75.Bランク昇格
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「ユリアは『鼓舞の奇跡』『守護の奇跡』俺に『剛腕の奇跡』
ギルベルトは雑魚を殲滅、手段は任せる。
ユウトは俺と階層主に当たるぞ」
「「「了解」」」
俺達は中層階層主と戦っていた。相手はヒドラだ。しかも従者にラミアが3匹、蛇尽くしだ。
強力なヒドラは強力な魔物だ。だが、今まで倒された記録もあるし、冒険者ギルドに対処法も記録されていた。首を落としても再生するが、傷口を焼けば再生しない。火炎槍を使う俺とは相性が良い。毒のブレスも吐くが中級解毒ポーションで対応できる。
バルトが『剛腕の奇跡』で強化された膂力で大盾を構えてヒドラの噛みつきをがっちりと受け止める。流石に人間の胴体よりも太い蛇体との激突だ、バルトが歯を食いしばって動きを止める。
そこに俺はすかさず『火炎属性付与』して白熱した長剣ほどもある穂先で首を切り飛ばせば、首の再生もできずに痛みにもがく。なるほど、傷口を焼き切れば返り血を浴びることも無い。他の首が俺を狙ってくるが、ちゃんと見えてるぞ。機敏に身を翻してバルトの後に戻る。
ギルベルトも燃える矢でラミアの群れを火達磨にしている。やはり、魔法抵抗力の高い魔物と言えど純粋に物理現象の燃える水には抵抗がしにくいようだ。燃えながら這い出そうとするところをユリアがメイスで殴り飛ばして押し戻す。
バルトがヒドラの毒のブレスを浴びるが、すかさず中級解毒ポーションで無効化する。
「大丈夫、ブレスは魔法現象だ。軽鉄で無効化できるよ!」
ブレスを見て魔法の構成を看破したギルベルトがバルトに叫ぶ。今度は毒のブレスが直撃しないように大盾で霧散させると、バルトはそのまま突進して頭を押さえつける。
俺がすかさず槍で切り飛ばす。
再生も毒のブレスも封じた。ラミアは炭化しているし、ヒドラはなすすべがない。側面に回り込んだギルベルトが『アイシクルランス』を巨体に撃ち込んで足回りを氷漬けにしてますます動きが鈍る。
バルトのとのコンビネーションで全ての首を切り飛ばすのと、ギルベルトが『アイシクルプリズン』で本体を串刺しにするのは同時だった。
「勝ったー!」
バルトが勝鬨を上げる。
「やったな!バルト」
「おう、Bランク昇格だ」
「魔石と何だろう?これ」
ギルベルトが深い碧の鉱石を抱えて来る。
「初めて見ますね」
「まあ、冒険者ギルドで鑑定してもらえば分るだろう」
・・・・・・・・・・
カラドの街の冒険者ギルドに帰還した俺達だが、ベルトラムギルド長の部屋に通されていた。
「まずは、Bランク昇格おめでとう、仮のCランクだったお前達がここまでになるとはな…」
「ありがとうございます。でもBランク昇格だけなら受付でも良かったんでは?」
「本命は、この鉱石だ」
ギルド長が蒼い鉱石をつつく。
「滅多な相手には言うなよ。これはなアダマンタイトだ」
「…アダマンタイトって何ですか?」
「まあ、言っても分からないのも無理はない。なにしろ初めて見つかった鉱石だからな。俺にもさっぱりだ。だが、貴重なものには間違いないだろう」
「ミスリルよりもですか?」
「ミスリルも高価だが、これまでに何回か見つかっているし、性質も分っている。だがコイツは全くの不明だ」
画像検索してみても、名前がアダマンタイトと表示されるだけ。その他の情報はさっぱりだ。
俺達はどうやら希少なものを手に入れてしまったらしい。だが、鉱石なら専門家がいる。錬金術師ギルドだ。
「ヒルデガード婆さん!コイツを解析してくれ」
「藪から棒になんだいユウト」
「ダンジョンで中層階層主を倒したら入手した。初めての物らしくて性質が何も分らん」
「分かったよユウト、金属ならあたしらが一番知ってる。任せな」
俺はひとまず、ヒルデガード婆さんに預ける事にした。
・・・・・・・・・
「Bランク昇格、おめでとう」
「お前等も遂に俺達に追いついたな」
クランハウスにやって来たアランさんとジェフリーさんに背中をバンバンと叩かれ、手荒な祝福を受ける。
「師匠として俺も鼻が高いぜ」
グスタフ師匠も自慢げだ。
3倍ほどにも増えたクランメンバーも口々に祝福してくれる。
「はいはい、そこまで!御馳走だよー!」
エリルを先頭に厨房担当達が御馳走を中庭に運び込んでくる。この日は冒険者のランクも関係なく。食べて飲んで歌って大騒ぎだ。騒ぎを聞いて見に来た市壁の門の衛士にも御馳走が振舞われる。
そんな騒ぎの中、おれは師匠に喧騒から離れた所に連れ出される。
「ユウトには言っておかなきゃと思ってな」
「なんです?師匠」
「俺はクランを抜けようと思う」
「…最後まで見届ける約束は」
「そう言うねぇ、俺を仲間に入れたいって声をかけてくれるパーティがいてな」
「それじゃ冒険者は続けるんですね」
