あの時……
「あの時さ、ほら、覚えてる?」
「あ〜、あの時ね。もちろん覚えてるけど」
「君が、アレくれただろ」
「あげたね」
「あの後、私、道に迷っちゃって」
「え、そうだったん? 割と家から近所だったと思うけど……」
「いや、そんなことないでしょ。しかもほら、もうだいぶ暗くなってたし」
「? うん」
「それで歩き回ってるうちになんとか家に帰れたんだけど」
「俺があげたやつは失くした、と?」
「……うん。ごめん。しかもどこ歩いたか覚えてなくて探せなくて……」
「いいよ別に安もんだったし」
「え? 何言ってんの、凄い高かったって自分で言ってたじゃん」
「え、なんの話?」
「そっちこそなんの話?」
「俺は小学生の時の祭りの景品のキーホルダーのことかと思ってたんだけど」
「違うよ、一昨日くれたじゃん。私が好きだって言ったバンドの特典付きCDの話だよ!」
「はあ?! お前あれ無くしたの?! フッざけんな! 12000円したんだぞ?! しかも確かあれメンバーの直筆サイン入なんだぞ?!」
「だから謝ってんじゃん!」
「いやお前謝ったからって」
「キーホルダーはまだ持ってるけど」
「……とりあえず交番行こうぜ」
「なんで顔赤くしてんの」
「うっせぇ」