」


 そうだ!

 フェルギスのお仕事ってどんなの?

 ギルドって小さい頃に話に聞いたことがあるだけなんだ。


 まぁ、それも羊飼いたちの寄り合いみたいなもんだったけど。


「どんな仕事? えーと、神の力の調整?」


 あー、神の力強すぎるし融通効かないもんね。

 時の神も時と秩序を司ってるから上から下へみたいな力の流れ変えがたいし。


「なんかわかるな、それ。もう少し人間の実態に合わせてくれればこんな二度手間ないのになんて思うことよくある」


 その点魔法は人間が使いやすいように手を加えられるし、小出しで微調整ができるんだよね。


「そう言えばお師匠、時の神殿で神の力使うことってあったのか?」


 フェルギスがいた時にはちょうどなかったっけ。

 あ、目に見えないところでやってたせいか。


 たまにね、複数の神殿が同時に恩寵を使うと神さま同士の力がぶつかって、人間が願ったこととは違う結果になるの。


 例えば雨降らせてくださいって山の人が頼むでしょ?

 同時に海の人が水難事故起きないように風起こさないでくださいって頼むの。

 そしたらどっちの神さまもそのとおりにする。

 雨は降らせるけど雲は風が吹かなくて動かないから、土砂崩れとか中流の畑が水害に遭ったり。


「ん?」


 わかりにくかった?


 厳冬で太陽神に温かくしてって頼んだら、雪解けが早まって水害とか水不足になったり、水神に季節外れの雨を願ったら気温が下がりすぎて作物に影響したり、あと天神に吹雪を止めてくださいって言ったら寒風が止まって獣が出てきちゃったり。


 そう言うことにならないように、神の力を扱う際に忠告してくれるのが時の神なの。

 私は神の力が調和を持って回りますようにってお祈りするのは知ってるでしょ?

 それをちょっと人間目線でこっちがこう動くとそっちがまずいことになるので控えてくださいーってお願いするんだ。

 時の神もこんな祈りが来てるらしいよーって教えてくれてね。


「おー…………あー…………そういうことかー」


 どうしたのフェルギス、頭抱えて変な声出して?


 私はフェルギスの膝から降りて見上げる。


 まだわからないことある?

 えっとね、時の神は神同士の調停役でもあるの。

 基本的に神は人間社会のことに詳しくないから、巫女の私がこんなこと困ってますって神に申し上げたら、それを他の神にも伝えてくれるんだよ。


「不老長寿だけじゃなかったんだな…………」


 それ神域の副作用なだけだし。


 秩序の神でもあるから淀みのない流れで喩えられてるのを、神殿の本で見たよ。

 水が湧けば小川になる、小川になれば川になる、川になれば海に至る、海に至れば雨となるって。


 雨が地面にしみこんでまた水が湧くって言う流れのことね。


「あー、それは大切だなぁ」


 フェルギスは私をまた抱え直してなんだか投げやりな言い方で相槌を打つ。

 考えることをやめたような響きがあるのは気のせい?


 なんか変だけど、ブラッシング再開されたから、ま、いいか!


一週間二話更新

次回:カリオ1

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