73.馬無し馬車を作ろう
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作者は馬車や車に詳しくありません。矛盾などありましてもご容赦ください。
錬金術師ギルドのヒルデガード婆さんから、軽鉄の布が完成したと連絡を受けたので、俺は実力でCランクになったの報告も兼ねて訪ねていた。
「そうかい。ダンジョン上層を攻略したかい。危ない事はしてないだろうね?」
「大丈夫さ、堅実にやってるよ」
「それなら良いが、ほれ、これが軽鉄で出来た布地だよ」
試させてもらうが、全く魔法陣の付与が乗らない。軽鉄の小片で試した性質は健在だった。
「軽鉄の糸を編み込んだ冒険者向けの衣服が出来るのが楽しみだ」
「あたしが言う事じゃないが、お前さんたち随分装備に金をかけるねぇ。こんな新製品高いだろうに」
「それこそ死なないためにさ。大丈夫、ちゃんと儲けは出てるから」
「普通の冒険者じゃ、そうはいかないだろうにねぇ」
「ところで、婆さん。ダンジョン攻略中にストーンゴーレムに出会ったんだが」
「うん?それがどうしたね」
「ゴーレムって俺達でも作り出せるのか?」
「まあ、出来るがダンジョンで出るようなのは無理だね」
婆さんは棚からなにやら魔道具を運んでくる。
「これは蓄音の魔道具の廉価版だよ。この記録筒に音を刻み込んで回転させることで音を出す」
蝋を塗った筒にラッパのような拡声器。古い形のレコードだなこれ。
「録音筒を回転させたり、位置を移動させているのが魔石で動いているゴーレムだよ。まあ、精密な動作には向いてるが大きな力は出せないね」
「そうなのか、俺達の代わりに戦ってくれる戦力になればと思ったんだが」
「そいつは、難しいね」
「ゴーレムの作り方を教えてもらえるか?単純な動きが出来るだけでも良い」
「いいよ。こんな魔法陣さ」
俺はヒルデガード婆さんから、簡単なゴーレム作成の魔法陣を習うとあるものを作り始めた。
・・・・・・・・・・
「じゃーん。これが馬の要らない。馬車だ」
「なんとまあ、けったいな物を作ったね」
ヒルデガード婆さんの研究室の机には、俺が作った小さな馬車の模型がある。模型なので当然、簡単な構造の物だ。俺はスイッチを入れて魔石から魔力を供給させると、ただ回るだけの単純なゴーレムで車輪を回して、馬車の模型を動かした。
すいーっ、と軽快な動きで走り出す。
「なかなか面白いじゃないか。どれ?」
婆さんが文鎮を馬車に乗せてみると、馬車は重みでピクリとも動かなくなる。
「やっぱり力は出ないね」
「そうなんだ。このままじゃ実用にはならない」
「しかし馬の要らない馬車なんて、なんでまた考えたんだい」
「移動に馬を酷使しててね。ユリアの『賦活の奇跡』を使ったりするんだが、馬も苦しそうだし。ユリアが『賦活の奇跡』を馬に使うのを嫌がってね。やっぱり本来の目的じゃない事に奇跡を使うのに抵抗があるんだろう」
「なろうほどねぇ、聖職者はその辺お堅いからね。頷ける理由だね」
「ゴーレムをもっと高速で回転させられれば、大きな力も出せるんだけどな」
俺は小さな力を大きな力に変換する方法をしっている。そう!
