61.疫病:その1
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次のダンジョン攻略に向けて資金を貯めるため、しばらくゲーランの街で活動するという『明けの星』と別れ。夕方になって俺達はカラドの街に帰ってきたのだが。
「カラドの街では、今疫病が広がっています。入るのあれば止めませんが覚悟してください」
衛兵にそんな警告を受けてしまった。
「疫病ですか…どのような事になっているのでしょうか」
「嘔吐や下痢で衰弱して死ぬ者が出ていますが『癒しの奇跡』では治りません。教会でも悪霊の仕業として魔払いの祈祷をしていますが、あまり効果は無いようです」
「教会でも対処できていないのですか…」
この世界では病は教会の領分だ。ユリアとしては複雑な心境なのだろう。だが俺は焦っていた。
「エリルが心配だ。早くパーティハウスに帰ろう」
「おい、疫病が怖くないのか」
「そうは言っても見捨てられないだろ」
「僕もそう思うよ」
「『治癒の奇跡』や『賦活の奇跡』が効くかもしれません。帰りましょう」
俺達は急いで、家路についた。
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「おかえり」
「ああ…ただいま。エリル体調は問題ないか?」
「疫病の事聞いたんだね。大丈夫だよ」
「そうか…良かった…」
エリルはいつものように俺達を迎え入れてくれた。だが、エリルに異変が起きたのは一緒に夕食をとろうとした時だった。料理を運んでくる途中にエリルがいきなり倒れたのだ。
「エリル!」
倒れたエリルが嘔吐している。すぐさまユリアが『治癒の奇跡』と『賦活の奇跡』を使う。『賦活の奇跡』をかけると僅かに表情が和らいだ。
「ごめんね。迷惑かけて…」
「今はそんな事言ってる場合じゃない。いつからだ?」
「分んない」
なんとかエリルを助けないと、中級解毒ポーションを飲ませると少し楽になったようだが、エリルを画像検索すると『状態異常:疾病』のままだ。根本的には治っていない。幸いまだ衰弱しているようには見えないが、脱水症状だろうか、唇が乾いているように見える。俺はエリルの嘔吐物を画像検索にかける。ズームしていくとなんだか粒が連なったような物が沢山見える。詳細検索をかけると
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生物の体内で増殖した微細な生物
毒を生成して嘔吐や下痢を引き起こす
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病原菌なんじゃないかコレ。急いで台所に駆け込むと、井戸から汲んだ水も画像検索するが同様の物がウヨウヨ見える。水が汚染されてる!
だが、原因が細菌なら煮沸すれば死ぬんじゃないか?俺は鍋に水を入れると竈にかけて湯を沸かす。沸騰したお湯を画像検索すれば、先ほどの細菌は見えない。
鍋に塩と砂糖を入れた湯冷ましを作る。たしか命の水とか言うヤツだ。水だけでは吸収が悪いから塩を入れて、カロリーを摂らせるために砂糖を入れる。配分なんて分からない。だけど、やらないよりマシだ!
