78.ダンジョンで薬草採取
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ダンジョン攻略と平行して俺達はクラン経営の改善にも取り組んでいた。技術的な指導者だったグスタフ師匠の抜けた穴は大きかったのだ。
そこで、冒険者ギルドで死にぞこないと蔑まれる、パーティが壊滅したCランク以上の冒険者をクランに誘った。教官役を探していたのだ。
Cランク以上の冒険者ともなると、それまで相応に稼いでいた。Dランク以下の冒険者のように、腹いっぱい食べられて住む場所の心配が無いだけじゃ満足しない。
相応に給料を出すが、不満があれば自分でパーティを探して何時クランを抜けても良いようにした。正しく、次のパーティを探すまでの『止まり木』だ。
中には冒険者としての復帰を諦めて教官として定着してくれる人や、クランで育ったDランク冒険者とパーティを組む人も居た。
そうやってクランを拡大と教練を繰り返していたら、『光の止まり木』でDランク冒険者になったパーティからもダンジョンに挑むようになったパーティが出るようになった。
特にクランとしての方針を強制した訳じゃないが、俺達がダンジョンに挑む姿を見て感化されたのだろうか。
俺達が口を酸っぱくして安全を確保する事と、装備を充実させることを言い含めているので死ぬような者は居ないが、自分たちが育てた冒険者が怪我をして帰ってくるんじゃないかとハラハラする。
『明けの星』のアランさん達もこんな気分で俺達を見ていたんだろうか。
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一方で俺達のダンジョン下層攻略も着々と進んではいた。進んではいたが嫉妬も受けていた。Bランク冒険者からでは無い。彼等のほとんどは、あのダンジョン氾濫を生き残ったつわもの達だ。ダンジョン攻略の意味を深く理解しているから無用な嫉妬を向けてくることも無い。
だが、Cランク冒険者はダンジョン氾濫後に昇格した者も多い。彼等からの嫉妬が凄い。
ダンジョン攻略者達は何度もダンジョンに潜り、お宝のドロップに期待して装備を整えていく。当然、装備が整うのに時間と命を賭けている。大手クランに所属していれば引退した先輩冒険者から装備を譲ってもらったりするが。それでも代々積み重ねた時間が強さだ。
まあ、納得できる部分もある。俺達は確かに薬草採取から金を稼いで、より金を稼げる方法を模索して、金で装備を整えている。だが、その装備には錬金術師ギルドや鍛冶師ギルドと協力して新しい素材の装備を作ってきた。だから金がかかるのだ。単純に金にあかせた高価な装備で力押しでダンジョンを攻略している訳じゃない。
軽鉄の装備の普及は今一つだし、白鉄に至っては、ほぼ俺達専用だ。もっと人の成す力を信じても良いんじゃないかと俺なんかは思うがね。
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俺達は現在ダンジョン中層の階層主と交戦中、相手はリッチ。資料には死者を操り多数の魔法を行使するというが…
『カウンターマジック!』
だしぬけにリッチが雷精の魔法『サンダーエレメント』を発動させようとするが、ギルベルトが『アンチマジック』を改良して作った『カウンターマジック』が炸裂する。
ギルベルトが言うには『アンチマジック』の様に相手術者の魔法の行使を阻害するが、術者が体内で練り上げている魔力を暴走させて、暴発させるという。
『まだまだだよ、魔法として確立したものは研究済みだから爆散させられるけど、ブレスや飛行なんかの魔法現象はよく解析しないと阻害が精々だね』
ギルベルトは一体いくつの魔法を修めているのだろう。相手の魔法が完成するまでに割り込むには相当の習熟が必要だろうに。
リッチの骨で出来た体が半分以上吹き飛び、纏っていたローブもボロボロにちぎれ飛んでいる。
「俺が押さえる。ユウト続け」
「おう」
大勢は決した。いきなりの大魔法を暴発させられたリッチにバルトが大盾で突撃し、俺が魔力槍を叩き込む。
「おっしゃ中層クリア。次に行くぞ」
「待ってバルト、宝箱が出たよ」
「おう、クランのメンバーが使えるものが出れば良いが」
バルトが手際よく罠を無効化して開錠している。
「片手剣かぁ」
「まあ、冒険者ギルドで鑑定してもらうまで、分からないし」
「そうだな。ユウト、マジックバッグに頼む」
「ホイ了解」
俺達は下層へと歩みを進める。相変わらず空を飛ぶ強敵が多い。ギルベルトが白鉄の矢で墜落させていく。おれも『ウインドカッター』で援護するが魔法に対する抵抗力の高い魔物も多く。増幅しまくった『ウインドカッター』でもなかなか深手は与えられない。魔法よりも白鉄の矢の方がよっぽど有効だ。
墜落させた上で、格闘戦に持ち込むが魔法の使用が激しい。進めば進むほど休息の頻度も上がる。
「何か、魔力回復の手段が無い物かな…」
下層から帰還する俺達が中層の森のエリアを通過していた時だった。ふと足元を見て。
「ダンジョンの中に薬草って生えてないかな…」
「またユウトの悪い病気が出た」
「まあ、何でも良いから摘んでいってみようぜ、幸いまだ物資に少し余裕はある」
