63.輸送業の開始とダンジョン攻略に向けて
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「よう、お前等Cランクになったんだってな」
俺達が冒険者ギルドでCランクへの昇格を告げられたその日の夕方、商業ギルドのトマーゾギルド長が自らの足で俺達のパーティハウスにやって来た。
「思ったよりも早く昇格したな。お、なかなか良い家じゃないか。そう言う訳で、以前話した輸送業について相談するぞ。商業ギルドに付いて来い。なに、夕飯くらい奢ってやろう。と言う訳で『光の翼』は借りてくぞ、お嬢ちゃん」
トマーゾさんは一息に喋ると俺達を連れて行く。あのエリルですら話について行けない強引さだ。
ほとんど引きずられるように商業ギルドに連れ込まれていった。
「さて、商売の話をしようか。輸送業だったな」
「ご、強引ですねトマーゾさん」
「商人は商機に拙速を尊ぶからな」
「前はあんなに乗り気じゃなかったのに一体どうしたんですか?」
「お前等は行商人相手に実績を積んだ。今じゃ行商人から引く手あまたの護衛だ。それにCランク冒険者になったんだ。社会的な信用も問題なくなったんだ。真っ先に契約して美味しい関係になっておくのに躊躇いは無いな」
「…分かりました。それではトマーゾさんの商会の荷物を本支店間の輸送する依頼を受けられるんですね」
「そうだ。まずは穀物類だな、国から価格帯の統制があるから目利きはあまり関係ない。ただ運ぶだけだから、お前等におあつらえ向きだな。嵩張るから商人としても、任せられれば荷台が開いて助かる。お互いに利益のある商品だ」
「分かりました。よろしくお願いします」
「じゃあ、報酬の話だな。運んだ荷の稼ぎの5%でどうだ?」
「これだけ急いで話をまとめようとするあたり、何か理由があると見ました。10%でどうです?」
「穀物の価格は統制があるって言っただろう。10%は利益が出ない。6%だ」
「俺達のマジックバッグは輸送中に中の物が劣化しませんよ。行商人たちから聞いていませんか?9%で」
「いずれ、もっと稼げる荷も任せるつもりだ。7%」
「そう言えば、俺達の提案を『明けの星』にも持ちかけたそうですね。8%」
トマーゾさんがしまったと言った顔をする。
「…分かった。8%だ」
「ありがとうございます。それから、他の大商人にも紹介してくれるんでしたよね」
「ああ、紹介してやるぞ。ワシの商会が懇意にしているとなれば大商人が追従するのは間違いない」
「紹介料は稼ぎの2%でどうです」
「Cランクとは言え、なりたてCランク冒険者の信用を裏打ちするんだ。5%だな」
「トマーゾさんと違って利益率の高いものを任せてくれるかもしれませんよ。3%で」
「お前等が失敗すればワシの信用にも傷が付くんだぞ。4%だ」
「俺達の失敗が少ないのは行商人たちが良く知ってるのでは?3%」
「…」
「…」
「分かった。3%だ。本当に手強くなったな。…本当に商人にならないか」
「俺達は冒険者ですよ」
「…まあ良い。積み荷もだがお前等も安全第一でやるんだぞ」
「なんですか急に、俺達のモットーは堅実ですよ」
「ならいい。『誓約の奇跡』で契約を結ぼう。それから約束通り夕飯を奢ってやるぞ」
『誓約の奇跡』で縛った後、俺達は遠い海からとれた魚料理など貴重な食材をふんだんに使った御馳走を遠慮なくいただいたが、こっそり給仕に頼んで少しずつ包んでお土産にしてもらった。でないとエリルが拗ねそうだったからな。
・・・・・・・・・・
トマーゾさんの商館から帰った俺達はエリルにお茶を出してもらってリビングで寛いでいた。
「なんだかトマーゾさん。必死だったね」
「ギルベルトもそう思ったか?」
「良いんじゃねぇか。俺達の価値に気付いたんだろ」
「ですが、以前の時と大違いでした」
「まあ、話は着いたんだ。これからの話をしよう」
「『明けの星』とのダンジョン攻略の反省を踏まえてだね」
「そうだな。流石の実力者、実りの多い体験だったな」
「そうだね」
「俺達にもまだまだ課題があるってこったな」
「『明けの星』の方々に頼っていた部分ですね」
「そうだ。それを俺達自身が出来るようにならないといけない」
バルトが口火を切って言う。
「俺はエッガーさんのように罠の感知と後、気配の察知を本格的に身に着けたい」
目標はエッガーさんの様だ。エッガーさんはダンジョン攻略中、周りを常に警戒して魔物の少ないルートを選択して進行速度を上げてくれたし、魔物の存在をいち早く察知して奇襲を未然に防いでくれた。
