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81.Aランク冒険者として

ブックマークならびに評価レビュー、誤字指摘いただきまして、ありがとうございます。

短いです。あとがきのようなものと併せて読んでいただければ幸いです。

 俺はある意味、ダンジョンの主と対峙した時よりも緊張していた。


「…エリル、話を聞いてほしい」


「なにユウト?」


 エリルが台所から手を拭きながら出てくる。


「エリル、俺と結婚してくれないか?」


「……」


「今まで、エリルが俺達の帰ってくる場所だった」


「……」


「ツラいときエリルの事を思えば踏ん張れた。だから…」


「ユウト…冒険者を辞められる?」


「ッ…多分、辞められない」


「どうして?」


「冒険者を続けることがエリルを守る事になる。多分」


「理由は教えてくれないの?」


「すまん」


「正直だね。辞められない理由があるんだね?」


 俺は頷く。


「仕方が無いね…」


 やっぱり冒険者と添い遂げる事は出来ないのか…


「良いよ結婚してあげる」


「本当か!」


「うん。その代わり絶対に帰って来てね」


「ああ」


 その日クランハウスはお祭り騒ぎになり、俺とエリルは夫婦になった。


・・・・・・・・・・


 その後、何回かダンジョンに潜ったが魔物が徐々に復活していた。あの日、ダンジョンに降り注いだ声。


【我は人の願望を見つめる目】

【我は人に破滅を囁く口】

【我は人の嘆きを聞き取る耳】

【我は人に誘惑を振りまく腕】

【我は人の腐敗を嗅ぎとる鼻】


 やはり、ダンジョンは人の望みを吸い上げているのかもしれない。それが真実なら、人が人である以上ダンジョンには力が蓄えられ続けるのかもしれない。

 だが、今は魔物は活発には活動していない。それに最下層にも行ったが階層主は現れなかった。このまま、ダンジョンの魔物を狩り続ければダンジョンの氾濫は起きないかもしれない。


 俺はダンジョンを攻略する冒険者を育成するためにクランを更に拡大していった。


「なあ、バルト。スラムの子供達をクランで引き取ろうと思うんだが」


「良いのか?」


「掃除に洗濯、クランハウスの周囲の草むしり、それからなんでも屋とか。雑用はいくらでも要るからな」


「でも、スラム出だぞ」


「給料は無理でも腹いっぱい食えて、働けば清潔な服も支給できる。大きくなって冒険者に成りたい様なら支援もできる」


「あの日の事を覚えててくれたんだな」


「ああ」


「ありがとう」


・・・・・・・・・・


 良い事ばかりではなかった。錬金術師ギルドから至急と呼び出される。


「こちらです…」


 案内された部屋にはヒルデガード婆さんが眠っていた。


「ユウトが来たのかい…」


「ああ、婆さん」


「悪いが2人にしてくれないかい…」


 婆さんの看病している職員が退室する。


「Aランク冒険者はどうだい?危ないことしてないかい…」


「忙しく飛び回ってるよ。危ない事はしてないよ」


「…何から話したものかね…ユウトには謝らないといけない事があるよ…」


 俺は黙って聞いていた。


「トマーゾやアルフレドと結託してね…ユウトが冒険者として大成しないようにしてた…」


「え…」


「冒険者ギルドに圧力をかけたりね…」


「なんで…」


「危険から遠ざけたかったのさ…でもユウトは立ち向かっていった…」


「…」


「最初は興味からだった…でも息子のように思えてきてね…」


「…」


「すまなかったね…」


「良いんだ。婆さんには沢山助けてもらった」


「少しでも守りたかったのさ…トマーゾ達を恨まないでやっておくれ…」


「ああ」


「お別れの…よう…だ…」


 婆さんの呼吸が浅くなる。そしてゆっくりと目を閉じた…


「今、亡くなったよ」


 俺は部屋を出て、控えていた職員に声をかけた。


「ごめんな、無茶ばかりして…」


 錬金術師ギルドの建物から出ると振り返って言った。


・・・・・・・・・・


 それからも頻度は落ちたがダンジョンには潜っている。相変わらず、最下層の階層主は現れない。


 クランも大きくなった。来るもの拒まず、去る者追わずのクランになっていた。『光の止まり木』出身でCランク、Bランクの冒険者になるものも増えてきた。このままダンジョンの間引きをすれば、氾濫は起きないだろう。


 俺達も31,30歳になり体の衰えを自覚するようになった。


「バルト、冒険者を引退するか?」


「…」


「バルトが引退するなら、僕も引退するよ」


 魔術師としてはまだ戦えるだろうにギルベルトも引退する気のようだ。


「ギルベルトが辞めるなら私も」


 ギルベルトと結婚したユリアも同じ気持ちらしい。


「ダンジョン攻略者は辞める。だが、冒険者は辞めないぞ」


「バルト?」


「俺はまだ英雄になってないからな」


「Aランク冒険者なのにかい?」


「俺自身が英雄だとは思っていない」


「輸送依頼くらいは続けられそうですね」


「そうか、そうだな」


 俺達は輸送依頼だけを受けて、かろうじて冒険者を続けていた。


 それでも限界は来る。


「バルトのヤツ…先に逝きやがって…」


 俺は死の床に居た。


 枕元にはエリルとギルベルトとユリア、そしてもう1人いる。


 バルトは教官をやっているときに駆け出しを庇って不覚を取った、2年前の事だ。


「エリル…ごめんな。今度は帰ってこれなさそうだ…」


「大丈夫だよユウト、今度は私のほうから行くから…」


「…ゆっくりで良いからな」


 俺は視線をギルベルトに向ける。


「ギルベルト…」


「うん…」


「クランを頼む…」


「分かったよユウト」


「父さん…」


「アンナか…」


 俺とエリルの娘だ。女だてらに冒険者になってしまった。


「ギルベルトの言う事を聞くんだぞ…」


「うん」


「…母さんの事を頼む…」


「うん」


 終わりがやってくる。楽しかったこと、ツラかった事、無我夢中で走り抜けた気がする。バルトはまだ英雄になってないと言った。俺はどうだっただろうか?やっぱり英雄にはなってない気がする。柄じゃない…俺はゆっくり意識を手放した…

読んでいただきまして、ありがとうございました。

引き続き読んでいただければ幸いです。


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読んでいただければ幸いです。

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