「ああ、俺も28だ。年齢的にゃぁ最後のチャンスだろうよ」
「分かりました…クランリーダーとしてグスタフの脱退を認めます…」
最後の方は鼻声だったかもしれない。
「鍛錬は続けろよ」
「はい」
「死ぬんじゃねぇぞ」
「当たり前です」
「それじゃな」
「はい…」
師匠は蒼い槍を担いでそっと姿を消した。
宴会に戻るとバルト達が待っていた。
「済んだのか」
「ああ」
「ちゃんと別れは言えた?」
「ああ」
「約束は守れましたか?」
「ああ」
俺はグスタフ師匠の冒険者としての第二の人生を祈った。
・・・・・・・・・・
グスタフ師匠が去って行った俺達のクラン『光の止まり木』だが、Dランクに昇格した冒険者が中心になって後輩を指導することで、それなりに上手く回っている。まあ、俺が要所要所では口は出すが、真面目に依頼に取り組んでくれているようで安泰だ。
俺達は安心してダンジョン攻略に挑む事が出来た。出来たが、流石にダンジョン下層ともなると冒険者ギルドにも資料が少ない。数えるくらいしかBランク冒険者がいないのだ。情報が少ないのも当たり前だ。
結果、トライアンドエラーが多くなる。
「ワイバーンだ!地上に引きずり落せ!」
「バルト!しっぽの毒に注意だよ!」
正体が判明している相手でも、空を飛ぶ相手は難敵だ。なにしろまともに相手をしてもらえない。攻撃手段もギルベルトの魔法と弓に限られてくる。
俺達はゆっくり攻略を進めているが、中層までとは明らかに進行速度が鈍っていた。
カラドの街に帰還した俺達は作戦会議をする。
「空を飛ぶ相手が課題だな」
「ワイバーン、グリフォン…下層にはいっぱいいますね」
「なんとか地上に釘付けに出来ればなんだけどね」
「ギルベルトに頼みがあるんだが」
「何だいユウト」
「空飛ぶ魔物が出た時、その飛行に魔法が使われていないか見て欲しいんだ」
「魔法?翼で飛んでるんじゃないの?」
「いや、体の大きさに対して翼が小さすぎるように思う」
俺は錬金術師ギルドで調べた鳥の剥製のスケッチを見せたり骨格標本を調べて得た感想を説明していく。
「鳥の種類にも依るんだがな、概ね体長よりも翼を広げた長さの方が長い。それに鳥の骨は飛ぶために華奢で脆い。それこそ殴ったら粉々になりそうだ」
「でも、魔物の翼はあまり大きくありませんし、体も逞しくて強靭ですよね」
「そうだユリア、魔物は鳥のように飛んでいるんじゃなくて魔力、魔法で飛んでいるんじゃないかと思う」
「それで、飛んでいる魔物を観察するんだね」
「そうだ」
「魔法で飛んでるとして対抗できるのか?」
「おそらく、軽鉄の矢なら有効だと思う」
「矢なら翼の起こす風で防がれただろ」
「普通の矢ならな。だが、軽鉄は魔法を受け付けない」
「翼が起こす風も魔法現象だと思っているんだね」
「そういう事だ。それに矢が刺さって運が良ければ飛べなくなるかもしれない」
「やってみる価値は有りそうだな」
俺達は何度目かのダンジョン下層への挑戦を開始する。
・・・・・・・・・・
遭遇したのは初めての魔物。老人の顔にライオンの胴体にサソリの尾、そしてコウモリの羽。
「ユリア『鼓舞の奇跡』『守護の奇跡』俺に『剛腕の奇跡』だ。
ギルベルトは見る事に専念。
ユウトは俺と前衛だ」
「「「了解」」」
名前も分からない魔物は空を飛び、鋭い爪で襲ってくる。バルトがカバーしてみんなを守るが、苦戦しているのはいつもの事だ。
「分かったよ!飛行は魔法現象だ」
そう言うと、ギルベルトは用意していた軽鉄の矢を素早く番えると羽を貫いていく。
「オオォォ」
魔物の老人の口から苦悶の声が漏れ、地上に墜落する。
「当たりだぜ!」
バルトが大盾を構えて突進する。俺も素早く追走する。
魔物はサソリの尾を振りかざして攻撃しようとするが、そんな大振りな攻撃を喰らうバルトでは無い。大盾で弾くと本体に体ごとぶつかって動きを止める。
「ユウト!行け!」
「おう!」
ここぞとばかりに槍に魔力を込めると、白熱化した魔力の穂先を撃ち込む。
「ウオォォォン」
胴体を半ばまで貫いた槍を引き抜く。
「避けて!『アイシクルプリズン』」
ギルベルトが『アイシクルプリズン』でずたずたに貫く。
魔物が塵となって消えていく。
「これで空の相手とも戦えるな」
「ああ、正解だったな」
「もっと軽鉄の矢を準備しなくちゃだね」
「魔石と矢を拾ってきました」
まだ余裕はあったが、俺達は一旦帰還することにした。冒険者ギルドに情報を持ち帰るのも課せられた役割だった。
魔石から得られた魔物の名前はマンティコア。またダンジョンの未知が明かされた。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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