それにダンジョンに仕掛けられた危険な罠も見破って被害を最小限に留めてくれた。
ギルベルトも自分の考えを整理したようだ。
「僕は今まで『フラッシュバン』に頼り過ぎてたね。そのせいで、魔物をひきつけてしまってたよ。『フラッシュバン』に代わる強力な足止めの魔法、それから広範囲の攻撃魔法かな」
「地味だが、『ピック』の魔法も習得してくれると有難いな」
「そうだね。宝箱が出たらお宝手に入れたいよね」
「ああ、バルトが手に入れたような魔法剣が手に入れば戦力アップが期待できる」
それに、俺達が使わない物が手に入ったら冒険者ギルドに引き取ってもらって稼いでも良いんだしな。
続いてユリアが話し出す。
「私は『聖域の奇跡』でしょうか。あの奇跡のお陰で休息が随分楽だった気がします」
『聖域の奇跡』には随分助けられた。特に俺達は2人2交代での警戒だ。起きているにしても魔物の奇襲を防げるなら負担も随分軽くなるだろう。
「後、バルトが盾役をやりやすくなる奇跡が欲しい所だな」
「望む奇跡が授かるとは限りませんが、祈りましょう」
最後は俺だ。
「俺はバルトの魔法剣を解析させて欲しい。魔力を消費せずに『シャープネス』を常時発動できるなら心強い」
「いいぜ貸してやる。その代わり槍の鍛錬しろよ。ユウトは鍛錬が足りないんじゃないか?」
うっ!バルトの正論が痛い。居なくなったハーヴィにも戦闘技術で劣っていたしな。
「分かってるよ。鍛錬は欠かさない」
それから個々の課題とは別の課題が有った。
「パーティの貯金の件だが」
「アランさんが言ってたダンジョン攻略の準備費用だね」
「そうだ。『明けの星』でも1ヶ月ダンジョンに潜るのに2ヶ月の準備期間がかかると言っていた。輸送業で稼ぎも多くなるし、元よりポーション類は俺が作ってるから短縮できても1ヶ月は準備期間を持った方が良いだろう。そこでだ。思い切って稼ぎの半分をパーティの貯金にしないか?」
「そうですね。各人が装備に使うよりも共有の物資を消耗することが増えそうですし」
「『角笛の音』の親父も言ってたな。倒した魔物の素材で装備を作れって」
「ああ、もう店に並んでいる装備だけじゃ、ダンジョン攻略には追いつかなく成って来ている。討伐依頼で素材になる魔物を狩るのも必要だろう」
俺達は頷き今後の方針を定めた。
「所でだな、ダンジョンでバルトが言った事なんだが」
「ん?何か言ったっけ」
「スライムシートを野営に持ち込む事だよ」
「そういえば言ったな」
「あれが有れば短い睡眠でも十分な回復が望めると思う。持っていこう」
「そうですね」
「それからもう一つ野営に持ち込みたい物がある」
俺はお茶のお代わりを持ってきたエリルを呼び寄せながら言った。
「お弁当を持ち込もうと思う」
「「「はぁ?」」」
「俺のマジックバッグは時間停止の機能が付いているだろ。食事が美味ければダンジョンの攻略での士気が上がるんじゃないか?」
「うーん…」
「今まで野営のパン粥で疑問を持たなかったね」
「そうですね…」
「非常時の食料として個々が持つのは必要だろう。だが、ダンジョン内で出来立ての美味いエリルの飯が食えると思えばどうだ?」
俺達の話の内容は分かってないようだが、料理が美味いと褒められてエリルが胸を張っている。
「「「確かに…」」」
全員の視線を受けてエリルがたじろぐ。
「エリルは大変だと思うが、俺が家にいるときに出来るだけ弁当を作って渡してくれないか?もちろん材料費は今までと同じで俺達が出すから」
「う、うん」
エリルがたじろぎながらも了承してくれた。
「じゃあ、頼む」
・・・・・・・・・・
だが、後日エリルの不満が爆発した。
「あーもー、作っても作っても終わらない!お給料あげてユウト!」
俺がパーティハウスに居るって事は、みんなも居る訳で。エリルとしては俺達が留守にしている時より忙しいのだ。
「分かった分かった。毎日、銀貨1枚と銅貨50枚だ」
「それから作り置きの冷凍シチューとかでも良いよね?あれなら暇なときに作っておけるから。お鍋は持っていくんでしょ?」
「分かったよ。鍋で温めれば良いだけの料理もありだ」
「シャーベットも持っていく?」
「…頼む」
いずれにしても、俺達のダンジョン攻略の飯の質が大幅に向上する事になった。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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