4話 野良?
次の日、土曜日になって、僕は最寄りの交番に猫の迷子届が出てたりしていないか、確認しに行った。
野良だろうと思いはしてたけど、さすがに何も確認しないまま話を進めていくのはマズい。
人の猫だった場合、それはもう犯罪だ。
というわけで、相変わらず素直で大人しい黒猫を抱きかかえ、交番まで向かった。
「――そういうことなんですけど、この猫を探してる人とかっていらっしゃったりしませんか?」
僕が問うと、対応してくれた中年の男警察官はノートパソコンの画面を見たり、書類を見たりして確認してくれた。
そして、最終的には額をコリコリと掻き、
「んー……、今確認したけど、そういうのはこっちに提出されたりしてないなぁ」
「じゃあやっぱり野良なんですかね……?」
「と、俺は思うんだけどねぇ。お兄さん、学生さん?」
「え、まあ、はい」
「高校生……かな? それとも――」
「いや、大学生です。すぐそこの大学に通ってます」
「ああ。てことは県外からこっちに来て、それで下宿生活をしてるとか?」
「そう……ですけど……」
その情報を聞くことに何の意味があるんだろう。
よくわからなくて思わず首を傾げてしまったけど、目の前に座る中年警察官はうんうん頷いて何かを察したみたいだった。
「自虐的なことを言うとさ、この辺って割と田舎だろ? そうなると野良猫とか、野良犬はあんまりいないけど……とにかく野良動物が多くてね」
「はぁ……」
「そりゃあ都会とかに住んでて、こうして猫ちゃんを拾ったってなると、真っ先に君のような行動を取らないといけないだろうけど鈴とかも付けてないし、拾った時に汚れてたって話を聞けば、野良で間違いないと思うよ」
「けど、この子結構人慣れしてるんですよ? それってやっぱり飼われてたからじゃ……?」
「エサをやる人がいたりもする。それで人慣れしてるって可能性もあるんだ。なあ、そうだろ猫ちゃん?」
警察官は僕に抱かれて大人しくしてる黒猫に向かってそう問うが、思い切り無視されていた。
一瞥を警官の方へやり、プイっと僕の胸にまた顔を戻す。
「それにしても、確かに君の言うように結構人慣れしてるな」
「……ですよね」
「まあでも、だからといってさっき言った通り飼い猫であるとは限らないし、その可能性は低いと思う。一応こっちとしても、一、二週間は迷子届が来るか気にはしておくから、それでいいかい?」
「あ、お願いします」
そんなやり取りを済ませ、僕は交番を後にした。
歩く道すがら、確かにチラホラと野良っぽい猫を何匹か見た。
いつもはあんまり気にせず風景の一部として見たり、適当に飼い猫なんだろうと思いながら見てたけど、よくよく考えてみたら飼い猫をここまで放し飼いにしてる人ってあまりいないはずだ。
ということは、ああいう猫もすべて野良だったんだろう。
それならそれでこの子も野良だとほぼ断定づけられる。
飼うかどうかなんてまだ全然決めてないけど、僕はその事実を知って少しだけ安堵するのだった。
この子は一時的に保護という名目で傍に置いてあげよう。
そう思いながら、抱きかかえていた猫を見つめていると、「にゃあ」と甘えた声で鳴かれた。
〇
その後は、午後の時間を使い、動物病院に向かった。
野良猫を拾えば、まずは予防接種だったり、諸々のことをしてあげなきゃならない。
ノミやダニの薬ももらったりして、合計一万円ほどが見事に吹っ飛んでいった。
死ぬほど困窮してないとはいえ、月末近くだ。バイト代もそろそろということで、いつもよりお金がないところでこの一万円パンチはそこそこ僕の懐に響いた。
まあでも、してあげないといけないことだ。仕方ない。
そう自分に言い聞かせ、やるべきことをある程度やった僕たちは、ようやく家に帰ることができた。
疲れから、すぐにふらふらと猫を抱きかかえたままベッドへ。
そういえば、この子の名前を決めておかないといけないな。
そんなことを考えるのだが、気付けば僕はまどろみの中にいた。
にゃあ、にゃあ、と猫は鳴く。
それがまたちょうどいい子守唄みたいになって、相変わらず寄せてくる暖かい体の気持ちよさも相まって、僕は完全に眠りに落ちてしまった。