煮沸消毒したコップに入れて急いでリビングに戻る。
「みんな、水が汚染されている。しばらく野営で残ってる食料をとるんだ。水は必ず沸騰させてから飲んでくれ。ユリア、エリルを診てやってくれるか?」
ユリアに湯冷ましの入ったコップを渡しながら頼む。病原菌をやっつける薬学の知識なんて無い。エリルの体力次第になるがとにかく出来る事は全てやる。
「台所の鍋に同じ湯冷ましがある。少しずつ飲ませて『賦活の奇跡』で体力を保ってやってくれ。後、毛布で包んで体温もだ。嘔吐物なんかを拭いた布は煮沸するか、焼き捨ててくれ」
「わ、分かりました」
「錬金術師ギルドに行ってくる」
俺はエリルの嘔吐物を匙で掬って小瓶に採取すると錬金術師ギルドに向かった。
・・・・・・・・・・
「ヒルデガード婆さんに取り次いでくれ至急だ!」
俺は錬金術師ギルドに着くなり受付に礼儀も放りだして言った。
「分かりました。こちらです」
すぐにヒルデガード婆さんの研究室に通される。
「来てくれる気がしてたよ。どう見る?」
婆さんも直截的だ。
「毒を出す目に見えない生物が水を汚染している。一度沸騰させれば死滅するが、食器なんかにも付着している。一度煮沸する必要がある」
「目に見えないのかい…証明が難しいね」
「患者の嘔吐物だ。その生物がウヨウヨいる。『成分抽出』で濃縮して溶かした水と、沸騰させた湯冷ましを何か動物に飲ませて比べたらどうだ?」
嘔吐物を採取した瓶を示しながら提案する。
「そうだね、それで行こう。私は証明しに教会に行くよ」
「俺は水源を探す。俺にしか出来ない。カラドの街の水源を汚染している物を取り除く」
「冒険者ギルドで聞くのが良いだろうね」
「原因を焼き払う物が必要だ。前に言ってた燃える水をくれ」
「分かったよ。事務官に言っておくから持っていきな」
「教会は任せた。婆さん」
「そっちこそ抜かるんじゃないよ。それから原因を見つけたのは錬金術師ギルドって事にしておきな。一介の冒険者じゃ信じてもらえないかもしれないからね」
俺は燃える水を預かり、その足で冒険者ギルドに向かう。
「副ギルド長のアンドルーさんを至急頼みます」
「わ、分かりましたお待ちください」
俺の血相に、受付のお姉さんがすぐさまアンドルーさんの執務室に駆け込むと了解をとって案内される。
「今、カラドの街で広がっている疫病の事で話があります」
「聞こうか」
「錬金術師ギルドで相談してきました。おそらく原因は水源が汚染されている事にあります」
「分かった。おい!地図を持って来い」
「は、はい」
受付のお姉さんが執務机に地図を広げる。
「カラドの街の水源はここだ」
アンドルー副ギルド長が地図の一点を指し示す。郊外の森の脇、山から下った所だ。
「どうやって水源の汚染を止める?」
「錬金術師ギルドで燃やせば解決すると分かりました。燃える水を預かっていますので原因を見つけて燃やします」
「分かった。今からパーティを招集している場合じゃなさそうだ。頼めるか?」
「元よりそのつもりです」
「頼む」
俺は冒険者ギルドを後にすると。再びパーティハウスに帰る。
「エリルの様子はどうだ?」
「さっきより大分落ち着きました」
「ユリアは引き続きエリルを診ててくれ。バルト、ギルベルト。水源を汚染している原因を取り除きに行く。付き合ってくれ」
「分かった(よ)」
俺は、マップを表示してアンドルーさんに教えてもらった水源に向かって遡る。
完全に日が落ちていたがギルベルトが『トーチ』で前を照らしている。
「あれじゃないか?」
水源の程近くにゴブリンの死骸が折り重なっている。何か食べようとしたのかゴブリンとは別の引き裂かれた見慣れない死骸がある。
「ギルベルト、『トーチ』を明るくしてくれないか?」
「分かったよ」
俺は画像検索でゴブリンの死骸を拡大して確認する。エリルの嘔吐物と同じ細菌がウヨウヨしている。上流を確認するが、そちらは汚染されていなかった。この死骸が汚染源とみて間違いない様だ。
「ゴブリンの死骸にこの燃える水を撒いてくれ。できるだけ万遍無くな」
バルトとギルベルトに燃える水の入った樽を渡すと、俺も燃える水を撒く。水と言っていたが少し粘り気があって独特の匂いがする。
「撒き終わったよ」
「離れてくれ。松明を投げ入れる」
俺は火入れから松明に火を移すと、松明をゴブリンの死骸に投げ込んだ。死骸が勢いよく燃えだす。
「随分、勢いよく燃えるな」
「錬金術師ギルドで作ったそうだ」
燃える水はかなりの時間燃え続けたが、やがて鎮火する。おれは再び画像検索すると、細菌が死滅している事を確認する。既に街に流れ込んだ水はどうしようもないが、これ以上汚染が広がることは無いだろう。
「水の汚染は解決したようだ」
「そうか…」
「帰ろうよ」
辺りは既に真っ暗になっており、みんな疲労の色を濃くしていた。
俺達はパーティハウスに帰ると交代でエリルの看病をする。ヒルデガード婆さんは教会を説得できただろうか?これ以上、死者が出ないと良いのだが。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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