「歯車を使おうって訳だね」
「歯車あるんだ…婆さん」
「当たり前だろ。この世界の技術者を舐めるんじゃないよ。粉ひき小屋を見たことは無いのかい?」
そういえば、村を回った時に見せてもらった事がある。
「そのためにはゴーレムを超高速回転させる必要がある訳だね」
「まあ、そう言う事」
「分かったよ。鍛冶師ギルドと共同でやってみようじゃないかい」
婆さんが研究者の目になっている。こうなれば、8割方出来たも同然だ。
・・・・・・・・・・
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
馬車を走らせるだけなら簡単だった。後輪は一本の車軸に左右両輪が付いてるタイプだ。一周回って元の形に戻って来たな。その車軸に超高速回転する歯車型のゴーレムが複数の歯車を介して動力を伝える。
だが、問題は方向を変える手段だった。馬が引く馬車なら馬を操作して曲がりたい方向に進ませれば良い。だが、この馬車には馬が居ない。車輪の向きを変える構造が必要だった。
「困った…」
俺だってステアリングの構造なんて知らない。昔作ったラジコンの構造を思い出して車輪の向きを変える仕組みを絵に描き出すが、肝心のハンドルから車輪に動きを伝える機構が分からない。
鍛冶職人も知恵を絞っているがなかなか良いアイデアは出なかった。
「こうなったら前輪を1つにするか!」
自転車のハンドルを絵にかいて再現してもらったものを、そのままつけてサスペンションを装備して路面の揺れがハンドルに伝わらないようにしてみた。
ほとんど、三輪自転車?オート三輪?見たいなものが出来た。
鍛冶師ギルドのテストの御者が動かしていく。
「思ったより、上手く動くな」
「そうだねぇ」
だが、馬車を止めようとしたときに問題が発生した。ゴーレムを停止させても勢いの乗った馬車は止まらないのだ。文字通り、車は急に止まれない。
当たり前だ。馬が引く馬車ならゆっくり減速して、その動きがつながっている棒に伝わって馬車を止めるのだ。西部劇でブレーキを見たような気もするが、この世界では無かった。
「ブレーキが必要だな」
「ブレーキかい?」
「馬車を止める装置だ」
俺が例によって自転車のブレーキの構造を描き出して、車輪を挟んで回転を止める方法を模索するが上手くいかない。
車輪がサスペンションで動くのでブレーキに動力を伝えるのが難しいのだ。ブレーキワイヤーなんて無いし、自動車のブレーキ機構なんてもっと知らない。
「車軸の回転を止めりゃあ良いんだろ」
鍛冶師ギルドのアルフレド爺さんが言う。
「それだ!」
ゴーレムを逆回転させてブレーキをかける方法を試すが、歯車が弾け飛んでしまった。
「うーん、もっと緩やかにブレーキをかける方法は…」
「車軸に革帯を巻きつけて走る時は緩めて、ブレーキをかけたい時は締めあげてみたらどうだ?」
再びアルフレド爺さんのアイデアだ。もう、何でも試してみようの精神だ。
とりあえずで御者席にレバーが取り付けられ、金属のロッドで動きが伝わる。レバーを引くと革帯が締まって車軸に摩擦をかける。
「なんとか…いけそうか?」
何回か試して止まれることを確認するが、後で分解してみると案の定ブレーキレバーとロッドがひん曲がっているし。革帯もかなりすり減っていて切れそうだ。
「やっつけで付けたブレーキレバーやロッドは軽鉄製にするとして、革帯だなぁ」
「魔物の革にしちゃどうだい?ただの革より随分丈夫だろ?」
「それでやってみるか」
それにしても、フットワークの軽いギルド長連中や職人たちとワイワイ試行錯誤をするのは楽しい。完成が楽しみだ。
1ヶ月もすると出来上がった馬無し馬車の第一号が納品される。例によって職人たちの目が寝不足だが爛爛と輝いている。
俺達は新たな馬車で意気揚々と依頼に走り出した。
御者席は1人乗り、自転車のハンドルがついていて両脇にレバーがついている。
右は魔石ゴーレムのスイッチで段階的に出力を切り替えられる。試作品で試して分かった事だが。徐々に回転数を上げないと走り出しがスムーズにいかない。この辺りは操作に慣れが必要だろう。
左はブレーキレバーだ。なおブレーキをにかける力は単純に人力なので、スピードを出した状態で急ブレーキをかけようとすると相当な力が必要となる。バルトは単純な膂力で間に合うが、俺なんか身体強化してやっと止まれるくらいだ。
道行く人たちがギョッとした目で俺達の馬車を見るが、馬が居ないのだから、それも当然だろう。気をよくして飛ばしていたが、街道でカーブを切ろうとして危うく転倒しそうになった。
「3輪だと安定性に難があるか…」
「ユウト…冷静だね」
「転倒しなくて良かったじゃないか。また改造してもらおう」
「…そうだね」
ギルベルトが呆れ気味につぶやく。俺も随分錬金術師の気風に染まったものだ。
鍛冶師ギルドにレポートを書いたら、さっそく第二号車が納品される。
安定が悪いなら車輪を増やせである。ハンドルの着いた操舵の前輪と後輪の間に、自由に向きを変える椅子のキャスター式の車輪が増設されている。三輪自動車ならぬ、五輪自動車だ。
若干、操作性は悪くなった気がするが、安定性は随分向上した。
それに、俺がアイデアだけ提供したステアリングの構造も鍛冶師ギルドで研究が着々と進めているようだ。そのうち、四輪の馬無し馬車が出来そうだな。
馬無し馬車はゴーレムの特製上、急加速が出来ないので走り出しに癖があるものの、最高速度は馬車より速い。そのうえ馬と違って魔石に溜めた魔力が切れない限り休みなしで走れる。うーん、カラドの街からダンジョンまでゲーランの街を経由せずに3日で着く。しかも荷台で3人が仮眠をとりながら交代で走りながらだけどな。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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新作、「お人好し大賢者と借金取り~大精霊に気に入られた俺は国を作る~」を投稿しました。
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