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6話 猫の言葉がわかる?

 黒猫と出会ってから、僕は不思議とよく夢を見るようになった。


 ただ、夢といっても、現実ではあり得ないファンタジーチックなことが壮大に起こったりだとか、恐ろしい幽霊的なものが出てきたりだとか、そういうわけじゃない。


 シンプルに奈冬が出てくるだけだ。


 それまでも何度か当然夢に出てくることはあったけど、最近のものはどこかリアルで、僕の今の生活を見ているかのような発言を多くしてくる。


 たとえば、


「髪は昔と違ってちょっと長めだね。短い方が似合ってるよ」とか、


「一人の時間が多いからってゲームのし過ぎはダメ。運動もしなきゃ」とか、


「あ、黒猫に名前は付けなくていいからね」みたいな感じだ。


 それに対して僕は何でか、円滑に返答したりができない。


 何か言おうとするたびに言葉が喉元でつっかえ、発音しづらかった。現実じゃ寝てるし、夢だからかもしれない。


 けれども、「黒猫に名前は付けなくていいから」というものに対しては、スムーズに「どうして?」と声にすることができた。


 奈冬はクスッと笑う。


「そんなの、もう名前があるからだよ」


 と言った。


 だったらその名前を教えて欲しかったけど、からかうのが好きな奈冬だ。それを教えてくれることはなく、僕もなぜか了承してるような形で夢は終わった。


 こんな感じのことが最近多い。


 本当に謎だ。



「あ、春架君じゃん! どしたの!? いらっしゃい!」


 とある部室の扉をノックし、開けて中を覗いた途端、騒がしい声に歓迎された。


 声の主は勇成の彼女である秋津成美あきつなるみ


 ここ、オカルト研究部ただ一人の部員として活動している超常現象好きな女の子だ。


「いや、最近顔出せてなかったし、調子はどうかなと思って」


「ははーん、さては勇成に行くよう言われたなー? べっつにそこんとこ気使ってくれなくていいのにねー。私は一人でも全然寂しいとか思わないタイプだし。あ、もちろん春架君に会いたくなかったとか、そういう意味じゃないからね!? 勘違いはNG!」


色素の薄い茶褐色の髪の毛を揺らし、バッと胸の前でバツ印を作る秋津さん。


 相変わらず面白い人である。勇成とは性格が真反対なのに、どうして付き合うまでに至ったんだろう。ちょっとした謎だ。


「ま、とりあえずありがたーい来客ということで、椅子とお茶用意するね! ささ、ここに座って春架くーん」


「あ、ごめん。ありがとう」


 用意されたパイプ椅子に座り、とりあえず一息つく。


 オカルト研究部の部室は文化部棟の最上階にあるから、階段で来るのはなかなか大変で結構息も上がってたのだ。


「大学も部室等にエレベーター作って欲しいよねー。イマドキ階段で上がれって、時代遅れすぎって感じ」


「あはは……、それホントに言えてる。秋津さんもいつもお疲れ様。ここまで上がるの大変でしょ?」


「私はもう慣れた。ただ、そのおかげで脚に不必要な筋肉が付いちゃいそうで嫌ってのはあるかなー。大学め、設備費ケチりおって」


「ははっ、間違いない」


「春架君はどう? 最近何か変わったことあった?」


 最近変わったことがあったか、と聞いてくるのは、秋津さんの癖みたいなものだ。


 出会うと、いつもこうして聞いてくる。


 普段の僕なら「別に何もないかな」なんて答えるが、今は違った。


「猫、飼い始めたよ」


「え、猫? ほんとに?」


「うん。黒猫でさ、『入れてくれー』って言ってるみたいにして僕の部屋の窓叩いてたから、それで飼い始めた」


「何それ(笑) ってことは元々野良猫だったってこと?」


「そうっぽい。一応飼い猫じゃないか交番に行ってみたりしたけど、野良だって」


「あっはは! じゃあその野良くんも必死だったわけだー。性別はどっち? オス? メス?」


「あー……、そこんとこまだ確認してなかったな。名前も付けてないレベルだし」


「名前まだなの? よかったら私が付けてあげよっか? 画数のいい名前を授けよう」


「猫の名前に画数もないでしょ。大抵カタカナじゃん」


「そりゃそうだ! はははっ!」


 秋津さんは笑い、湯気の立つ熱そうなお茶を僕の元へ持ってきてくれた。


 僕はそれをちびちびと飲む。


「へぇ~、でもそうなんだー。猫を拾った、かー」


「うん」


「……ふーん」


 言いながら、秋津さんは僕をジッと見つめてきた。


「? どうかした?」


「ん、いや、何でもないよ。春架君に何かあってくれて、私は嬉しいなと思って」


「何それ。親目線じゃん」


「ぷっ。言えてる。親みたいだなってちょっと思った」


 クスクス笑いながら、すぐ傍に置いてあったパイプ椅子へ腰掛ける秋津さん。


 彼女は少しばかり伸びをして続けた。


「春架君さ、これはちょっとした冗談だって受け取って欲しいんだけど、私、猫の言葉がちょっとだけわかるんだよね」


「……? 猫の言葉が……わかる?」


「うん。いつも通りのオカルトマニアの妄言なんですが」


「それって単純に秋津さん、猫が触りたい口実か何か?」


「あははっ! ううん、そういうわけじゃないんだけどね。ふふふっ、まさかそう返されるとは。やっぱり春架君は面白いですな」


「いや、笑いを取ろうと思ったわけじゃないんだけど。あと、面白いのは秋津さんだよ」


 僕がそう言うと、秋津さんは口元に手をやってクスクス笑う。


「まあいいや。さっきも言った通りこれは私の妄言だから気にしないで」


「うん」


 釈然としないが、僕はまたお茶をゆっくりと啜った。


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