物資に余裕がある間、ダンジョンで野営して草を採取して持ち帰った結果、採取した草はダンジョンを出てしばらくすると塵となって崩れてしまった。
「うーん」
「考え込んでるねユウト」
「ダンジョンで採取した草がしばらくしてから塵になっただろう」
「そうだね」
「でもダンジョンの外でも魔物は生きてる」
「たしかにね」
「何が違うんだ…」
「…なんだろう」
地上の魔物、ゴブリンもだが魔熊なんかは野の獣を獲物にしたり人間を捕食していた。ダンジョンの魔物は…
「なあ、バルト。ダンジョンの魔物は糞をしているか?」
「そう言えば無いな。斥候としては魔物を探す手掛かりなんだが」
「ねえ、もしかしてダンジョンの魔物は物をたべないの?」
「ギルベルトもそう思うか」
「地上に出た魔物は、地上の物を食べる。だから地上でも生きられるのかも」
「可能性はあるな。ダンジョンで採取した草を地上から持ち込んだ水に活けて持ち帰ってみるか」
次のダンジョン攻略は下層では無く、中層での調査になった。
「とにかく色んな種類の植物を採取してくれ。もちろん魔物には注意してな」
懐かしいフォーメーションだ。1人が警戒に立って、みんなで草を採取する。
「採取したらこの水に活けてくれ」
コップに活けた草をギルベルトのマジックバッグと俺のマジックバッグに分けて持ち帰る。
「ユウトのマジックバッグじゃ時間停止しているから地上に出したら塵になっちゃうかもしれないよ」
ギルベルトのアイデアだ。結果としてはどちらの草も前回と違ってダンジョンから持ち出しても塵にはならなかった。
ダンジョンから帰還した俺達は別行動をとる。
「じゃあ、すまないが冒険者ギルドへの報告は頼む」
俺はダンジョンで手に入れた魔石や魔法剣をバルト達に渡す。
「冒険者ギルドでの査定よりも、薬草の研究が気になるなんてユウトもいよいよ錬金術師だね」
「止してくれ、俺はあんな研究狂いじゃない」
「そう言うヤツに限って自分の事は分かってないんだぞ」
「自覚は無かったんですね」
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急いでクランハウスに帰ると薬草の保管庫に飛び込んで、ゆっくりと地上の薬草と見比べる。確かに葉の形や付き方が似ている物が見つかる。
調べてみたいが、採取した草は少量ずつだ。餅は餅屋、俺は錬金術師ギルドに持ち込む。
「ヒルデガード婆さん、調べてもらいたいものがある」
「今度は何だい?」
コップに活けた草を差し出す。
「これは何処で採取したものだい!」
婆さんは一発で地上の物ではないと看破したようだ。
「ダンジョンの中の森で採取した。薬草と似ている物があると思わないか?」
「そうだね、よく似ている。成分抽出してみよう」
婆さんと地上の薬草とダンジョンの似た草の葉を少量むしって成分を抽出する。よく似た色の粉末が出来る。
「さっそく違いを見てみるかい?」
婆さんは以前、教えた顕微鏡そのものを机の上に据える。
「作ったのかよ」
「当り前さ。こんな面白いもの作らない訳が無いだろう。おかげで研究が捗って仕方が無いよ」
婆さんと二人で地上の薬草と、ダンジョンで採取したものを詳細に見比べていく。
「…これは、ブマキア草とほとんど一緒だ…」
「やっぱりかい。葉や花の形状だけじゃない、よく似ているよ」
「ポーションを作ってみないか?」
「やってみよう」
婆さんがダンジョン産ブマキア草の抽出した粉末を煮たてて魔力を注ぐ。上級ヒールポーションでも見ない濃い青色の液体が出来上がる。
画像検索してみると
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■■ヒールポーション
傷を大幅に癒す
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「名前は例によって分からないがヒールポーションが出来た様だ。しかもかなりの効果があるようだ」
「試してみるかい」
婆さんが実験動物のウサギを持ってきて腹を裂くと、すかさず傷に出来たばかりのポーションをぶっかける。
どう見ても致命傷だった傷が、肉がみるみる盛り上がって傷があったことも分からなくなる。
「上級ヒールポーション以上の効果かもしれないね。今から全部分析して試すよ!」
徹夜であらゆる薬草を作っては試す。
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婆さんの研究室の机に2人して突っ伏している。まさか婆さんと朝チュンを向かえるとは思わなかった。
「魔法陣の最適化がまだだが、一通り上級以上のポーションが作れたねぇ」
「ああ、特に低級マナポーションの上が作れたのは大成果だな…」
「そうだねぇ」
「なあ、婆さん…」
寝不足の頭で絞り出した推測を口にする
「…同じゴブリンでも地上のヤツより、ダンジョンの中のヤツの方が強いんだが、ダンジョンでポーションを作ったらどうなると思う?」
「…地上で作るよりも効果が高そうだねぇ」
「…思うに魔物が地上に出た時に、体に付着した種から地上で定着したのが薬草なんじゃないか?」
「……そうかもしれないねぇ…」
「「………」」
「「Zzz」」
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