10話:春うらら隣はもふをする人ぞ
冬も終わって春。
お日さま温かくていい季節だ。
太陽神に感謝。
けど冬籠りも楽しかったなー。
まずフェルギスのおうちがあるのは交通の要衝である町、その郊外だった。
冬は雪降ると交通が止まるから、最初からフェルギスは冬籠りで屋敷に引き篭もるつもりだったんだって。
私が増えても部屋余ってるから問題ない。
というか体が小さくなったから一人で部屋を占領するのももったいないので、フェルギスの寝室に籠を置いて一緒に寝てた。
最初は嫌がってたけどもふの温かさに即陥落。
ふっふっふ、罪深いもふになったものだね、私も。
「お師匠、間引きした芽っているか?」
いるー!
「うわ!? 飛び跳ねるなよ! 頭突きする勢いで走ってくるな!」
お屋敷の裏には広い庭があった。
そこをフェルギスは薬草園として使ってる。
春になって種を撒いて温かくなって芽が出たところで間引きだ。
籠にはまだ軸の白い双葉が並んでた。
「待てって! 洗って皿に移すから」
食べられるよ。
この姿だとなんでも食べられる!
「だからって人間性捨てるなよ。あと間引きした後なんだから、他の芽を食べるの禁止な」
そんな!?
あんな柔らかくておいしそうな芽を横目に耐えろと!?
私は抗議しながら台所に向かうフェルギスを追う。
居間でフェルギスから借りた魔導書を読んでたのも構わず追うよ。
庭から戻ったフェルギスは、居間から続く元は配膳室だった小部屋に向かう。
小部屋には地下への階段があり、下には古い台所と洗濯場があった。
けどフェルギスはそっちに行かず、小部屋から扉のある別棟に入る。
そこは新しい台所があるんだ。
従来の竈じゃなく鉄製のオーブンが置いてあるなんて、本当にお屋敷って感じ。
「はい、どうぞ」
フェルギスは食卓に私専用のマットを引いて、その上にお皿を乗せる。
そして床から私を持ち上げてマットの上に乗せた。
瑞々しい芽がうおいしー。
「こうしてみると完全に草食なのに、なんで普通に俺と同じ食事取れるんだ?」
なんでだろうね?
お菓子も食べれたし、今度念のためって避けてた玉ねぎいってみる?
「やめてくれ。ただでさえなんでそうなってるかも、戻れるかもわからない状況なのに。お師匠チャレンジ精神旺盛すぎだ」
葉っぱが美味しいからなんでもいいよ。
あ、薬草園の畝から外れて生えてるような草なら食べていい?
「まぁ、いいけど。…………お師匠専用の花壇でも作るか」
やったー。
じゃあ、すぐ作ろう。
「もう食べてしまったのかよ。こりゃ、繁殖力の強いやつ植えないとな」
というわけで私たちは神像のある中庭に移動した。
ここに作るの?
「薬草園のほうに作ると勢いに乗って他も食われそうだから別ける」
うーん、否定できない。
冬場口寂しくて庭木の細い枝噛み折って食べてたらすごく驚かれたし。
口小さいからいっぱいは食べられないし肉千切るのにも向いてないんだよね。
けどひたすらもぐもぐできる。
この体どうなってるんだろう?
明らかに筋力あがってるのはわかる。
眠い時あるけどすぐに起きられるくらい野生動物っぽさもある。
あまりやってないけど魔法使った感じもしかしたらそっちの能力も上がってるかもしれない。
「土掘り起こして壇作って、栄養のある土入れて」
言いながらフェルギスは手と同時に魔法を使って手早く花壇を作り始める。
硬い地面をまず割って塊を除去。
そこに薬草園の整備用にあった石のブロックを四角く並べる。
ブロックで囲んだ地面の凹みに鶏糞や腐葉土交じりの土、その他石や古い麻袋なんかも入れて完成。
「種は撒いた。あとは水を持って来ないと」
神さまの水盆から貰ってくる!
「罰当たりだな!?」
ちゃんとお願いするよ!
神さま、お水ください、ありがとう!
「それ一方的じゃないのか!?」
フェルギスは心配性だなぁ。
神さま私たちが花壇作ってたの見てたから普通にいいよって言ってくれたよ。
それに後でちゃんと代わりの水持ってくるって。
「…………見て、た? ここ、神殿に関係ない個人宅なのに?」
ちゃんとお祀りすれば関係ないよ。
さ、水みず。
私は魔法で水盆の水を持ち上げて、そのまま水を浮かせると花壇のほうへ移動した。
「あ、一気にかけるなよ。種流れるだけだぞ」
なるほど。
だったら花壇の上に薄く広げて水滴をぽつぽつ落としてっと。
「…………おい、お師匠…………」
うん、お水を上げたら植物は育つよね。
「いや、おかしいだろ?」
うん、なんで水かける側から発芽して大きくなってるんだろうね?
今さっきフェルギスが作った花壇には、もうびっしりと双葉が並んでた。
「ちょっと待て! あんたの魔法じゃないのか!?」
違うよ。
たぶん時の神さまから貰ったから恩寵のある水になってたんじゃないかな?
「え、えぇ? いいのか? こういうの豊穣の神がやることじゃないのか?」
いいんじゃない?
個人宅でのことだし。
育ちすぎても硬くなるからこれくらいでいいか。
水は花壇の外にでも捨てて、新しい水を神さまにあげないと。
「待て待て! その水捨てるくらいなら研究させろ! 恩寵の宿った水!? 水神の神殿でもないのになんでうちでそんなものできてるんだよ!?」
そういうと、フェルギスは容れ物を取りに屋敷の中へ走って戻った。
私の弟子は勤勉だなぁ。
うん、よきかな。
私はフェルギスが戻るまで、春のうららかな日差しの下、畝を外れた双葉をもぐもぐするのだった。
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