72.ダンジョン上層攻略
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クランを設立に動き出したといっても一朝一夕に完成する訳じゃない。その代り、俺達はダンジョンの攻略と輸送依頼を始めとした各種依頼、そして鍛錬に励んでいた。
「おら!また姿勢が崩れてるぜぇ!」
足元を棍で掬われてひっくり返されて地面に転がされる。もうずっとこの調子だ。
グスタフ師匠の叱咤が飛んでくる。ダンジョン氾濫時に俺達を助けてくれた、グスタフさんをただ居候させてる訳にはいかない。同じ槍使いだ、俺は師事して。グスタフ師匠に槍を教わっている。
手始めに師匠と槍の代わりに棍を使った模擬戦をやったが
「おめぇは身体強化を使いな。俺は素の力で相手してやる」
余裕綽々である。俺だって実戦でそれなりに戦っている。身体強化を使えばそれなりに戦えると思ったが。
「身体強化に頼って基本が全くなっちゃいねぇな。おめぇは基本からだ」
と言われて槍の基本の構え方、左肩を前に穂先をやや上向きにした型をとらされると、そのままの姿勢を何時間も維持するように言われる。
「足の注意がお留守だぞぉ!」
疲れですこしでも体に変な力がかかって姿勢を崩すと、また足を掬われて転がされる。
夕飯時になって、ようやく解放されたが。
「しばらく、型の練習を続けろよ」
なかなか簡単には上達しない様だった…
「次は基本の突きだ。体のひねりを軸足から腕の先まで螺旋を伝えるように意識しろ!」
難しいことを仰る。とは言え、初めて本格的に槍を習うんだ。素直に何千、何万回と同じ動作を繰り返す。
時間のある時は必ず師匠に付き合ってもらって基本の型を繰り返す。素人なりに上達したのだろう。
「ようやく、自然体で基本の型がとれるようになったな。次は本格的な模擬戦だ」
俺は牽制に足元を薙ぐが、それよりも早く容赦の無い突きが繰り出される。
「おめぇは牽制が多すぎる。一撃で相手を屠るつもりで突け!」
「お上品に戦おうとするな。綺麗な動きよりも早く!鋭く突け!」
とことん実戦的に鍛えられる。おれはここの所、ダンジョンに潜るよりも師匠にやられる方がボコボコである。
ようやく、棍を交える事が出来るようになったと思って下段を狙ったら足で棍の先を踏まれて突きを喰らった。
「はっ!みえみえの隙に食いついてるようじゃまだまだだ!」
ぐぬぬ
「おらおら、どんどん突いていくぞ。遅れずに撃ち払っていけよ」
鋭い突きを薙ぎ払って躱すが、どんどん回転が早くなって手が追いつかない。しまいには突きを入れられる。本当に上達しているんだろうか?
そんな鍛錬を3ヶ月もした頃だろうか、ようやく棍では無く。自前の槍で型をやって見せろと言われる。
「だいぶマシになったからな。実戦でどう戦うのが見せて見ろ」
俺は身体強化を使って槍を早く強く突く。刺突の瞬間『シャープネス』を発動させたり、『火炎属性付与』で穂先から火炎を吹かせたり、俺の戦い方を見せていく。
「身体強化に『シャープネス』は分かるが、火炎の使い方がいまいちだな。相手の体、奥深くを貫いた時くらいしか使ってないだろ」
「ええ、まあ」
「火炎にするんじゃなく、穂先を白熱化出来るか?突きや薙ぎ払いで相手を焼き切れ」
「でも、傷口を焼いては流血でのスリップダメージが狙えないんじゃないですか?」
「それも手だがなぁ、返り血を浴びて相手を見失うより相手を捕らえ続ける方が重要だぜぇ」
穂先を白熱化させ身体強化で槍を縦横無尽に振り回す。…魔力が足りない。
「そればっかりは、ダンジョンで魔力の要らない槍を拾えるのを祈るしかねぇなぁ」
「グスタフ師匠の槍はダンジョン産なんですか?」
「そうだ。コイツは投げても俺の手元に返ってくる。突いて良し、投げて良しの逸品だ」
師匠は蒼い槍を磨きながら言う。
「ユウトが俺を引退させてくれてたら譲ってやっても良かったんだがなぁ」
「俺は俺の槍で戦いますよ」
「ま、頑張れや」
しかし、魔力不足も課題だな…
俺は久しぶりに錬金術師ギルドを訪ねていた。
「魔力の節約ねぇ。『魔力増幅』の魔法陣でも試してみるかい?」
「頼む婆さん。教えてくれ」
教えてもらったものの、キングスタッグの角から作った穂先にこれ以上の付与は乗りそうにない。悩んだ末に俺が試したのはトレント製の柄に『魔力増幅』を付与する事だった。
「悪くないな。でももっと効率化出来ないか…」
確かに効果はあったがもう一つと言ったところだ。トレントの柄はまだ十分に付与に耐えられそうだった。
