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1話:もふもふは突然に

 十二の神獣に守られたトリディーカ国。

 建国の始祖が、神が姿を変えて顕現した獣たちを従えたことから始まる国だ。


 国内には十二の神殿があり、それぞれが信徒と神官、神獣と心通わすことのできる巫女で維持されている。


 そんな神殿の中で、もっとも忘れられがちなのが時の神殿と呼ばれる場所。

 巫女である私も毎日同じことの繰り返しでなんだか疲れてしまっていた。


「ほぼやってることって趣味にお祈りにおそうじくらいのものだけど」


 そう声に出して思う。

 久しぶりに祈り以外の自分の声を聞いたなー。


 お祈りは毎日のことで何も考えなくても意識しなくても口が動く。声が出る。

 だからすごく自分から喋ったって気分になる。


「なんか、喋る必要性なくって独り言も最近は…………」


 神像を前に呟く今は、一人で朝の祈りを捧げていた。

 神像の安置してある聖堂は広い。

 神殿の神官全員入れてもまだ広さがあるくらいなのに、いるのは私だけだ。


 掃除してるのも私。

 祈っているのも私。

 神像へのお供えも私。

 毎日の戸締りも私。


「うん、私だけで喋る必要ないわ」


 言って口を押える。


 そうだ喋らないようにしてたんだった。

 誰かの前で喋ると育ちが悪いって言われるから。

 決まり文句ぐらいなら丁寧に巫女らしく言える。

 けど普通に喋る分には身についてないんだよね。


「…………いやいや、聞いてる人いないんだしいいか」


 ここで自分の口を塞ぐ必要はない。


「うん、いっそ羊飼いの娘に何を期待してるんだとここでなら言える」


 一人をいいことに拳を握ってみる。

 神官たちに見られたらこれ見よがしに眉を顰められそうだ。

 私に興味ないなら放っておいてほしいんだけどな。


 そこは神官として巫女には相応の立ち振る舞いと、平民としての弁えを要求される。

 本当、羊飼いの娘に何言ってるのか。

 神官が貴族出身ばかりだっていうのも、巫女として神殿に来てから知ったのに。


「昔はなりたい人誰でもなれると思ってたんだよね。実際は神官じゃなくて神殿の下働きだったけど」


 まさかイノシシの神獣である時の巫女になるとは思ってなかった。


「というか羊飼いだから、羊の神獣である月神さま信仰してたし」


 正直イノシシって動物知らなかったくらいなんだよね。

 近所にいなかったから。


「羊じゃなかったら犬とか鶏とか飼ってたし。後は鼠とかたまに蛇出てたな。十二種もいてよりによって知らない動物の神獣とか」


 神官にたまに言われるけど、本当になんで私が巫女だったんだろう?


「あ、なんか口に出したら羊懐かしいな。飼ってた牧羊犬とかよく尻尾振ってて…………イノシシって尻尾は、あ、ある」


 私が羊の群れに飲み込まれた時、尻尾ブンブン振りながら見てたあの犬は、さすがにもう冥神の御許へ召されただろう。

 毎日卵を拾っていた鶏たちも代替わりしてるかな。


「そもそも、まだ羊飼いしてるのかな?」


 巫女になってずいぶん長い。

 神殿に引き取られて以来会ってない親族がどうしているのかを私は知らない。


「もう顔も…………。ふふ、その割に押しつぶされた羊の感触覚えてるなんて」


 表面はごわごわだけど弾力と奥の柔らかな毛に埋もれたあの時。

 牧羊犬は抱きつくといつもお日様の匂いがしたのも思い出せる。


「こう、もふもふで…………もふもふ…………はぁ、癒されたい」


 親に怒られて鶏小屋に逃げ込んだら、雌鶏たちが寄り添ってくれたこともあった。

 羽根は硬いけどお腹の下とかは柔らかくてすごく温かくて。


 ちょっと疲れすぎてるのかな?

 こんな昔のことを思い出すなんて本当に久しぶり。


「時司る御方、御心の行われる如くに」


 なんだか祈りの時間なのに全く別のことを考えていた。

 こんな集中力じゃお勤めも果たせない。

 私は祈りを切り上げようと〆の言葉を口にした。


 その瞬間、体に神の恩寵を表す光が宿る。


「…………!?」


 全てを白く染める光に声もなく固まる。

 けれど不思議と目に痛くはない優しい光が辺りを照らした。


 光の収束を待って瞬きをすると、なんだか毛布を頭からかぶったように薄暗い。


「…………っ」


 え、声が出ない!?

 なんだかまずいことになってる?


 私は慌てて光のほうへと這った。

 いつの間に倒れたんだろう?


 ともかくここを抜けて…………うん、やっぱり頭から布被ってたみたい。

 けれどおかしいな。

 見たことのない場所な気が…………違う。

 視点が低いだけでここは変わらず聖堂だ。

 まさか私、倒れてる?


「…………っ」


 相変わらず声は出ない。

 そして、なんか、変なものが見える。


 白い毛に覆われた薄い何か。

 それが目元に垂れて…………あ、動いた。

 動いた感覚がある?

 これ、耳?


 待って待って!

 私、耳、動かないよ? 動いたことないよ?

 えっと、まずはいつまでも床に張ってるわけにもいかないし立って…………うん、足で立ってるはずなのに膝が伸びない。

 無理に伸ばすと比例して頭が下がる。

 何故?


 そして顔の前に手をやったはずなのに見えるのは白いもふもふの前足。


「…………!?」


 なんじゃこりゃー!

 私もふもふになってるよ!?

 白いもふもふに!


 もふもふ…………もふもふ…………?

 え…………まさか、さっきの呟きのせい?

 私の独り言、神さま聞いてたの?


 …………そうじゃなくて!

 確かにもふもふって言ったけど、癒されたいって言ったじゃん!

 なんで私がもふもふ!?


 あ、そうか!

 神さまがもふもふされる側の神獣さまだもんね!

 癒されるもふもふは自分が撫でられることを想定したんですね!

 うん、そうじゃない!


「…………ぷく」


 あ、なんか変な音出た。

 けどすっごい小さい音しか出ないや。


 これ、うん、私完全に獣になってるー。


 神の恩寵を感じたから悪いことにはならないんだろうけど、どうしよう?

 あ、後ろ足で立つより四つん這いのほうが楽だ。

 じゃなくて。

 こんなの神官に見つかったらまたうるさいなぁ。


 そう考えた時、人間より鋭い聴覚と嗅覚が神官の接近を告げていた。


一週間二話更新

次回:人生楽ありゃもふもあるさ

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