俺は突きの動きの螺旋で力を伝えるイメージで、『魔力増幅』も魔法陣を螺旋にびっしりと柄に螺旋状で刻み込んでいく。魔力も体から螺旋を描くように伝達できれば効果があるんじゃ無いか?苦肉の策だった。しかし微細な魔法陣を大量に刻み込んでいくので、魔力の込めすぎで1日ではとても完成しない。何日もかけて付与を完成させていく。
「できたぁ…」
ようやく完成した槍に魔力を込める。いつも通り魔力を込めたはずだが効果は段違いだった。
元の穂先の大きさを越えてが魔力の強い光が穂先を形成して高熱を発している、その熱で近くの可燃物が燃えそうだった。さっそくグスタフ師匠に見せてみると。
「ダンジョン産にも匹敵する威力が出せそうじゃねぇか。あとは、そいつを使いこなせよな」
・・・・・・・・・・
槍を完成させた後、初めてのダンジョン攻略で俺達は始めて上層階層主のフロアに到達した。
「ブモォオォォ!」
階層主はミノタウロス、冒険者ギルドの資料では怪力を活かした大きな戦斧が特徴の魔物だ。
「ユリア、鼓舞と守護。後俺に軽歩をくれ。
ギルベルトは『アイシクルランス』を準備。
ユウト、ぶつかるぞ!」
「「「了解」」」
ミノタウロスの戦斧がうなりを上げて振り下ろされる。力も強いが、動きも早いバルトが受け流そうとするがミノタウロスの膂力が強すぎて拮抗する形になるが、徐々に力負けしてバルトが膝をつく。
俺はその拮抗に無駄撃ち無しで全力の刺突を力も魔力も螺旋を意識して突き込む。
「ブオォォ!」
戦斧を持つ手に突き刺さった槍。その魔力で出来た穂先が丸太のような腕を切断して傷口をじくじくと焼く。
「みんな行くよ!『アイシクルランス』」
腕の痛みにのけぞるミノタウロスの胸板に巨大な氷の槍が突き立つ胸の周囲がパキパキと音を立てて凍り付いていく。凍り付く胸に目がけて俺が槍での追撃をかける。魔力の穂先が根元までミノタウロスの胸に突き立つと。
『火炎属性付与』
今まで見たことのない豪炎が穂先から吹き出し、一度ぐずぐずに凍り付いた肉を今度は蒸発させてミノタウロスの胸に大穴を開ける。炎は背中まで貫通してミノタウロスの胸を炭化させた。
「やったな。ユウト」
「おう!これで打撃力不足とは言わせないぜ」
「ユウトすごかったよ」
「『魔力増幅』のお陰だな。帰ったらギルベルトのワンドやユリアのメイスにも付与するぞ」
「たのむよユウト」
「魔石が出たようですよ」
「これで俺達も本当のCランク冒険者だ」
「ああ、胸を張って冒険者ギルドに報告できるな」
「おい、バルト宝箱も出てるぞ」
「おっ、任せろ」
さっそくバルトが罠が無いか確認している。
「罠は無いが、魔法で鍵がかけられてるな」
バルトは折角の開錠技術が披露できなくて少し残念そうだ。
「じゃあ、僕が開けるね『ピック』」
中から表れたのは片手剣。
「おい、片手剣だぞ」
「冒険者ギルドで鑑定してもらってから考えましょう」
「そうだぞ、見た目じゃ性能は分からないからな」
「まあ、そうだな…」
・・・・・・・・・・
「『光の翼』の皆さんダンジョン上層攻略おめでとうございます」
冒険者ギルドに帰還した俺達は受付のお姉さんに祝福を受けると、倒した魔物の魔石と共に魔法剣を鑑定してもらう。
「『スマッシュ』が付与された魔力が不要の魔法剣ですね。『インパクト』よりも強力な叩き潰しの付与ですよ」
剣なのに叩き潰しとは、これ如何に。
「俺にはこっちの方が向いているかもしれないな」
「鋭さで切るんじゃなくてか?」
「ああ、俺は技よりも重さで叩き切る方が向いてそうだ」
バルトは、その後ダンジョンで『スマッシュ』の魔法剣を使うようになったが、『明けの星』に譲ってもらった『シャープネス』の魔法剣を大事にとっている事を俺達は知っている。
エッガーさんを欠いた『明けの星』は今は低迷しているが、きっと復活するだろう。俺達が憧れる先輩がそんなに簡単に折れてしまう訳がない。折れて欲しくない、俺達みんなの共通の思いだった。
パーティハウスに帰るとエリルとグスタフ師匠が出迎えてくれる。
「ユウト、ちゃんと帰って来たよね。怪我してないよね」
エリルは相変わらず心配性だ。俺はエリルの頭をぐりぐり撫でながら。
「師匠、ダンジョン上層の階層主を倒しました」
「そうか、よくやったじゃねぇか」
言葉は少ないが、その目には優しい光があった。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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